今回は平成19年度 理論科目 B問題18を解説します。トランジスタを用いた変成器結合電力増幅回路について、(a)動作点①②③(C級・B級・A級)の性質、(b)最大出力電力と変成器の巻数比を求める問題です。
動作点によりA級(ひずみ最小・効率低)、B級(プッシュプル用)、C級(効率最高・ひずみ最大)と特徴が異なります。最大出力電力はP=(VCE振幅×IC振幅)/2、巻数比は1次側から見た負荷抵抗RL′=VCE振幅/IC振幅を使いn=√(RL′/RS)で求めます。
平成19年度 理論科目 B問題18:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成19年度 第三種電気主任技術者試験」理論科目 B問題18
電験3種 理論科目 【電子理論(電子回路)】 平成19年度 B問題18
トランジスタを用いた変成器結合電力増幅回路について、次の(a)及び(b)に答えよ。図1は回路、図2はVBE-IB特性上の動作点①②③、図3はVCE-ICの波形を示す。
(a) 図2のVBE-IB特性上に3つの動作点①②③があり、①はC級、②はB級、③はA級増幅の動作点である。次の記述のうち誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)出力波形のひずみが最も大きいのは①である。
(2)プッシュプル電力増幅回路に使われるのは②である。
(3)電源効率が最も良いのは②である。
(4)①での動作は③より発熱が少ない。
(5)出力波形のひずみが最も小さいのは③である。(b) 図3から、コレクタ-エミッタ間電圧VCEの振幅は6V、コレクタ電流ICの振幅は7.5mAと読み取れる。負荷抵抗RS=8Ω、電源電圧VCC=6Vのとき、最大出力電力Pom[mW]と変成器の巻数比nの組合せとして最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
Pom[mW] n (1) 23 10 (2) 23 16 (3) 30 10 (4) 30 16 (5) 45 16
解説(a):5つの記述を増幅級の性格で判定する
| 動作点 | 増幅級 | 電流が流れる期間 | 理論最大効率 | ひずみ |
| ① | C級 | 半周期未満 | 80 %以上 | 最大 |
| ② | B級 | 半周期(180°) | 78.5 % | 中 |
| ③ | A級 | 全周期(360°) | 50 % | 最小 |
(1) ひずみが最も大きいのは① → 正しい
C級は信号のごく一部の期間しか電流を流しません。出力波形は元の正弦波とはまるで違う形——ひずみは3つの中で最大です。
(2) プッシュプル電力増幅回路に使われるのは② → 正しい
B級は半周期しか増幅できません。そこで2個のトランジスタで上半分と下半分を分担——これがプッシュプル回路です。
(3) 電源効率が最も良いのは② → ★誤り
効率が最も良いのは①のC級です。電流を流す期間が短いほど無駄な損失が減る——C級80 %以上>B級78.5 %>A級50 %の順です。
(4) ①での動作は③より発熱が少ない → 正しい
効率が高い=損失(熱)が小さいということです。C級(①)はA級(③)よりずっと効率が良いので、発熱も少なくなります。
(5) ひずみが最も小さいのは③ → 正しい
A級は全周期にわたって活性領域で動作します。波形をそのまま拡大するだけなのでひずみが最小——その代わり無信号時も電流が流れ続けて効率が悪いのです。
解説①:A級・B級・C級の違い

動作点①はC級、②はB級、③はA級です。効率とひずみはC級、B級、A級の順に大きく、効率が最も良いのは①のC級なので、(a)の誤りは(3)です。(b)は振幅から最大出力電力を求め、変成器の抵抗変換が巻数比の二乗になることを使います。
解説②:最大出力電力を求める

振幅どうしの積÷2
オームの法則
二乗の関係だから平方根
\(V_mI_m/2\) は「振幅の積の半分」です。実効値で書けば \(V_mI_m/2=(V_m/\sqrt2)(I_m/\sqrt2)\)——実効値どうしの積と同じになります。
解説③:変成器の巻数比を求める

