今回は平成20年度 理論科目 A問題13を解説します。トランジスタの接地方式が異なる3つの基本増幅回路(図1:エミッタ接地、図2:コレクタ接地、図3:ベース接地)について、記述a〜dの正誤を判定し、正しいものの組合せを選ぶ問題です。
エミッタ接地は入出力が逆位相(180°)、コレクタ接地は電圧増幅度がほぼ1でエミッタホロワと呼ばれ、ベース接地は電流増幅率|ΔIC/ΔIE|(=α)が約1、という各方式の特徴がポイントです。
平成20年度 理論科目 A問題13:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 A問題13
電験3種 理論科目 【電子理論(電子回路)】 平成20年度 A問題13
トランジスタの接地方式の異なる3つの基本増幅回路(図1・図2・図3)について、次の記述a〜dのうち正しいものの組合せを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、図1はエミッタ接地増幅回路、図2はコレクタ接地増幅回路、図3はベース接地増幅回路である。
次の記述a〜dのうち正しいものの組合せを、下の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
a. 図1の回路では、入出力信号の位相差は180°である。
b. 図2の回路は、エミッタ接地増幅回路である。
c. 図2の回路は、エミッタホロワとも呼ばれる。
d. 図3の回路で、エミッタ電流及びコレクタ電流の変化分の比|ΔIC/ΔIE|の値は、約100である。(1)aとb
(2)aとc
(3)aとd
(4)bとd
(5)cとd
解説①:3つのトランジスタ接地方式を比べる

エミッタ接地だけが入出力逆相で、コレクタ接地はエミッタホロワとも呼ばれます。ベース接地の電流増幅率α=|ΔIC/ΔIE|は約1であり、約100なのはβ=|ΔIC/ΔIB|です。したがってaとcが正しく、選択肢(2)です。
解説②:記述a〜dを理由とともに判定する

a. 図1(エミッタ接地)の入出力の位相差は180° → 正しい
ベース電圧が上がる→コレクタ電流が増える→\(R_C\) の電圧降下が増える→コレクタ電位が下がる。入力が上がると出力が下がる=逆相(180°)です。
3つの接地方式のうち、入出力が逆相になるのはエミッタ接地だけ——ここは確実に覚えてください。
b. 図2はエミッタ接地増幅回路である → 誤り
問題文に「図2はコレクタ接地増幅回路である」と明記されています。読み落とさなければ即座に消せる肢です。
c. 図2はエミッタホロワとも呼ばれる → 正しい
コレクタ接地=エミッタホロワ(エミッタフォロワ)です。エミッタ電位が入力電位に「ついていく(follow)」からこの名があります。
d. 図3(ベース接地)の \(|\Delta I_C/\Delta I_E|\) は約100 → 誤り
\(I_E=I_B+I_C\) で \(I_B\) は \(I_C\) の約1/100 ですから、\(I_C\) は \(I_E\) よりわずかに小さいだけ——比は約1です。約100になるのは \(|\Delta I_C/\Delta I_B|\) です。
解説③:αとβを区別して選択肢を照合する

