今回は平成20年度 理論科目 A問題10を解説します。RL直列回路でスイッチを閉じた直後の、電流・抵抗の端子電圧・コイルの端子電圧の時間変化の組合せを選ぶ問題です。
投入直後はコイルが電流を妨げて電流0、時間とともにコイルが短絡に近づき電流はE/Rへ増加します。電流に伴い抵抗電圧は上昇、コイル電圧はEから低下します。
平成20年度 理論科目 A問題10:問題文と選択肢
言葉の組合せを選ぶ問題ですが、実は物理を考える前に3つの選択肢が構造だけで消せます。使うのはオームの法則とキルヒホッフの電圧則だけです。まずは問題文を確認しましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題10
電験3種 理論科目 【電気回路(過渡現象)】 平成20年度 A問題10
開いたスイッチS、抵抗R〔Ω〕、インダクタンスL〔H〕のコイル、直流電源E〔V〕からなる直列回路がある。スイッチSを閉じた直後の過渡現象において、回路に流れる電流、抵抗の端子電圧、コイルの端子電圧の時間的変化として正しい組合せを、次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
回路電流 抵抗電圧 コイル電圧 (1) 大きくなる 低下する 上昇する (2) 小さくなる 上昇する 低下する (3) 大きくなる 上昇する 上昇する (4) 小さくなる 低下する 上昇する (5) 大きくなる 上昇する 低下する

出題のポイント:計算せずに、3つの選択肢を「構造」で消せる
この問題は言葉の組合せを選ぶだけですが、物理を考える前に、式の形だけで3つの選択肢が消せます。使うのは次の2つの制約です。
| 制約 | 式 | 意味 |
| ① オームの法則 | \(v_R=iR\) | 電流と抵抗電圧は必ず同じ向きに動く(Rは定数) |
| ② キルヒホッフの電圧則 | \(v_R+v_L=E\) | 和が一定だから、一方が上がれば他方は必ず下がる |
この2つは回路の中身がどうであれ絶対に成り立つ関係です。過渡現象かどうかすら関係ありません。だからこそ、強力な足切り条件になります。

実際に3つ消してみる
5つの選択肢を、上の2つの制約に照らして機械的に判定しました。
| 選択肢 | 電流 | 抵抗電圧 v_R | コイル電圧 v_L | 判定 |
| (1) | 大きくなる | 低下する | 上昇する | ①違反(iが増えるのにv_Rが減る) × |
| (2) | 小さくなる | 上昇する | 低下する | ①違反(iが減るのにv_Rが増える) × |
| (3) | 大きくなる | 上昇する | 上昇する | ②違反(両方上がったら和がEを超える) × |
| (4) | 小さくなる | 低下する | 上昇する | 構造的にはOK(残る) |
| (5) | 大きくなる | 上昇する | 低下する | 構造的にはOK(残る) |
ここまで物理をひとつも使っていません。それでも5択が2択になりました。あとは「電流が増えるのか減るのか」だけを決めれば終わりです。
問題の解説:コイルは電流の変化に逆らう
STEP1 t=0での値を決める
スイッチを閉じる直前、コイルに流れていた電流は0 Aです。そしてコイル電流は瞬時に変化できません。
電流が飛べば \(di/dt=\infty\) → 無限大の電圧が必要
コイルは一瞬だけ「開放」と同じ
電源電圧の全部がコイルにかかる
STEP2 t=∞での値を決める
Lは短絡になり、Rだけが電流を決める
コイルの電圧はゼロに
STEP3 向きを確定する
| 量 | t=0 | t=∞ | 向き |
| 電流 i | 0 | E/R | 大きくなる |
| 抵抗電圧 v_R | 0 | E | 上昇する |
| コイル電圧 v_L | E | 0 | 低下する |

数値での確認(E=100 V、R=10 Ω、L=1 H、τ=0.1 s):t=0で \(i=0,\;v_R=0,\;v_L=100\)。t=τで \(i=6.32,\;v_R=63.2,\;v_L=36.8\)。t=∞で \(i=10,\;v_R=100,\;v_L=0\)。どの時刻でも \(v_R+v_L=100\;\mathrm{V}\) ✓