| 選択肢 | \(P_{om}\) | \(n\) | どう間違えると出るか |
| (1) | 23 mW | 10 | ◎ 正解 |
| (2) | 23 mW | 16 | \(P_{om}\) は合っているが \(n\) の求め方を誤った |
| (3) | 30 mW | 10 | \(P_{om}\) で「÷2」を忘れかけた形 |
| (4) | 30 mW | 16 | 両方とも誤り |
| (5) | 45 mW | 16 | \(P_{om}=V_mI_m\)(÷2 を忘れた) |
(5)の45 mWは \(6\times7.5=45\)——「÷2」を忘れた値がそのまま選択肢に置いてあります。正弦波の平均電力は振幅の積の半分、と反射的に出るようにしておいてください。
⚠️ よくある間違い
巻数比で平方根を取り忘れると \(800/8=100\) となり、桁が違ってきます。変成器は「抵抗を巻数比の二乗倍」に変換する——抵抗の比が100倍なら巻数比は10倍、と二乗の関係を必ず思い出してください。
深掘り①:変成器がインピーダンスを変換する仕組み
電圧は \(n\) 倍、電流は \(1/n\) 倍
これがインピーダンス変換
電圧が \(n\) 倍で電流が \(1/n\) 倍なら、その比(抵抗)は \(n^2\) 倍——非常にシンプルな理屈です。
本問では 8 Ω のスピーカを、トランジスタから見て 800 Ω に見せています。巻数比10なら \(10^2=100\) 倍——\(8\times100=800\ \Omega\) です。
深掘り②:なぜインピーダンス整合が必要なのか
電源(増幅器)から負荷へ最大の電力を送るには、負荷抵抗を電源の内部抵抗に等しくする必要があります——最大電力供給の定理です。
スピーカは 8 Ω と低く、トランジスタ増幅回路の出力抵抗は数百Ω。そのままつなぐと大きくミスマッチして、電力がほとんど渡りません。
そこで変成器を挟んで 8 Ω を 800 Ω に「見せかける」——これで整合が取れ、最大の電力をスピーカに送れます。
近年はトランスを使わないOTL(出力トランスレス)回路が主流ですが、インピーダンス整合という考え方自体は今も重要です。
💡 覚え方
変成器=抵抗を \(n^2\) 倍に見せる装置。「電圧 \(n\) 倍・電流 \(1/n\) 倍 → 抵抗 \(n^2\) 倍」と3点セットで覚えれば、巻数比を求めるときに平方根を忘れません。
深掘り③:増幅級と効率の関係を数字で
| 級 | 動作点 | 電流が流れる期間 | 理論最大効率 | 実際の効率 | 用途 |
| A級 | 負荷線の中央 | 360° | 50 % | 20〜30 % | 小信号・高音質 |
| AB級 | 遮断点のやや上 | 180°より少し長い | 50〜78 % | 50〜60 % | オーディオ出力段 |
| B級 | 遮断点 | 180° | 78.5 % | 60〜70 % | プッシュプル |
| C級 | 遮断点より深い | 180°未満 | 80 %以上 | 70〜85 % | 高周波電力増幅 |
効率とひずみは完全なトレードオフです。電流を流す期間が短いほど効率は上がり、波形は崩れる——この一直線の関係が表の背骨になっています。
B級の弱点は、0 V付近で両方のトランジスタが休む「クロスオーバひずみ」。そこでわずかにバイアスをかけて常時少し流すのがAB級——オーディオアンプの主流です。
⏱️ 本番での進め方
❶ 効率は C > B > A、ひずみは C > B > A——順位は同じ向き。
❷ 「発熱が少ない」=「効率が良い」と読み替える。
❸ \(P_{om}=V_mI_m/2\)——「÷2」を忘れると(5)に落ちる。
❹ \(n=\sqrt{R_L’/R_S}\)——平方根を忘れない。
出題履歴:電力増幅と変成器結合は繰り返し出題
増幅級の効率とひずみの順位は、平成27年度A問題13など語句問題としても頻出です。変成器のインピーダンス変換 \(R_1=n^2R_2\) は機械科目の変圧器とも共通——覚える価値の高い1本です。
この分野はほぼ毎年どこかで出題されます。手を動かして解ける状態にしておけば、本番で確実に得点できます。
まとめ
| 動作点 | ①C級・②B級・③A級 |
| (a)誤り | 効率最高はC級①(②ではない)→(3) |
| Pom | 6×7.5m/2=22.5mW≒23mW |
| RL′ | 6/7.5m=800Ω |
| (b)巻数比 | n=√(800/8)=10→(1) |
▼あわせて解きたい関連問題
・演算増幅器の特徴の誤り(電子回路39):【理論】平成19年度 A問題12

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