今回は平成28年度 理論科目 A問題4を解説します。磁極N・Sの間に中空球体鉄心を置いたときの磁束の通り方と、内部(中空部分)の点Aの磁束密度について、空欄(ア)〜(ウ)を埋める問題です。
中空球体鉄心は空気より透磁率が大きく、磁気抵抗が小さいため、磁束は鉄心中を通ります。その結果、中空部分の磁束密度は極めて低くなります。この磁束を回り込ませる作用が磁気遮へいです。有限の透磁率では内部磁束密度を厳密な0とはせず、「極めて低い」と判断します。
平成28年度 理論科目 A問題4:問題文と選択肢
まずは、平成28年度に実際に出題された問題文と選択肢を確認しましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成28年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題4
電験3種 理論科目 【電磁気(磁気・電磁力)】 平成28年度 A問題4
図のように、磁極N、Sの間に中空球体鉄心を置くと、NからSに向かう磁束は、(ア)ようになる。このとき、球体鉄心の中空部分(内部の空間)の点Aでは、磁束密度は極めて(イ)なる。これを(ウ)という。ただし、磁極N、Sの間を通る磁束は、中空球体鉄心を置く前と置いた後とで変化しないものとする。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(ウ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (1) 鉄心を避けて通る 低く 磁気誘導 (2) 鉄心中を通る 低く 磁気遮へい (3) 鉄心を避けて通る 高く 磁気遮へい (4) 鉄心中を通る 低く 磁気誘導 (5) 鉄心中を通る 高く 磁気誘導

出題のポイント:磁束は「通りやすい道」を選ぶ
鉄は空気より圧倒的に磁束を通しやすい——この一点がすべてです。磁束は鉄心の殻を回り込み、中空部分にはほとんど入りません。

空欄を1つずつ埋める
(ア)磁束は 鉄心中を通る ようになる
電流が抵抗の小さい経路を選ぶのと同じです。鉄心と中空部が並列になっていると考えると、磁気抵抗の小さい鉄心側にほとんどの磁束が流れます。
| 経路 | 比透磁率 \(\mu_r\) | 磁気抵抗の相対値 | 流れる磁束 |
| 鉄心(殻) | 数百〜数千 | 非常に小さい | ほぼ全部 |
| 中空部(空気) | 1 | 鉄心の数百〜数千倍 | ごくわずか |
(イ)中空部分の磁束密度は極めて 低く なる
磁束が殻を回り込むので、内部にはほとんど到達しません。したがって点Aの磁束密度は極めて低くなります。
⚠️ よくある間違い
問題文が「極めて低く」と書いて「零に」と書いていないことに注目してください。鉄の透磁率は有限(無限大ではない)ので、わずかな磁束は中空部にも入り込みます。完全にゼロにはできない——これが磁気遮へいの特徴です。
(ウ)これを 磁気遮へい という
透磁率の大きい材料で囲んで、内部を磁界から守る——これが磁気遮へいです。精密機器や計測器の保護に使われます。
「磁気誘導」は別の現象です。磁界の中に置かれた磁性体が磁化されることを指します。磁気誘導は原因、磁気遮へいは結果——という関係にあります。


