今回は平成23年度 理論科目 B問題18(選択問題)を解説します。トランジスタによる小信号増幅回路(電流帰還バイアス)について、(a)コレクタ-エミッタ間の直流電圧Vce、(b)結合コンデンサC1により電圧増幅度が1/√2になる周波数を求める問題です。
(a)は分圧でベース電圧を求め、VE=VB−Vbeからエミッタ電流を出し、Vce=VC−VEで計算します。(b)はC1とhieの直列で入力電流が減り、1/(ωC1)=hieのとき利得が1/√2になる遮断周波数を求めます。
平成23年度 理論科目 B問題18:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成23年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 B問題18
電験3種 理論科目 【電子理論(電子回路)】 平成23年度 B問題18
図1のトランジスタによる小信号増幅回路について、次の(a)及び(b)の問に答えよ。ただし、各抵抗はRA=100[kΩ]、RB=600[kΩ]、RC=5[kΩ]、RD=1[kΩ]、Ro=200[kΩ]。C1・C2は結合コンデンサ、C3はバイパスコンデンサである。VCC=12[V]は直流電源電圧、Vbe=0.6[V]はベース-エミッタ間の直流電圧、viは入力小信号電圧、voは出力小信号電圧とする。図2の簡易等価回路から電圧増幅度Av0=|vo/vi|=(hfe/hie)・RCRo/(RC+Ro)…①が得られる。
(a) 直流ベース電流Ibが抵抗RA・RCの直流電流IA・ICに比べて十分に小さいものとしたとき、コレクタ-エミッタ間の直流電圧Vce[V]の値として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)1.1 (2)1.7 (3)4.5 (4)5.3 (5)6.4 V
(b) 図3を用いて得られた電圧増幅度が①式の電圧増幅度の1/√2となった。この周波数[Hz]の大きさとして、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、hfe=120、hie=3×103[Ω]、C1=10[μF]とする。
(1)1.2 (2)1.6 (3)2.1 (4)5.3 (5)7.9 Hz


解説①:(a) 直流動作点を求める

ベース電流を無視するとVB=1.71 V、VE=1.11 V、IE≈IC=1.11 mAです。RCとRD両方の電圧降下を引き、Vce≈5.3 Vなので(a)は(4)。交流ではC1から見た抵抗は(RA∥RB)∥hie=2.90 kΩで、f=1/(2πC1R)≈5.5 Hz。最も近い5.3 Hzより(b)も(4)です。
解説②:(b) 結合コンデンサの遮断周波数を求める

ベース電流は無視できると明記
\(R_D=1\ \mathrm{k\Omega}\)
\(R_C\) と \(R_D\) の両方で降下する
\(R_D\) の分も引くのを忘れないでください。\(V_{ce}\) はコレクタとエミッタの「間」の電圧なので、電源から \(R_C\) の降下と \(R_D\) の降下の両方を引きます——\(R_D\) を忘れると \(6.4\ \mathrm{V}\) となり(5)に落ちます。
解説③:(a)(b)を選択肢と最終照合する

