今回は令和7年度下期 機械科目 A問題3を解説します。巻線形・かご形・単相の3種類の誘導電動機について、それぞれの始動法を問う空欄補充問題です。
整理の軸は「どこをいじって始動するか」。巻線形は二次回路、かご形は一次回路、単相は位相差——この3本立てで覚えると、5つの空欄がすべて素直に埋まります。
令和7年度下期 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和7年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和7年度下期 A問題3
次の文章は,誘導電動機の始動に関する記述である.
a.三相巻線形誘導電動機は,二次回路を調整して始動する.トルクの比例推移特性を利用して,トルクが最大値となる滑りを(ア)付近になるようにする.具体的には,二次回路を(イ)で引き出して抵抗を接続し,二次抵抗値を定格運転時よりも大きな値に調整する.
b.三相かご形誘導電動機は,一次回路を調整して始動する.具体的には,始動時はY結線,通常運転時はΔ結線にコイルの接続を切り替えてコイルに加わる電圧を下げて始動する方法,(ウ)を電源と電動機の間に挿入して始動時の端子電圧を下げる方法,及び(エ)を用いて電圧と周波数の両者を下げる方法がある.
c.三相誘導電動機では,三相コイルが作る磁界は回転磁界である.一方,単相誘導電動機では,単相コイルが作る磁界は交番磁界であり,主コイルだけでは始動しない.そこで,主コイルとは(オ)が異なる電流が流れる補助コイルやくま取りコイルを固定子に設けて,回転磁界や移動磁界を作って始動する.
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ.
次の文章は、誘導電動機の始動に関する記述である。
a. 三相巻線形誘導電動機は、二次回路を調整して始動する。トルクの比例推移特性を利用して、トルクが最大値となる滑りを(ア)付近になるようにする。具体的には、二次回路を(イ)で引き出して抵抗を接続し、二次抵抗値を定格運転時よりも大きな値に調整する。
b. 三相かご形誘導電動機は、一次回路を調整して始動する。具体的には、始動時はY結線、通常運転時はΔ結線にコイルの接続を切り替えてコイルに加わる電圧を下げて始動する方法、(ウ)を電源と電動機の間に挿入して始動時の端子電圧を下げる方法、及び(エ)を用いて電圧と周波数の両者を下げる方法がある。
c. 三相誘導電動機では、三相コイルが作る磁界は回転磁界である。一方、単相誘導電動機では、単相コイルが作る磁界は交番磁界であり、主コイルだけでは始動しない。そこで、主コイルとは(オ)が異なる電流が流れる補助コイルやくま取りコイルを固定子に設けて、回転磁界や移動磁界を作って始動する。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) 1 スリップリング 始動抵抗器 始動コンデンサ 周波数 (2) 0 整流子 始動抵抗器 始動コンデンサ 位相 (3) 0 スリップリング 始動補償器 インバータ 周波数 (4) 1 スリップリング 始動補償器 インバータ 位相 (5) 1 整流子 始動抵抗器 インバータ 位相

出題のポイント:機種ごとに「いじる場所」が決まっている
問題文の a・b・c が、そのまま3つの機種に対応しています。それぞれ「どこをいじって始動するか」が違う——この3本立てで整理すれば、5つの空欄が素直に埋まります。
| 段落 | 機種 | いじる場所 | 具体的な方法 |
| a | 三相巻線形 | 二次回路 | スリップリングから外部抵抗を接続(比例推移) |
| b | 三相かご形 | 一次回路 | Y-Δ/始動補償器/インバータ |
| c | 単相 | 磁束の位相 | 補助コイル・くま取りコイル |
5つの空欄を確定する
(ア):始動の瞬間の滑りは1
始動の瞬間は回転子が静止していますから、滑り s=(Ns−0)/Ns=1。(ア)=1です。
「0」を選んではいけません。s=0 は同期速度で、始動とは正反対の状態です。この一語で(2)(3)が消えます。
(イ):二次回路の引き出し口はスリップリング
(イ)=スリップリング。整流子は直流機の部品で、電流の向きを機械的に切り替えるためのものです。誘導機の二次回路を外へ引き出す用途には使いません——これで(5)も消えます。
(ウ)(エ):かご形の一次側の2つの方法
「電源と電動機の間に挿入して端子電圧を下げる」——三相単巻変圧器を使う始動補償器です。(ウ)=始動補償器。「始動抵抗器」は巻線形の二次側に入れる抵抗を指す語で、かご形の一次側の話ではありません。
「電圧と周波数の両者を下げる」——両方を同時に下げられるのはインバータだけです。(エ)=インバータ。始動コンデンサは単相電動機で位相をずらす部品なので、三相かご形の話には入りません。
(オ):同じ電源なら違えられるのは位相だけ
主コイルと補助コイルは同じ単相電源につながっています。だから周波数は必ず同じ——違えられるのは位相だけです。(オ)=位相。
これは物理で切れる空欄です。「同じ電源につながっているものの周波数が違う」ということは、原理的にあり得ません。
