今回は平成19年度 理論科目 B問題17を解説します。銅線中を流れる電流と自由電子の個数から、自由電子の平均移動速度を求め、さらに太さと電流を変えたときの速度比を求める計算問題です。
電流は「単位長さ当たりの自由電子の電荷×移動速度」で表せます。すなわちI=N・e・v(Nは1m当たりの自由電子数)。これを速度について解けば平均移動速度が、比をとれば速度の倍率が求まります。
平成19年度 理論科目 B問題17:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成19年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 B問題17
電験3種 理論科目 【電子理論(電子の運動)】 平成19年度 B問題17
導体中を流れる電流は、導体内の自由電子が移動することによって生じる。銅線中の自由電子の平均移動速度について、次の(a)及び(b)の問に答えよ。
(a)直径1.6mmの銅線中に10Aの直流電流が流れている。この銅線1m当たりの自由電子の個数を1.69×1023個、電子の電気量を-1.60×10-19Cとするとき、自由電子の平均移動速度v[m/s]の値として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)1.37×10-7 (2)3.70×10-4 (3)1.92×10-2 (4)1.84×102 (5)3.00×108
(b)直径3.2mm、流れる電流30Aの同じ材質の銅線における自由電子の平均移動速度は、(a)の銅線の平均移動速度の何倍になるか。最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)0.24 (2)0.48 (3)0.75 (4)6.0 (5)12
出題のポイント:1 m当たりの電子数からI=Nevを組み立てる

銅線1 m当たりの自由電子数をN、電子1個の電気量の大きさをe、平均移動速度をvとすると、1秒間に断面を通過する電子数はNvなのでI=Nevです。(a)ではv=I/(Ne)へI=10 A、N=1.69×10²³ 個/m、e=1.60×10⁻¹⁹ Cを代入し、v=3.70×10⁻⁴ m/sとなるため選択肢(2)です。(b)では同じ材質なのでv∝I/A、断面積A∝d²です。電流は3倍、直径は2倍で断面積は4倍になるため、v₂/v₁=3/4=0.75、選択肢(3)です。
(a) の解説:I=Nevを速度について解き、数値と単位を整理する

1秒に0.37 mm
分母の \(1.69\times10^{23}\times1.60\times10^{-19}\) は、指数を足して \(10^{4}\)、係数は \(1.69\times1.60=2.70\)——\(2.70\times10^{4}\) です。
答えは1秒間に0.37ミリメートル——驚くほど遅いです。1 m進むのに約45分かかります。
(b) の解説:比だけで解く
同じ材質なので、単位体積当たりの電子数は同じです。1 m当たりの電子数 \(\lambda\) は断面積に比例します。
電流が3倍でも、電子の通り道が4倍に広がったので、1個1個の電子はむしろゆっくり動きます。0.75倍です。
「太い電線ほど電子はゆっくり動く」——同じ電流なら断面積に反比例します。だから太い電線は発熱しにくいのです。
(b) の解説:電流比と直径の2乗から速度比0.75を求める