静電遮へいとの違い:ここが繰り返し問われる
| 静電遮へい | 磁気遮へい | |
| 守る対象 | 電界 | 磁界 |
| 使う材料 | 導体 | 透磁率の大きい材料(鉄など) |
| 必要な処置 | 接地が必要 | 接地は不要 |
| 効果 | 内部の電界を完全に0にできる | 0にはできない(極めて低くなるだけ) |
| 原理 | 導体内部の電界が0(静電平衡) | 磁気抵抗の小さい経路へ磁束を逃がす |
最大の違いは「完全にできるかどうか」です。静電遮へいは接地すれば完全ですが、磁気遮へいは透磁率が有限なので原理的に不完全です。
「磁気遮へいには接地が必要」と書かれていたら誤り、「静電遮へいは接地しなくてもよい」と書かれていたら誤り——この2つは定番のひっかけです。
💡 覚え方
「電気は逃がす、磁気は迂回させる」と覚えてください。静電遮へいは電荷を接地へ逃がす、磁気遮へいは磁束を殻に回り道させる。やっていることが根本的に違うので、必要な処置も効果も違います。
選択肢の消し方
| (ア) | (イ) | (ウ) | 判定 | |
| (1) | 鉄心を避けて通る × | 低く | 磁気誘導 × | 2か所誤り |
| (2) | 鉄心中を通る | 低く | 磁気遮へい | ◎ すべて正しい |
| (3) | 鉄心を避けて通る × | 高く × | 磁気遮へい | 2か所誤り |
| (4) | 鉄心中を通る | 低く | 磁気誘導 × | 1か所誤り |
| (5) | 鉄心中を通る | 高く × | 磁気誘導 × | 2か所誤り |
(ア)「鉄心中を通る」だけで(1)(3)が消え、(ウ)「磁気遮へい」で(4)(5)も消えます。実質2ステップで正解に届きます。
いちばん惜しいのは(4)です。(ア)(イ)は合っているのに、(ウ)を「磁気誘導」としてしまう——用語の区別だけで落とす典型的なパターンです。
⏱️ 本番での進め方
❶ 「磁束は通りやすい道を選ぶ」と唱える。(ア)はこれで即決。
❷ 「極めて低く」と「零に」の違いに注意。磁気遮へいは完全にはならない。
❸ 遮へい=守ること、誘導=磁化されること。用語をセットで整理しておく。
❹ 静電遮へいとの対比で覚える。接地の要否と、完全にできるかどうかが違う。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
実際の磁気遮へい:材料と多重構造
磁気遮へいは実務でも精密機器の保護に欠かせない技術です。
| 材料 | 比透磁率の目安 | 使われ方 |
| 一般的な鉄 | 数百〜数千 | 変圧器の外箱、大まかな遮へい |
| けい素鋼板 | 数千〜1万 | 鉄心、中程度の遮へい |
| パーマロイ(ニッケル鉄合金) | 数万〜十万 | 計測器・医療機器の高精度な遮へい |
比透磁率が高いほど磁気抵抗が小さく、磁束を効率よく殻へ逃がせます。ただしパーマロイは磁束密度が高いと飽和してしまうため、強い磁界の場所では使えません。
そこで実務では多重シールド——外側に飽和しにくい鉄、内側にパーマロイという構成が使われます。外側で磁界を弱め、内側で仕上げるという役割分担です。
⚠️ よくある間違い
「透磁率が高い材料ほど常に遮へい効果が高い」とは限りません。磁気飽和すると透磁率が急落し、遮へい効果が失われます。強い磁界には飽和磁束密度の高い材料が必要——ここが静電遮へいと決定的に違う点です。
なぜ静電遮へいは完全にできるのか
導体の中に自由電子があるからです。外部電界がかかると電子が瞬時に移動して、内部の電界を打ち消す向きに電荷が並びます。打ち消しきるまで電子は動き続けるので、最終的に内部の電界は厳密にゼロになります。
磁界にはこれに相当する仕組みがありません。磁荷(磁気単極子)が存在しないので、内部の磁界を打ち消すように並ぶものがないのです。だから「回り道をさせて減らす」ことしかできず、完全にはゼロにできません。
| 静電遮へい | 磁気遮へい | |
| 打ち消す仕組み | 自由電子が移動して電荷が並ぶ | 存在しない(磁荷がないため) |
| できること | 内部の電界を厳密に0にする | 磁束を迂回させて減らす |
| 限界 | 接地しないと外部へ影響が漏れる | 磁気飽和すると効果が落ちる |
「なぜ磁気遮へいは不完全なのか」を説明できると、この分野の理解は一段深まります。答えは「磁気単極子が存在しないから」——これが本問の(イ)が「零に」ではなく「極めて低く」と書かれている本当の理由です。
まとめ
| (ア) | 鉄心中を通る |
| (イ) | 低く |
| (ウ) | 磁気遮へい |
| 答え | (2) |
▼あわせて解きたい関連問題
・磁気遮へいの関連問題:【理論】令和5年度下期A問題3

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