今回は平成24年度 理論科目 A問題3を解説します。環状鉄心に巻いたコイルの自己インダクタンス・相互インダクタンス・合成インダクタンスについて、空欄(ア)〜(オ)を埋める問題です。
磁気抵抗をℜ=ℓ/(μAc)とすると、自己インダクタンスはL=N2/ℜ=μAcN2/ℓです。相互インダクタンスの大きさは|M|=k√(L1L2)(0≦k≦1)、和動接続ではLa=L1+L2+2Mとなります。
平成24年度 理論科目 A問題3:問題文と選択肢
まずは、平成24年度に実際に出題された問題文と選択肢を確認しましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成24年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題3
電験3種 理論科目 【電磁気(磁気・電磁力)】 平成24年度 A問題3
次の文章は、コイルのインダクタンスに関する記述である。ここで、鉄心の磁気飽和は、無視するものとする。均質で等断面の環状鉄心に被覆電線を巻いてコイルを作製した。このコイルの自己インダクタンスは、巻数の(ア)に比例し、磁路の(イ)に反比例する。同じ鉄心にさらに被覆電線を巻いて別のコイルを作ると、これら二つのコイル間には相互インダクタンスが生じる。相互インダクタンスの大きさは、漏れ磁束が(ウ)なるほど小さくなる。それぞれのコイルの自己インダクタンスをL1〔H〕、L2〔H〕とすると、相互インダクタンスの最大値は(エ)〔H〕である。これら二つのコイルを(オ)とすると、合成インダクタンスの値は、それぞれの自己インダクタンスの合計値よりも大きくなる。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) 1乗 断面積 少なく L1+L2 差動接続 (2) 2乗 長さ 多く L1+L2 和動接続 (3) 1乗 長さ 多く √(L1L2) 和動接続 (4) 2乗 断面積 少なく L1+L2 差動接続 (5) 2乗 長さ 多く √(L1L2) 和動接続
出題のポイント:(エ)の「相互インダクタンスの最大値」が最大の分かれ目
5つの空欄のうち、3つの選択肢が(エ)を \(L_1+L_2\) としています。正しくは \(\sqrt{L_1L_2}\)——ここを知っているかどうかで、一気に3肢を消せます。
\(L_1+L_2\) が誤りだと気づく方法もあります。相加相乗平均の関係から \(\sqrt{L_1L_2}\le(L_1+L_2)/2\)——つまり \(L_1+L_2\) は正しい上限の2倍以上です。「上限としてゆるすぎる」と感じ取れれば十分です。

空欄を1つずつ埋める
| 空欄 | 答え | 根拠 |
| (ア) | 2乗 | \(L=\mu A_cN^2/l\)。巻数の2乗に比例 |
| (イ) | 長さ | 磁路長 \(l\) が分母。断面積 \(A_c\) は分子 |
| (ウ) | 多く | 漏れ磁束が多い=相手を貫く磁束が減る |
| (エ) | \(\sqrt{L_1L_2}\) | \(M=k\sqrt{L_1L_2}\) で \(k\le1\) |
| (オ) | 和動接続 | \(L_1+L_2+2M\) は合計より大きい |
(ア)(イ)はインダクタンスの式そのものです。\(L=\mu A_cN^2/l\) を書き出せば、\(N\) は分子で2乗、\(l\) は分母、\(A_c\) は分子と一目で分かります。(1)(3)の「1乗」と(4)の「断面積」はここで消えます。
(ウ)は日本語の読み取りです。漏れ磁束とは「相手のコイルを貫かずに逃げてしまう磁束」——これが多いほど、相互インダクタンスは小さくなります。素直な関係です。
(オ)は「合計値より大きくなる」という条件から決まります。\(L_1+L_2+2M\) は合計より \(2M\) だけ大きいので和動接続です。差動なら小さくなります。


選択肢の消し方:(エ)だけで3肢が消える
| (ア) | (イ) | (エ) | (オ) | 判定 | |
| (1) | 1乗 × | 断面積 × | \(L_1+L_2\) × | 差動 × | すべて誤り |
| (2) | 2乗 | 長さ | \(L_1+L_2\) × | 和動 | (エ)だけ誤り(惜しい) |
| (3) | 1乗 × | 長さ | \(\sqrt{L_1L_2}\) | 和動 | (ア)だけ誤り(惜しい) |
| (4) | 2乗 | 断面積 × | \(L_1+L_2\) × | 差動 × | 4か所誤り |