| 選択肢 (a) | 値〔m/s〕 | 何の値か |
| (1) | \(1.37\times10^{-7}\) | 桁の誤り |
| (2) | \(3.70\times10^{-4}\) | 正解 |
| (3) | \(1.92\times10^{-2}\) | ダミー |
| (4) | \(1.84\times10^{2}\) | ダミー |
| (5) | \(3.00\times10^{8}\) | 光速(電気信号の伝わる速さと混同) |
(5)の \(3.00\times10^{8}\) は光速です。「電気は光の速さで伝わる」というイメージから選んでしまう——ところが電子そのものは、はるかにゆっくり動きます。
(b)で「直径が2倍だから断面積も2倍」と考えると \(3/2=1.5\) 倍——選択肢にありません。断面積は直径の【二乗】に比例します。
⚠️ よくある間違い
「電流が3倍だから速度も3倍」と考えると(4)6.0を選んでしまいます。電子の通り道(断面積)も4倍に増えていることを忘れないでください。\(v\propto I/A\) です。
☝️ ひっかけの作り方:(a)で直径1.6 mmは使いません。「1 m当たりの電子数」が直接与えられているからです。与えられた数値を全部使う必要はない——(b)で断面積の比を出すために置かれています。
深掘り①:電子は遅いのに、なぜ電気は速いのか
電子の移動速度は1秒に0.37 mm——それなのにスイッチを入れると瞬時に電灯が点きます。この矛盾をどう説明するかが、この問題の一番面白いところです。
| 何の速さか | だいたいの値 | 意味 |
| 電子の移動速度(ドリフト速度) | \(10^{-4}\ \mathrm{m/s}\) | 電子が実際に進む速さ |
| 電子の熱運動速度 | \(10^{6}\ \mathrm{m/s}\) | ランダムに動き回る速さ |
| 電界(信号)の伝わる速さ | \(10^{8}\ \mathrm{m/s}\) | 光速の数割 |
スイッチを入れると、電界がほぼ光速で電線全体に広がります。すると電線中の全部の電子が、いっせいにゆっくり動き始める——だから遠くの電球もすぐ点きます。
よく使われるたとえが「水の入ったホース」です。蛇口をひねると、ホースの先からすぐ水が出ますが、蛇口の水が先端まで移動したわけではありません。すでに詰まっていた水が押し出されたのです。
電子の熱運動は \(10^{6}\ \mathrm{m/s}\) と非常に速いのですが、あちこちにぶつかってランダムに動くので、正味の移動はわずかです。その正味の分が「ドリフト速度」です。
深掘り②:\(I=neAv\) という式の意味
電流の基本式 \(I=neAv\) は、4つの量の掛け算です。それぞれの意味を確認しておきましょう。
| 記号 | 意味 | 単位 |
| \(n\) | 単位体積当たりの自由電子数 | \(\mathrm{m^{-3}}\) |
| \(e\) | 電気素量 | \(\mathrm{C}\) |
| \(A\) | 断面積 | \(\mathrm{m^{2}}\) |
| \(v\) | ドリフト速度 | \(\mathrm{m/s}\) |
\(nAv\) は「1秒間に断面を通過する電子の個数」です。それに1個当たりの電荷 \(e\) を掛ければ、1秒間に通過する電荷=電流になります。
本問では \(nA=\lambda\)(1 m当たりの個数)がまとめて与えられているので、\(I=\lambda ev\) と簡単な形になっています。
この式から「電流密度 \(J=I/A=nev\)」 も導けます。電流密度は断面積によらない量で、電線の許容電流を決める指標として使われます。
深掘り③:銅の自由電子はどれくらいあるのか
与えられた \(1.69\times10^{23}\) 個/m という数値が、物理的に妥当かどうかを確かめてみましょう。
直径1.6 mm
銅の自由電子密度は約 \(8.5\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}\) として知られています。計算値とほぼ一致——問題の数値は実際の銅の値から作られていると分かります。
銅原子1個につき自由電子が1個——これが \(8.5\times10^{28}\) という数字の由来です。銅の密度と原子量から計算しても、同じ値が出ます。
⏱️ 本番での進め方
❶ \(I=\lambda ev\) を \(v\) について解くだけ——定義に立ち返る。
❷ 断面積は直径の【二乗】に比例——直径2倍なら面積4倍。
❸ \(v\propto I/A\)——電流3倍・面積4倍なら0.75倍。
❹ 光速 \(3\times10^{8}\) は電子の速度ではない——信号の伝わる速さ。
💡 覚え方
「電子は遅いが、電界は速い」——ホースの中の水と同じです。電子1個1個は1秒に0.4ミリしか進みませんが、押し合いへし合いの信号は光速に近い速さで伝わります。
出題履歴:電流の定義に立ち返る良問
\(I=neAv\) を使う問題は、電流とは何かを本当に理解しているかを試します。「電子はゆっくり動く」という意外な結論も含めて、1度解いておけば忘れない問題です。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
あわせて解いておきたい記事:【理論】平成22年度A問題12(電子放出の4つの現象)
まとめ
| 関係 | I=Nev→v=I/(Ne) |
| (a) | 3.70×10⁻⁴ m/s((2)) |
| (b) | 断面積4倍・電流3倍→3/4 |
| (b)答 | 0.75倍((3)) |
▼あわせて解きたい関連問題
・電界中の電子の等加速度運動(電子の運動16):【理論】平成23年度 A問題12

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