残った(4)は何の回路の答えなのか
構造的に生き残った(4)(電流が小さくなる・v_Rが低下・v_Lが上昇)は、デタラメな選択肢ではありません。実際にこうなる状況が存在します。
| 状況 | 電流 | v_R | L/C の電圧 | 本問との違い |
| 本問:RL直列にスイッチ投入 | 0→E/R(増) | 増 | E→0(減) | — |
| RC直列にスイッチ投入 | E/R→0(減) | 減 | 0→E(増) | Cに置き換えると(4)の形 |
| RL回路の電源を外して還流 | I₀→0(減) | 減 | — | 電流が減る側 |
つまり(4)はRC回路の答えです。「LとCのどちらの話だったか」を取り違えた人がぴったり着地します。この2つは互いの誤答として使い回されるので、必ず対で覚えてください。
| コイル L | コンデンサ C | |
| 急変できない量 | 電流 | 電圧 |
| スイッチ投入直後(初期電流・初期電荷が0なら) | 開放と同じ | 短絡と同じ |
| 直流定常状態 | 短絡 | 開放 |
| 時定数 | \(\tau=L/R\) | \(\tau=RC\) |
| 蓄積エネルギー | \(\frac12LI^2\)(電流で決まる) | \(\frac12CV^2\)(電圧で決まる) |
コイルが「電流の変化に逆らう」ことの実感
この性質はレンツの法則そのものです。コイルに流れる電流が増えようとすると磁束が増え、その変化を打ち消す向きに誘導起電力が生じる——結果として電流の増加にブレーキがかかります。
身近な例では蛍光灯の安定器があります。放電が始まると電流が急増しようとしますが、直列のコイルがそれを抑えて適正値に保ちます。コイルは「電流の慣性」——重い物が急に動き出さないのと同じ振る舞いです。
逆に電流を急に止めようとすると危険です。\(v_L=L\,di/dt\) で \(di/dt\) が負の大きな値になると、コイルは巨大な逆電圧を発生します。これがリレーやモータのスイッチを切ったときに接点で火花が飛ぶ原因で、対策として還流ダイオードを並列に入れて電流の逃げ道を作ります。
「投入直後にコイルへ全電圧がかかる」という本問の結論も、同じ性質の裏返しです。電流を通したくないコイルが、電源電圧を全部引き受けて踏ん張っている状態と言えます。
本番で使える時間短縮テクニック
⏱️ 本番での進め方
① 言葉の組合せ問題は、まず\(v_R=iR\) で「電流とv_Rが逆向き」の選択肢を消す
② 次に\(v_R+v_L=E\) で「両方上がる/両方下がる」の選択肢を消す
③ ここまでで大半が消える。残りは電流の初期値だけで決着
④ RLの電流は0から増える、RCの電流はE/Rから減る——対で覚える
⑤ 「投入直後にコイルへ全電圧」は電流0だからv_Rも0というKVLの帰結
💡 覚え方
「コイルは電流の慣性」。重い台車が急に動き出せないのと同じで、電流は0からゆっくり増えます。v_Rは電流の影武者(\(v_R=iR\) で常に同じ動き)、v_Lは残り物(\(v_L=E-v_R\))——この3つの関係だけで全部決まります。
⚠️ よくある間違い
RL回路とRC回路の電流を取り違えるのが最大のミスで、選択肢(4)がそれを待っています。「Lは電流を妨げる→最初は流れない」「Cは電圧0=短絡→いきなり流れる」と、理由とセットで覚えてください。またv_Rを電流と逆向きにする誤り(選択肢(1)(2))は、\(v_R=iR\) を思い出せば起きません。
まとめ
| 電流 | 0→E/R(大きくなる) |
| vR | 0→E(上昇) |
| vL | E→0(低下) |
| 答え | (5) |
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