| (5) | 2乗 | 長さ | \(\sqrt{L_1L_2}\) | 和動 | ◎ 正解 |
(2)と(3)が1か所違いの惜しい肢です。(2)は(エ)、(3)は(ア)——「\(N\) の2乗」と「\(M\) の上限は \(\sqrt{L_1L_2}\)」の2点を確実に押さえれば正解できます。
⚠️ よくある間違い
「相互インダクタンスの最大値は \(L_1+L_2\)」は明らかに大きすぎます。\(L_1=L_2=L\) の場合を考えると、正しい上限は \(L\) なのに \(2L\) になってしまいます。簡単な数値を入れてみるのが、この種の誤りを見抜く近道です。
💡 覚え方
「\(M\le\sqrt{L_1L_2}\)」は結合係数の定義そのものです。\(k=M/\sqrt{L_1L_2}\le1\) を移項しただけ——結合係数を知っていれば導けます。
⏱️ 本番での進め方
❶ \(L=\mu A_cN^2/l\) を余白に書く。(ア)(イ)が同時に決まる。
❷ (エ)は \(\sqrt{L_1L_2}\)。ここだけで3肢が消える最重要ポイント。
❸ 和動は「大きくなる」。日本語と式が一致している。
❹ 簡単な数値で検算。\(L_1=L_2=1\) なら \(M\le1\)。\(L_1+L_2=2\) は明らかに過大。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
深掘り:なぜ \(M\) の上限が \(\sqrt{L_1L_2}\) なのか
相互インダクタンスに上限があるのは、「片方のコイルが作った磁束のうち、相手を貫く分は全体を超えられない」という当たり前の事実から来ています。
エネルギーの観点からも証明できます。2つのコイルに電流を流したときの磁気エネルギーは \(W=\frac12L_1I_1^2+\frac12L_2I_2^2\pm MI_1I_2\) です。エネルギーは必ずゼロ以上でなければならないので、どんな電流の組み合わせでも負にならない条件が必要になります。
その条件が \(M^2\le L_1L_2\)——つまり \(M\le\sqrt{L_1L_2}\) です。もし \(M\) がこれを超えると、エネルギーが負になる電流の組み合わせが存在してしまい、エネルギー保存則に反します。
⚠️ よくある間違い
\(M\) の上限を \(L_1+L_2\) や \((L_1+L_2)/2\) と覚えていると誤ります。\(\sqrt{L_1L_2}\)(相乗平均)が正解で、相加平均 \((L_1+L_2)/2\) より必ず小さい値です。\(L_1=L_2=L\) のときだけ両者が一致して \(L\) になります。
和動・差動と合成インダクタンスの範囲
2つのコイルを直列につないだときの合成インダクタンスは、\(k\) の値によって決まった範囲に収まります。
| 接続 | 合成インダクタンス | \(k=0\)(無結合) | \(k=1\)(完全結合) |
| 和動 | \(L_1+L_2+2M\) | \(L_1+L_2\) | \((\sqrt{L_1}+\sqrt{L_2})^2\) |
| 差動 | \(L_1+L_2-2M\) | \(L_1+L_2\) | \((\sqrt{L_1}-\sqrt{L_2})^2\) |
完全結合で \(L_1=L_2=L\) のとき、差動接続の合成インダクタンスはゼロになります。2つのコイルの磁束が完全に打ち消し合って、外から見るとインダクタンスがない状態です。
これは実用されている性質でもあります。無誘導巻線(バイファイラ巻き)は、往復の線を密着して巻くことで \(k\approx1\) の差動接続を作り、インダクタンスをほぼゼロにした抵抗器を実現します。高周波でも純抵抗として振る舞わせたいときに使われます。
💡 覚え方
「和動と差動の差は \(4M\)」——\((L_1+L_2+2M)-(L_1+L_2-2M)=4M\) です。2通りの接続で測って差を4で割れば \(M\) が求まる——これが相互インダクタンスの標準的な測定法になっています。
まとめ
| 自己インダクタンス | L=μAcN2/ℓ:Nの2乗に比例、磁路長ℓに反比例 |
| 相互インダクタンス | |M|=k√(L1L2)、0≦k≦1。漏れ磁束が多いほど小さい |
| 最大値 | k=1のとき√(L1L2) |
| 直列接続 | 和動:+2M、差動:−2M |
| 空欄/答え | 2乗・長さ・多く・√(L1L2)・和動接続、答え(5) |
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