交流回路でつまずく人の多くは、いきなり式を立てようとしています。ベクトル図を先に描けば、式は図をなぞるだけで出てきます。
そしてベクトル図で迷う原因はほぼ1つ、何を基準(横軸)に取るか決めていないことです。基準の決め方には型があります。
基準の決め方——これだけ
直列回路 → 電流を基準に取る
並列回路 → 電圧を基準に取る
理由は単純で、共通な量を基準にすると図が描けるからです。
直列回路はどの素子にも同じ電流が流れます。だから電流を横軸に置いて、各素子の電圧をそこから起こします。並列回路はどの素子にも同じ電圧が掛かるので、電圧を横軸に置いて各枝の電流を起こします。
素子ごとの位相関係
| 素子 | 電圧と電流の関係 | 図での向き |
| 抵抗 R | 同相 | 電流と同じ向き |
| コイル L | 電圧が電流より90度進む | 上向き(+j) |
| コンデンサ C | 電圧が電流より90度遅れる | 下向き(−j) |
💡 覚え方
「エリー・アイシー」で覚えます。
ELI:L では E(電圧)が I(電流)より先=進む
ICE:C では I(電流)が E(電圧)より先=電流が進む
英語圏で定番の語呂ですが、日本語で覚えるより混ざりません。
RL直列回路を描いてみる
⏱️ 本番での進め方
1. 電流 \(\dot{I}\) を横向きに描く(直列なので電流が基準)
2. 抵抗の電圧 \(\dot{V}_R = R\dot{I}\) を電流と同じ向きに
3. コイルの電圧 \(\dot{V}_L = jX_L\dot{I}\) を90度上向きに
4. 2つを足したものが電源電圧 \(\dot{V}\)
図ができたら、あとは直角三角形です。
電流は電圧より遅れます(誘導性)。コンデンサに置き換えれば進みます(容量性)。この「遅れ/進み」は力率改善の問題で必ず問われます。
電力の三角形
電圧の三角形の各辺に電流 \(I\) を掛けると、そのまま電力の三角形になります。
| 量 | 記号 | 式 | 単位 |
| 有効電力 | P | \(VI\cos\theta\) | W |
| 無効電力 | Q | \(VI\sin\theta\) | var |
| 皮相電力 | S | \(VI\) | V·A |
⚠️ よくある間違い
力率を足し算・平均してはいけません。
複数の負荷の合成力率を求めるときは、力率どうしを平均するのではなく、P と Q をそれぞれ足してから\(\cos\theta = P/\sqrt{P^2+Q^2}\) を計算します。これは法規の施設管理計算でも頻出の落とし穴です。
力率改善はベクトル図で一目で分かる
遅れ力率の負荷にコンデンサを並列に入れると、コンデンサが進みの無効電力を出してQ を打ち消します。P は変わらないので、S が縮んで力率が上がります。
この式も、電力の三角形を2つ重ねて描けば「縦の差=入れるべき容量」と見えます。覚えるより描くほうが速いくらいです。
三相でもやることは同じ
三相回路も一相分に落とせば単相と同じです。Δ負荷なら \(Z_Y = Z_\Delta/3\) でYに直し、一相分のベクトル図を描いて解き、最後に3倍します。
√3の扱いは三相交流の√3はどこから来るのかにまとめました。
▶ この論点が出た過去問
・【理論】平成18年度 A問題9(RL直列回路の電流の位相)
・【理論】平成26年度 A問題8(電源電流が最小となるときの力率)
・【理論】平成22年度 A問題13(L・r直列を等価な並列回路に変換)
・【法規】平成24年度 B問題12(力率改善のベクトル図とコンデンサ容量)
・【法規】平成18年度 B問題12(有効・無効を別々に合成して合成力率)
共振はベクトル図で見ると分かりやすい
直列共振は、\(X_L\) と \(X_C\) が打ち消し合ってインピーダンスが R だけになる状態です。ベクトル図では、上向きの \(V_L\) と下向きの \(V_C\) が同じ長さになって消えます。
直列と並列で「最大/最小」が逆になるのが混乱のもとですが、これもベクトル図で追えます。直列は電圧を足すので打ち消して小さくなり、並列は電流を足すので打ち消して電流が小さくなる——どちらも「打ち消す」のは同じです。
描くときの実務的なコツ
| 場面 | コツ |
| 長さの比が極端なとき | 正確な縮尺は不要。向きと大小関係が合っていればよい |
| 素子が3つ以上 | 同種をまとめる。\(X = X_L – X_C\) にしてから描く |
| 三相 | 一相分だけ描く。三相のまま描かない |
| 電力の問題 | 電圧の三角形ではなく最初から電力の三角形を描く |
| 力率改善 | 改善前後の三角形を重ねて描く。縦の差が必要な容量 |
💡 覚え方
試験ではきれいな図を描く必要はありません。直角が直角に見えて、どちらが長いか分かれば十分です。1つの図に30秒以上かけないこと。図は答えではなく、式を立てるための道具です。
三相の扱いは三相交流の√3はどこから来るのかを参照してください。
ベクトル図から記号法(複素数)へ
ベクトル図が描けるようになったら、そのまま複素数の計算に橋渡しできます。\(j\) は「90度回す」という意味しかありません。
| ベクトル図での向き | 複素数での表し方 | 素子 |
| 右向き(基準) | 実数部 | 抵抗 R |
| 上向き(90度進み) | \(+j\) | 誘導性リアクタンス \(jX_L\) |
| 下向き(90度遅れ) | \(-j\) | 容量性リアクタンス \(-jX_C\) |
💡 覚え方
電験3種では\(\tan^{-1}\)を電卓で計算する必要はほとんどありません(関数電卓は持ち込めません)。力率が問われるときは \(\cos\theta = R/Z\) の形で出るので、角度を出さずに比のまま答えるのが定石です。
電卓の条件は電卓の選び方で確認できます。
まとめ
・直列は電流基準、並列は電圧基準
・R は同相、L は電圧が90度進む、C は電圧が90度遅れる
・図ができたら直角三角形。\(Z=\sqrt{R^2+X^2}\)、\(\cos\theta = R/Z\)
・電圧の三角形に \(I\) を掛ければ電力の三角形
・力率は平均しない。P と Q を足してから求める
・力率改善は Q を打ち消す操作。\(Q_C = P(\tan\theta_1-\tan\theta_2)\)

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