今回は令和2年度 理論科目 A問題11を解説します。可変容量ダイオード(バリキャップ、バラクタダイオード)の原理図をもとに、加える電圧の向き・空乏層・幅dと静電容量の変化・用途を問う穴埋め問題です。
可変容量ダイオードは逆方向電圧を加えて使います。逆電圧を大きくすると空乏層(キャリヤがほとんど無い領域)の幅dが広がり、コンデンサとみなしたときの静電容量C=εS/dが小さくなります。この性質を無線通信の同調回路などに利用します。
令和2年度 理論科目 A問題11:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和2年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題11
電験3種 理論科目 【電子理論(半導体等)】 令和2年度 A問題11
次の文章は、可変容量ダイオード(バリキャップやバラクタダイオードともいう)に関する記述である。
可変容量ダイオードとは、図に示す原理図のように(ア)電圧V[V]を加えると静電容量が変化するダイオードである。p形半導体とn形半導体を接合すると、p形半導体のキャリヤである●印と、n形半導体のキャリヤ(図中の○印)がpn接合面付近で結合すると消滅して、(イ)と呼ばれるキャリヤがほとんど存在しない領域ができる。可変容量ダイオードに(ア)電圧を印加し、その大きさを大きくすると、(イ)の領域の幅dが(ウ)なり、静電容量の値は(エ)なる。この特性を利用して可変容量ダイオードは(オ)などに用いられている。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) 逆方向 空乏層 広く 小さく 無線通信の同調回路 (2) 順方向 空乏層 狭く 小さく 光通信の受光回路 (3) 逆方向 空乏層 広く 大きく 光通信の受光回路 (4) 順方向 反転層 狭く 大きく 無線通信の変調回路 (5) 逆方向 反転層 広く 小さく 無線通信の同調回路

出題のポイント:空乏層をコンデンサとして使う
可変容量ダイオードは、pn接合の空乏層をコンデンサの誘電体として使う素子です。逆電圧で空乏層の幅を変えれば、静電容量が変わります。
5つの空欄はすべて連動しています。「逆方向」→「空乏層」→「広く」→「小さく」→「同調回路」——1つ決まれば芋づる式です。
(オ)の用途は「無線通信の同調回路」です。\(C\) が変われば \(f_0=\dfrac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) が変わる——電圧で選局できるわけです。

解説:5つの空欄を順に埋める
| 空欄 | 答え | 根拠 |
| (ア) | 逆方向 | 順方向では電流が流れてしまい、容量として使えない |
| (イ) | 空乏層 | キャリヤが結合して消滅した、キャリヤのない領域 |
| (ウ) | 広く | 逆電圧を大きくするとキャリヤがさらに引き離される |
| (エ) | 小さく | \(C=\varepsilon S/d\) で \(d\) が分母 |
| (オ) | 無線通信の同調回路 | 容量を変えて共振周波数を変える |
(イ)で「反転層」を選ばないでください。反転層はMOSFETのチャネルのこと——ゲート電圧で表面のキャリヤの種類が反転してできる層です。可変容量ダイオードとは無関係です。
(オ)の「光通信の受光回路」はフォトダイオードの用途です。可変容量ダイオードは光とは関係ありません。


