今回は平成18年度 理論科目 A問題3を解説します。強磁性体に加える磁界Hを+Hmから−Hmへ変化させ、再び+Hmへ戻すと、磁束密度Bは閉じたヒステリシス曲線を描きます。本問は、この曲線の面積が表すエネルギーと、毎秒のヒステリシス損を正しく結び付ける空欄補充問題です。
横軸H、縦軸Bの曲線が囲む面積は、Wh=|∮H dB|として、1周期・単位体積当たりのエネルギー損失 [J/m3]を表します。問題文のPは単位がW/m3なので、厳密には損失電力密度です。毎秒f周期ならP=fWhとなります。
平成18年度 理論科目 A問題3:問題文と選択肢
問題図は横軸H [A/m]、縦軸B [T]です。+Hmから−Hmへの往路では上側枝を左へ進み、H=0で+Br、B=0で−Hcを通ります。復路では下側枝を右へ進み、H=0で−Br、B=0で+Hcを通って元へ戻ります。原問題画像はそのまま確認してください。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成18年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題3
電験3種 理論科目 【電磁気(磁気・電磁力)】 平成18年度 A問題3
磁界の大きさH〔A/m〕をHmから−Hmまで変化させた後、再び正の向きにHmまで変化させると、磁束密度B〔T〕は一つの閉曲線を描く。この曲線を(ア)という。このとき、加えられた単位体積当たりのエネルギーWh〔J/m3〕は、この曲線(イ)に等しい。また、1秒間にf回この曲線を描かせると、P=(ウ)〔W/m3〕の電力が熱となって現れる。これを(エ)と名づけている。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(エ)に当てはまる語句又は式の組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (1) ヒステリシス曲線 の周囲の長さ f2Wh 鉄損 (2) ヒステリシス曲線 に囲まれた面積 fWh ヒステリシス損 (3) ヒステリシス曲線 に囲まれた面積 f1.6Wh ヒステリシス損 (4) 励磁曲線 の周囲の長さ f2Wh 渦電流損 (5) 励磁曲線 に囲まれた面積 fWh 鉄損
出題のポイント:「面積」と「\(fW_h\)」の2点で決まる
ヒステリシス曲線が囲む面積が、1周期・単位体積あたりの損失エネルギー〔J/m³〕です。「周囲の長さ」ではありません。これを毎秒 \(f\) 回くり返すので、電力は \(fW_h\)〔W/m³〕になります。
単位で確認すると確実です。\(\mathrm{J/m^3}\times\mathrm{1/s}=\mathrm{W/m^3}\)——問題文が求めている単位と一致します。\(f^2W_h\) や \(f^{1.6}W_h\) では単位が合いません。

空欄を1つずつ埋める
| 空欄 | 答え | 誤答の候補 | 見分け方 |
| (ア) | ヒステリシス曲線 | 励磁曲線 | 励磁曲線=初期磁化曲線。閉曲線ではない |
| (イ) | に囲まれた面積 | の周囲の長さ | \(\oint H\,dB\) は面積 |
| (ウ) | \(fW_h\) | \(f^2W_h\)、\(f^{1.6}W_h\) | 単位が \(\mathrm{W/m^3}\) になるのは1乗だけ |
| (エ) | ヒステリシス損 | 鉄損、渦電流損 | 鉄損=ヒステリシス損+渦電流損 |
(ア)の「励磁曲線」は、磁化されていない状態から磁界を加えていったときの曲線のことで、初期磁化曲線とも呼ばれます。閉じていないので「囲まれた面積」を考えられません。
(エ)の「鉄損」は範囲が広すぎます。鉄損はヒステリシス損と渦電流損の合計で、本問が扱っているのはヒステリシス損だけです。渦電流損はB-H曲線の面積とは無関係——鉄心の形状と導電率で決まります。


選択肢(3)の \(f^{1.6}W_h\) が巧妙な理由
ヒステリシス損には「1.6乗」という有名な数字が登場します。スタインメッツの実験式です。
「ヒステリシス損=1.6乗」という断片的な記憶だけがあると、(3)を選んでしまいます。何が1.6乗なのかを正確に押さえておいてください。
単位で判定するのが最も確実です。\(f^{1.6}W_h\) の単位は \(\mathrm{s^{-1.6}\cdot J/m^3}\)——\(\mathrm{W/m^3}\) にはなりません。選択肢の式に単位を代入してみる——それだけで(1)(3)(4)が消えます。
⚠️ よくある間違い
ループ面積は「エネルギー」、それに \(f\) を掛けたものが「電力」——この区別があいまいだと、面積そのものを損失電力と混同します。周波数が下がれば、面積が同じでも損失電力は減るということです。
深掘り:鉄損の2つの成分
| ヒステリシス損 | 渦電流損 | |
| 原因 | 磁化の向きを変えるのに要するエネルギー | 鉄心中に流れる渦状の電流 |
| 式 | \(P_h=k_hfB_m^{1.6}\) | \(P_e=k_ef^2B_m^2t^2\) |
| 周波数依存 | 1乗 | 2乗 |
| 減らす方法 | ループの細い材料(けい素鋼板) | 薄い鋼板を積層(成層鉄心) |
| B-H曲線との関係 | 面積そのもの | 無関係 |
渦電流損は板厚 \(t\) の2乗に比例します。変圧器の鉄心が薄い板の積み重ねでできているのは、1枚あたりの渦電流の経路を短くして損失を減らすためです。
けい素鋼板は一石二鳥の材料です。けい素を数%加えるとヒステリシスループが細くなり、同時に電気抵抗が上がって渦電流も減ります。両方の損失に効く——だから広く使われています。
💡 覚え方
「ヒステリシス損は \(f\) の1乗、渦電流損は \(f\) の2乗」——周波数を変えたときの挙動を問う問題では、この違いが決め手になります。周波数を2倍にすると、ヒステリシス損は2倍、渦電流損は4倍です。
⏱️ 本番での進め方
❶ 単位で判定する。\(\mathrm{J/m^3}\times\mathrm{1/s}=\mathrm{W/m^3}\)。\(f\) は1乗しかあり得ない。
❷ 1.6乗は磁束密度。周波数ではない。
❸ 鉄損とヒステリシス損を区別する。鉄損は渦電流損を含む。
❹ 励磁曲線は閉じていない。面積を考えられるのはヒステリシス曲線だけ。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
まとめ
| (ア)曲線名 | ヒステリシス曲線 |
| (イ)1周期の損失 | ループに囲まれた面積Wh [J/m3] |
| (ウ)毎秒の損失 | P=fWh [W/m3] |
| (エ)名称 | ヒステリシス損 |
| 答え | (2) |
▼あわせて解きたい関連問題
・ヒステリシス損・鉄損の関連問題:【理論】令和2年度A問題6

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