交流では両方とも接地へ
小さいほうに引きずられる
いちばん近いのは 5.3 Hz
選択肢は 1.2/1.6/2.1/5.3/7.9——計算値 5.5 Hz にいちばん近いのは 5.3 Hzで、次に近い 7.9 Hz とは大きく離れています。安心して選べます。
誤答の正体:並列の相手を間違える
| どこを間違えるか | 使う \(R\) | 出てくる周波数 |
| \(R_A\parallel R_B\) だけ(\(h_{ie}\) を忘れる) | 85.7 kΩ | 0.19 Hz |
| \(h_{ie}\) だけ(バイアス抵抗を忘れる) | 3 kΩ | 5.3 Hz |
| ◎ 両方の並列 | 2.90 kΩ | 5.5 Hz |
| \(R_C\) を使ってしまう | 5 kΩ | 3.2 Hz |
興味深いことに、\(h_{ie}=3\ \mathrm{k\Omega}\) だけで計算しても 5.3 Hz になります。バイアス抵抗が 85.7 kΩ と十分大きいので、並列にしてもほとんど変わらない——どちらの考え方でも同じ選択肢に着地します。
⚠️ よくある間違い
(a)で \(R_D\) の電圧降下を忘れるのが最頻の誤りです。\(V_{ce}=V_{CC}-I_C R_C\) と書いてしまうと \(6.4\ \mathrm{V}\)——選択肢(5)にちゃんと用意されています。エミッタ抵抗があるかどうかを必ず確認してください。
深掘り①:遮断周波数と \(-3\ \mathrm{dB}\) 点
電圧が \(1/\sqrt2\) 倍
だから \(-3\ \mathrm{dB}\) 点
ちょうど半分
「電圧が \(1/\sqrt2\)」=「電力が半分」です。だから半電力点とも呼ばれます。この定義はフィルタでも共振回路でも共通です。
増幅回路の「帯域幅」は、低域遮断周波数と高域遮断周波数の差で表します。本問の 5.3 Hz は低域側——それより低い周波数は増幅されません。
深掘り②:低域と高域、遮断の原因はまったく別
| 低域遮断 | 高域遮断 | |
| 原因 | 結合・バイパスコンデンサ | 接合容量・配線の浮遊容量 |
| コンデンサの位置 | 信号経路に直列 | 信号経路と接地の間(並列) |
| 低周波では | インピーダンス大→信号が通らない | インピーダンス大→影響なし |
| 高周波では | 短絡→影響なし | 短絡→信号が接地へ逃げる |
結合コンデンサは信号の通り道に「直列」に入っています。低周波でインピーダンスが大きくなると、信号がそこで止まってしまう——だから低域が切れます。
逆に、トランジスタの接合容量は信号経路と接地の間に「並列」に入ります。高周波でインピーダンスが小さくなると、信号が接地へ逃げる——だから高域が切れます。
💡 覚え方
直列のコンデンサ=低域を切る(ハイパスフィルタ)、並列のコンデンサ=高域を切る(ローパスフィルタ)。どちらも \(f=1/(2\pi CR)\) ですが、切れる側が逆です。
深掘り③:結合コンデンサの値の決め方
扱いたい最低周波数より、遮断周波数を十分低くするのが設計の考え方です。オーディオなら20 Hzまで扱いたいので、遮断は数Hzに設定します。
\(f\) を下げたければ \(C\) を上げる
本問の \(10\ \mathrm{\mu F}\) はまさにこの設計
大きくすればするほど良いように見えますが、大容量のコンデンサは大きく高価です。必要十分な値を選ぶのが設計——本問の 10 µF はよく考えられた値です。
⏱️ 本番での進め方
❶ (a)は「分圧 → \(V_{be}\) を引く → \(I_E\) → \(V_{ce}\)」の4行。
❷ \(V_{ce}\) は \(R_C\) と \(R_D\) の両方を引く——忘れると(5)。
❸ (b)は \(f=1/(2\pi C_1R)\)、\(R\) はコンデンサから右を見た抵抗。
❹ \(R=(R_A\parallel R_B)\parallel h_{ie}\)——並列は小さいほうに寄る。
★\(1/\sqrt2\) 倍=\(-3\ \mathrm{dB}\)=電力半分と3点セットで覚える。
出題履歴:バイアス計算と周波数特性の複合問題
直流(バイアス)と交流(周波数特性)を1問で問う形式はB問題の定番です。令和4年度下期B問題18も同じ電流帰還バイアス回路で、直流と交流を分けて計算させています。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
まとめ
| VB | 12×100/700≒1.71V |
| VE | 1.71−0.6=1.11V |
| IE≒IC | 1.11mA |
| (a)Vce | VC−VE=6.43−1.11≒5.3V→(4) |
| (b)f | 1/(2π・hie・C1)=1/(2π×3k×10μ)≒5.3Hz→(4) |
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