| 記述 | 内容 | 判定 | 誤りの作り方 |
| a | エミッタ接地は逆相 | ○ | — |
| b | 図2はエミッタ接地 | × | 問題文の指定を無視させる |
| c | 図2=エミッタホロワ | ○ | — |
| d | ベース接地で \(|\Delta I_C/\Delta I_E|\fallingdotseq100\) | × | \(\alpha\) と \(\beta\) の取り違え |
bが誤りとわかれば、(1)(4)は消えます。dが誤りとわかれば(3)(5)も消え、残るのは(2)だけ——2つ判定するだけで確定します。
逆に、aが正しいとわかっていれば(4)は即消し(bとdの組合せ)です。1つでも確実な肢があれば選択肢を大きく絞れます。
⚠️ よくある間違い
\(\alpha\) と \(\beta\)(\(h_{fe}\))の取り違えが最頻です。分母を見るクセをつけてください——分母が \(I_E\) なら約1、分母が \(I_B\) なら約100。\(I_E\) は一番大きい電流だから比は1未満、\(I_B\) は一番小さいから比は大きい——大小関係で確認できます。
深掘り①:3つの接地方式を1枚で比べる
「接地」とは、入力にも出力にも共通で使う端子のことです。エミッタ・コレクタ・ベースのどれを共通にするかで3種類できます。
| 接地方式 | 別名 | 電圧増幅 | 電流増幅 | 位相 | 入力Z | 出力Z | 使いどころ |
| エミッタ接地 | — | 大 | 大 | 逆相(180°) | 中 | 中 | いちばん普通の増幅 |
| コレクタ接地 | エミッタホロワ | 約1倍 | 大 | 同相 | 大 | 小 | バッファ(Z変換) |
| ベース接地 | — | 大 | 約1倍 | 同相 | 小 | 大 | 高周波増幅 |
エミッタ接地は電圧も電流も増幅できる万能型で、増幅段の主力です。コレクタ接地は電圧増幅しない代わりに入力Zが高く出力Zが低い——インピーダンス変換専用と考えてください。
ベース接地は入力Zが低く高周波特性に優れるため、アンテナ直後の高周波増幅などに使われます。
深掘り②:エミッタホロワはなぜ役に立つのか
電圧増幅度が約1倍なら意味がないのでは——と思えますが、役割は「電圧を増やすこと」ではなく「電流を供給できるようにすること」です。
出力インピーダンスが高い信号源に、抵抗の小さい負荷を直接つなぐと電圧が下がってしまいます。間にエミッタホロワを入れると、入力側から見た負荷が \(h_{fe}\) 倍軽くなり、電圧が落ちません。
エミッタホロワは帰還率100%の負帰還回路でもあります。出力電圧がそのまま入力に戻るので、ひずみが小さく、周波数特性も広いという長所がつきます。
「電圧利得1・入力Z大・出力Z小・ひずみ小・広帯域」——この5点セットがエミッタホロワ(=ボルテージホロワ)の性格です。オペアンプのボルテージホロワとまったく同じ役割です。
深掘り③:位相が反転するのはなぜエミッタ接地だけか
出力を「コレクタから取る」か「エミッタから取る」かで決まります。
エミッタ接地はコレクタから取ります。電流が増えると \(R_C\) での電圧降下が増え、コレクタ電位は下がる——だから逆相です。
コレクタ接地はエミッタから取ります。電流が増えれば \(R_E\) の電圧降下が増え、エミッタ電位は上がる——だから同相です。
ベース接地はコレクタから取りますが、入力もエミッタ(電流を吸い出す向き)なので、2回ひっくり返って結局同相になります。
💡 覚え方
「出力を取る場所が抵抗の上側なら同相、下側(電源側の抵抗)なら逆相」。エミッタ接地だけが電源側の \(R_C\) から取っている——だからエミッタ接地だけ逆相です。
深掘り④:\(\alpha\) と \(\beta\) の関係を式で押さえる
3端子に出入りする電流の和は0
分母が最大の \(I_E\)
分母が最小の \(I_B\)
| \(\alpha\) | \(\beta=\alpha/(1-\alpha)\) | 感覚 |
| 0.90 | 9 | 性能の低いトランジスタ |
| 0.98 | 49 | — |
| 0.99 | 99 | ごく標準的 |
| 0.995 | 199 | 高 \(h_{fe}\) 品 |
\(\alpha\) が1に近づくほど \(\beta\) は急激に大きくなります。0.99→0.995 と 0.005 変わるだけで \(\beta\) は倍——\(h_{fe}\) の個体ばらつきが大きい理由もここにあります。
⏱️ 本番での進め方
❶ 組合せ問題は「確実な1つ」から。本問なら b(問題文に書いてある)が最速。
❷ bが誤り → (1)(4)が消える。残りは(2)(3)(5)。
❸ dが誤り → (3)(5)が消える。答えは(2)。
★4つ全部を判定する必要はない——選択肢が絞れた時点で終了。
出題履歴:接地方式の比較は繰り返し問われる
3つの接地方式の性格の違いは、電子回路分野の基礎中の基礎です。「エミッタホロワの特徴として誤っているもの」「ベース接地の用途」など、切り口を変えて何度も出題されています。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
まとめ
| 図1(エミッタ接地) | 入出力位相差180°→a正 |
| 図2(コレクタ接地) | エミッタホロワ→c正、b誤 |
| 図3(ベース接地) | |ΔIC/ΔIE|=α≒1→d誤 |
| 正しい組合せ | aとc→(2) |
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