誤答の正体:用語だけで大半が消える
| 選択肢 | (ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | 判定 |
| (1) | 逆方向 | 空乏層 | 広く | 小さく | 無線通信の同調回路 | ◎ |
| (2) | 順方向 | 空乏層 | 狭く | 小さく | 光通信の受光回路 | × |
| (3) | 逆方向 | 空乏層 | 広く | 大きく | 光通信の受光回路 | × |
| (4) | 順方向 | 反転層 | 狭く | 大きく | 無線通信の変調回路 | × |
| (5) | 逆方向 | 反転層 | 広く | 小さく | 無線通信の同調回路 | ×((イ)だけ誤り) |
(5)が最も惜しい誤答です。(イ)の「反転層」だけが誤り——他の4つは正しいので、用語1つで落とすことになります。
(3)は(エ)だけ「大きく」としています。「逆電圧を大きくすると容量も大きくなる」——これは頻出の誤りパターンです。\(C=\varepsilon S/d\) を思い出せば防げます。
⚠️ よくある間違い
「空乏層」と「反転層」を混同しないでください。空乏層=pn接合でキャリヤが消えた領域(ダイオード)、反転層=MOSFETでゲート電圧により作られるチャネル——まったく別の素子の用語です。
☝️ ひっかけの作り方:(オ)の「変調回路」も紛らわしいです。可変容量ダイオードは変調にも使えます(FM変調など)が、問題文の文脈では「同調回路」が標準的な答えです。(4)は他が全部誤りなので消えます。
深掘り①:空乏層ができるしくみ
問題文の「●印と○印が結合すると消滅して」という記述が、空乏層の生成そのものです。順を追って見てみましょう。
| 段階 | 起きること |
| ❶ 接合前 | p形には正孔、n形には電子が多数存在 |
| ❷ 接合直後 | 濃度差で拡散し、接合面付近で再結合して消滅 |
| ❸ 空乏層の形成 | キャリヤのない領域ができる。固定イオンだけが残る |
| ❹ 内部電界 | 固定イオンによる電界が、さらなる拡散を止める |
| ❺ 平衡 | 一定の幅で安定する |
空乏層に残るのは「動けない固定イオン」です。n形側には正のドナーイオン、p形側には負のアクセプタイオン——この電荷が内部電界を作ります。
逆電圧を加えると、この内部電界を強める向きになります。キャリヤがさらに接合面から引き離され、空乏層が広がる——これが(ウ)の答えです。
深掘り②:容量が変わる幅はどれくらいか
実際の可変容量ダイオードで、どれくらい容量が変わるかを見ておきましょう。
| 逆電圧 | 空乏層の幅(目安) | 静電容量(目安) |
| 1 V | 狭い | 約30 pF |
| 5 V | 中 | 約15 pF |
| 20 V | 広い | 約5 pF |
数倍から10倍程度の範囲で変化します。共振周波数は \(\sqrt{C}\) に反比例するので、容量が9倍変われば周波数は3倍変わる——放送バンドをカバーするには十分です。
容量が \(1/6\) になると周波数は約2.4倍です。AMラジオの中波帯(531〜1602 kHz、約3倍)をほぼカバーできます。
深掘り③:バリキャップがラジオを変えた
可変容量ダイオードの登場前は、機械式の可変コンデンサ(バリコン)が使われていました。置き換わったことで何が変わったかを見ておきましょう。
| バリコン(機械式) | バリキャップ(電子式) | |
| 操作 | つまみを回して羽根を動かす | 電圧を変える |
| 大きさ | 大きい | 極小(数 mm) |
| 遠隔操作 | できない | できる(電圧を送るだけ) |
| 記憶・自動選局 | できない | できる(電圧を記憶) |
| 振動・衝撃 | 弱い | 強い |
「ボタンを押すと局が切り替わる」ラジオは、バリキャップがあって初めて可能になりました。各ボタンに対応する電圧を記憶しておけばよいからです。
さらにPLL(位相同期ループ)と組み合わせれば、周波数を数値で正確に指定できます。現代のあらゆる無線機器の周波数制御は、この方式です。
深掘り④:空乏層と反転層を区別する
(イ)で狙われた「反転層」——空乏層との違いを確実にしておきましょう。どちらも半導体の重要な概念です。
| 空乏層 | 反転層 | |
| できる場所 | pn接合の界面 | MOSFETの基板表面(ゲート直下) |
| できる条件 | 接合すれば自然にできる(逆電圧で拡大) | しきい値以上のゲート電圧 |
| 中身 | キャリヤがない(固定イオンのみ) | 少数キャリヤが集まる |
| 役割 | 整流・容量・光起電力 | 電流の通り道(チャネル) |
| 関係する素子 | ダイオード全般 | MOSFET |
空乏層は「キャリヤがない」、反転層は「キャリヤが集まる」——正反対です。名前も「乏しい」と「反転する」で対照的になっています。
ただしMOSFETにも空乏層はできます。反転層ができる手前の状態が空乏状態——ゲート電圧を上げていくと、蓄積→空乏→反転と変化します。
⏱️ 本番での進め方
❶ 5つの空欄は連動——「逆方向→空乏層→広く→小さく」は一本道。
❷ \(C=\varepsilon S/d\)——\(d\) が分母だから広がれば容量は減る。
❸ 「反転層」はMOSFETの用語——ダイオードでは使わない。
❹ 「光通信の受光回路」はフォトダイオード——用途違い。
💡 覚え方
「逆電圧で空乏層が広がる=コンデンサの間隔が広がる=容量が減る」——平行平板コンデンサをそのまま思い浮かべればよいのです。特別な暗記は要りません。
出題履歴:可変容量ダイオードは頻出
可変容量ダイオードの原理は、半導体分野で繰り返し問われるテーマです。「逆電圧↑ → 空乏層↑ → 容量↓」——この一本道さえ覚えておけば、どんな聞かれ方でも対応できます。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
あわせて解いておきたい記事:【理論】平成26年度A問題12(pn接合素子の正誤)/【理論】平成19年度A問題11(各種ダイオードのバイアス)
まとめ
| (ア) | 逆方向電圧 |
| (イ) | 空乏層 |
| (ウ)(エ) | 幅d広く・容量小さく |
| (オ) | 無線通信の同調回路 |
| 答え | (1) |
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・同じダイオードの逆方向利用(半導体8):【理論】令和4年度下期 A問題11

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