今回は令和6年度下期 理論科目 A問題11を解説します。電界効果トランジスタ(FET)の分類や動作に関する5つの記述のうち、誤っているものを選ぶ問題です。
FETは接合形(JFET)とMOS形(MOSFET)に分類され、MOS形はさらにデプレション形とエンハンスメント形に分かれます。両者の違い(ゲート電圧0のときチャネルがあるか)が本問のポイントです。
令和6年度下期 理論科目 A問題11:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和6年度下期 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題11
電験3種 理論科目 【電子理論(半導体等)】 令和6年度下期 A問題11
電界効果トランジスタ(FET)に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)接合形とMOS形に分類することができる。
(2)ドレーンとソースとの間の電流の通路には、n形とp形がある。
(3)MOS形はデプレション形とエンハンスメント形に分類できる。
(4)ゲート電圧で自由電子又は正孔の移動を制御できる。
(5)エンハンスメント形はゲート電圧に関係なくチャネルができる。
出題のポイント:エンハンスメント形はノーマリオフ
FETに関する5つの記述から、誤りを1つ選ぶ問題です。急所は(5)——「エンハンスメント形はゲート電圧に関係なくチャネルができる」という記述が誤りです。
エンハンスメント(enhancement)は「増強」という意味です。ゲート電圧をかけて初めてチャネルが「作られる」——電圧をかけないとチャネルはありません。
「ゲート電圧に関係なくチャネルができる」のはデプレション形です。(5)の記述は、デプレション形の説明をエンハンスメント形に貼り付けたもの——典型的な入れ替えです。

解説:5つの記述を1つずつ検証する
| 選択肢 | 内容 | 判定 | 根拠 |
| (1) | 接合形とMOS形に分類できる | ○ | ゲートの構造による分類 |
| (2) | 電流の通路にはn形とp形がある | ○ | nチャネルとpチャネル |
| (3) | MOS形はデプレション形とエンハンスメント形 | ○ | 動作による分類 |
| (4) | ゲート電圧で自由電子または正孔の移動を制御 | ○ | 電圧制御・ユニポーラ |
| (5) | エンハンスメント形はゲート電圧に関係なくチャネルができる | × | デプレション形の説明(★誤り) |
(4)の「自由電子【または】正孔」という表現にも注目してください。「または」=どちらか一方——これがユニポーラの意味です。バイポーラなら「および」になります。
(2)の「電流の通路」はチャネルのことです。nチャネルとpチャネルの両方がある——CMOSはこの2つを組み合わせた回路です。