★同一問題:平成23年度 A問題2として出題されている
この問題は平成23年度 A問題2とほぼ同一です。5つの空欄の答えも同じ——ところが正解の番号が違います。
| 平成23年度 A問題2 | 令和7年度下期 A問題3(本問) | |
| (ア)(イ) | 1・スリップリング | 1・スリップリング(同じ) |
| (ウ)(エ) | 始動補償器・インバータ | 始動補償器・インバータ(同じ) |
| (オ) | 位相 | 位相(同じ) |
| 正解の番号 | (1) | (4) |
14年ぶりの再出題で、選択肢が並べ替えられて正解が (1) から (4) へ移動しています。「答えは(1)」と番号で覚えていた人は、本問で確実に外します。
覚えるべきは「1・スリップリング・始動補償器・インバータ・位相」という5語の並びです。14年という長い間隔を置いても同じ文面で出題される——始動法は誘導機の中心的な論点として定着しているということでしょう。
くま取りコイルはどうやって回すのか
(オ)に関連して出てくる「くま取りコイル」は、単相誘導電動機のなかでも最も単純な始動方式です。補助コイルすら要りません。
磁極の一部を、太い銅の輪(短絡環)で囲むだけです。この輪の中を通る磁束が変化すると、輪に誘導電流が流れて磁束の変化を妨げます(レンツの法則)——その結果、囲まれた部分の磁束だけが遅れるのです。
| 時間 | 囲まれていない部分の磁束 | くま取り部分の磁束 | 磁束の重心 |
| 磁束が増えていくとき | 素直に増える | 遅れて増える | 囲まれていない側に寄る |
| 磁束が減っていくとき | 素直に減る | 遅れて減る | くま取り側に寄る |
磁束の重心が左右に振れる——これが「移動磁界」です。完全な回転磁界ではありませんが、一方向に磁界が動くので回転子を回し始めることができます。回転方向は「囲まれていない側からくま取り側へ」と構造で決まってしまうので、配線を変えても逆転できません。
始動トルクは非常に小さく効率も低いのですが、銅の輪を付けるだけという圧倒的な単純さがあります。数ワットの換気扇に高級な始動装置は要らない——用途に対して十分な性能を、最小の部品数で実現している点が、この方式の値打ちです。
⏱️ 本番での進め方
① a・b・c が3機種に対応:巻線形=二次、かご形=一次、単相=位相。
② (ア)は1——始動=静止=滑り1。0は同期速度の話。
③ (オ)は物理で切れる——同じ電源なら周波数は同じ。
④ 「電圧と周波数の両方」はインバータの専売特許。
💡 覚え方
「巻線形は二次で比例推移(s=1へ)、かご形は一次でY-Δ・補償器・インバータ、単相は位相ずらしで回す」。始動時の滑りは1で、sm=1 にするには r2+R=x2。くま取りコイルは短絡環で磁束を遅らせて移動磁界を作るので回転方向は変えられない。
⚠️ よくある間違い
(オ)に「周波数」を選ぶのが最頻の誤りです。主コイルと補助コイルは同じ電源につながっているのですから、周波数が違うはずがありません。もう一つは(イ)に整流子——スリップリングは連続した環(交流をそのまま取り出す)、整流子は分割された片(直流に変換する)で、見た目も役割も別物です。
「始動補償器」と「始動抵抗器」——紛らわしい2語
(ウ)の選択肢に並ぶこの2つは、名前が似ているうえ、どちらも実在する始動装置です。混同しやすいので、はっきり区別しておきましょう。
| 始動補償器 | 始動抵抗器 | |
| 入れる場所 | 一次側(電源と電動機の間) | 二次側(回転子回路) |
| 中身 | 三相単巻変圧器 | 抵抗器 |
| 使う機種 | かご形 | 巻線形 |
| 効果 | 端子電圧を下げる(電流もトルクも下がる) | 二次抵抗を増やす(電流は下がりトルクは上がる) |
| 別名 | コンドルファ始動器 | 始動器(巻線形用) |
決定的な違いは「電流とトルクが同じ向きに動くかどうか」です。始動補償器は電圧を下げるので両方とも減りますが、始動抵抗器は比例推移が働くので電流が減ってトルクは増えます。
本問の(ウ)は「電源と電動機の間に挿入して端子電圧を下げる」と書いていますから、一次側の話——始動補償器です。問題文が場所を明示してくれているので、そこを読めば迷いません。
逆に、段落a の巻線形の話では「二次回路を(イ)で引き出して抵抗を接続し」とあります。こちらが始動抵抗器——同じ問題の中で両方が登場しているのです。場所(一次か二次か)を手がかりにすれば、名前の紛らわしさに惑わされません。
まとめ
| 巻線形の始動 | 二次回路を調整(スリップリングで引き出し、二次抵抗を挿入) |
| 比例推移 | 二次抵抗を大きくすると最大トルクの滑りが大きくなる ⇒ s=1 で最大トルク |
| かご形の始動 | 一次回路を調整(Y-Δ・始動補償器・リアクトル・インバータ) |
| 始動補償器 | 単巻変圧器で端子電圧を下げる(一次側) |
| インバータ | 電圧と周波数の両方を下げる(V/f 一定制御) |
| 単相の始動 | 主コイルと位相の異なる電流を流す補助コイル・くま取りコイル |
| 答え | (4) |
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