誤答の正体:2つのタイプの入れ替え
(5)は「エンハンスメント形」を「デプレション形」に変えれば正しい記述になります。素子名の1語だけ差し替えられている——典型的な手口です。
| デプレション形(空乏形) | エンハンスメント形(増強形) | |
| \(V_{GS}=0\) のとき | チャネルがある(ノーマリオン) | チャネルがない(ノーマリオフ) |
| 電流を流すには | 何もしなくてよい | しきい値以上の電圧が必要 |
| 電流を止めるには | 逆電圧でチャネルを狭める | 電圧をゼロにする |
| 名前の意味 | 空乏化させて減らす | 増強して作る |
| 主な用途 | アナログ回路 | デジタル回路・パワー |
名前が動作を表しています。デプレション(depletion)=枯渇・空乏——もともとあるチャネルを空乏化させて減らす。エンハンスメント(enhancement)=増強——ないチャネルを作り出す。
⚠️ よくある間違い
接合形FET(JFET)はすべてデプレション形です。ゲートに逆電圧を加えてチャネルを狭める——エンハンスメント形のJFETは存在しません。2つのタイプがあるのはMOS形だけです。
☝️ ひっかけの作り方:「ゲート電圧に関係なく」という表現に注目してください。エンハンスメント形はゲート電圧が命——「関係なく」はあり得ません。言葉の矛盾に気づけば即座に判定できます。
深掘り①:FETの分類を体系的に整理する
FETの分類は3つの軸があります。組み合わせると全部で6種類になります。
| 分類の軸 | 種類 | 違い |
| ゲートの構造 | 接合形/MOS形 | pn接合か酸化膜か |
| チャネルの種類 | nチャネル/pチャネル | 電子か正孔か |
| 動作 | デプレション形/エンハンスメント形 | ノーマリオンかノーマリオフか |
ただし接合形はデプレション形しかないので、実際の組合せは「接合形×2+MOS形×4=6種類」です。最もよく使われるのは「MOS形・nチャネル・エンハンスメント形」です。
CMOSはこの6種類のうち2つを組み合わせた回路です。nチャネルとpチャネルのエンハンスメント形MOSFET——相補的に動作させます。
深掘り②:ノーマリオンとノーマリオフの実用上の違い
「電圧をかけないときに電流が流れるかどうか」は、安全性に直結する重要な性質です。
| ノーマリオン(デプレション形) | ノーマリオフ(エンハンスメント形) | |
| 制御回路が故障したら | 電流が流れ続ける(危険) | 電流が止まる(安全) |
| スイッチとしての扱い | やや扱いにくい | 直感的で扱いやすい |
| デジタル回路 | 使いにくい | 標準 |
制御が失われたら電流が止まる——これがノーマリオフの安全性です。だからパワーエレクトロニクスでもエンハンスメント形が標準になっています。
SiCやGaNの素子では、構造上ノーマリオンになってしまうものもあります。そのままでは危険なので、カスコード接続などで実質ノーマリオフにする工夫がされています。
深掘り③:チャネルの種類と動作の組合せ
nチャネルとpチャネルで、ゲート電圧の向きが逆になります。混乱しやすいので表で整理しましょう。
| 種類 | チャネル | オンにするゲート電圧 | キャリヤ |
| nチャネル・エンハンスメント | 電子 | 正の電圧 | 電子 |
| pチャネル・エンハンスメント | 正孔 | 負の電圧 | 正孔 |
| nチャネル・デプレション | 電子 | 0でもオン(負でオフ) | 電子 |
「nチャネルは正の電圧、pチャネルは負の電圧」——チャネルのキャリヤを引き寄せる向きと考えれば分かります。電子(負)は正の電圧に引かれ、正孔(正)は負の電圧に引かれます。
nチャネルのほうが高速です。電子の移動度が正孔の約3倍——だから同じ性能ならnチャネルのほうが小さく作れます。
深掘り④:正誤問題で狙われるFETの論点
FETの正誤問題で入れ替えられやすい語を、まとめて確認しておきましょう。
| 狙われる箇所 | 正しい内容 | よくある誤り |
| 制御方式 | 電圧制御 | 「電流制御」と書く |
| キャリヤ | 多数キャリヤのみ(ユニポーラ) | 「少数キャリヤ」「両方」と書く |
| 入力インピーダンス | 高い | 「低い」と書く |
| デプレション/エンハンスメント | ノーマリオン/ノーマリオフ | 逆にする(★本問) |
| ゲート電圧を上げると | JFETは減、エンハンスメントMOSは増 | 取り違える |
この5点を確認すれば、FETの正誤問題はほぼ攻略できます。どれも「逆にする」というシンプルな手口です。
とくに「デプレション/エンハンスメント」の入れ替えは頻出です。名前の意味(空乏/増強)から動作を導けるようにしておきましょう。
⏱️ 本番での進め方
❶ エンハンスメント=増強=ないチャネルを作る(ノーマリオフ)。
❷ デプレション=空乏=あるチャネルを減らす(ノーマリオン)。
❸ 接合形はデプレション形のみ——2タイプあるのはMOS形だけ。
❹ 「ゲート電圧に関係なく」はエンハンスメント形ではあり得ない。
💡 覚え方
「エンハンス=増強=作り出す」——ないものを作るのだから、最初はない(ノーマリオフ)。「デプレション=空乏=減らす」——減らすものが最初からある(ノーマリオン)。英単語の意味がそのまま動作です。
出題履歴:FETの正誤問題は頻出
FETの分類と動作を問う正誤問題は、半導体分野の主力テーマです。「接合形/MOS形」「n/pチャネル」「デプレション/エンハンスメント」——3つの軸で整理しておけば確実に得点できます。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
あわせて解いておきたい記事:【理論】令和6年度上期A問題11(バイポーラとFETの対比)/【理論】平成23年度A問題11(MOSFETの動作原理)
まとめ
| (1)〜(4) | 正(FETの基本分類・動作) |
| デプレション形 | ゲート電圧0でもチャネルあり |
| エンハンスメント形 | ゲート電圧でチャネル形成 |
| 誤り | (5) |
▼あわせて解きたい関連問題
・理論科目の過去問一覧(ハブ):【理論】単元別・年度別まとめ

コメント