電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「誘導電動機の始動」は巻線形・かご形・単相の3タイプを横断して問う総合テーマです。本記事では、平成23年度 A問題2を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
整理の軸はただひとつ:巻線形は二次側、かご形は一次側、単相は位相差。どこをいじって始動するかがタイプごとに決まっています。
平成23年度 機械科目 A問題2:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成23年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題2
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成23年度 A問題2(要約)
a. 巻線形は二次回路を調整して始動。比例推移で最大トルクの滑りを(ア)付近にする。二次回路は(イ)で引き出して抵抗を接続。b. かご形は一次回路を調整。Y−Δ切換のほか、(ウ)を電源と電動機の間に挿入して端子電圧を下げる方法、(エ)で電圧と周波数の両者を下げる方法がある。c. 単相誘導電動機は交番磁界のため主コイルだけでは始動せず、主コイルと(オ)が異なる電流が流れる補助コイルやくま取りコイルで回転磁界・移動磁界を作る。
(1) 1・スリップリング・始動補償器・インバータ・位相 (2) 0・整流子・始動コンデンサ・始動補償器・位相 (3) 1・スリップリング・始動抵抗器・始動コンデンサ・周波数 (4) 0・整流子・始動コンデンサ・始動抵抗器・位相 (5) 1・スリップリング・始動補償器・インバータ・周波数
出題のポイント:機種ごとに「いじる場所」が決まっている
誘導電動機の始動法は、機種によっていじる場所が違います。この一覧が頭にあれば、a・b・c を読みながら埋まります。
| 機種 | どこをいじるか | 具体的な方法 | 根拠 |
| 巻線形 | 二次回路 | スリップリングから外部抵抗を接続 | 比例推移で最大トルクを s=1 へ |
| かご形 | 一次回路 | Y-Δ・始動補償器・インバータ | 二次側に手が出せないから |
| 単相 | 磁束の位相 | 補助コイル・くま取りコイル | 交番磁界だけでは始動トルクがゼロ |

空欄を確定する
(ア):始動時の滑りは1
始動の瞬間は回転子が静止していますから、滑り s=(Ns−0)/Ns=1。(ア)=1。「最大トルクの滑りを1付近にする」=「始動の瞬間に最大トルクを出す」ということです。
「0」を選んではいけません。s=0 は同期速度ですから、始動の話とはまったく別です。
(イ):二次回路の引き出し口はスリップリング
(イ)=スリップリング。整流子は直流機の部品で、電流の向きを切り替えるためのもの——役割がまったく違います。
(ウ)(エ):かご形の一次側の2つの方法
「電源と電動機の間に挿入して端子電圧を下げる」——三相単巻変圧器を使う始動補償器です。(ウ)=始動補償器。
「電圧と周波数の両者を下げる」——V/f 一定制御のインバータです。(エ)=インバータ。電圧だけでなく周波数も下げるのがインバータの特徴で、この一語が他の方式と決定的に違う点です。
「始動コンデンサ」は単相誘導電動機のものですから、三相かご形の話である b には入りません。
(オ):同じ電源なら違えられるのは位相だけ
主コイルと補助コイルは同じ単相電源につながっています。だから周波数は必ず同じ——違えられるのは位相だけです。(オ)=位相。
(1)と(5)は(オ)だけの違いですから、この論理だけで正解が決まります。「同じ電源につながっているものの周波数が違う」ということはあり得ない——物理で切れる問題です。


くま取りコイルはどうやって回すのか
問題文の「くま取りコイル」は、単相誘導電動機のなかでも最も単純な始動方式です。補助コイルすら要りません。
磁極の一部を、太い銅の輪(短絡環)で囲むだけです。この輪の中を通る磁束が変化すると、輪に誘導電流が流れて磁束の変化を妨げます(レンツの法則)——その結果、囲まれた部分の磁束だけが遅れるのです。
| 時間 | 囲まれていない部分の磁束 | くま取り部分の磁束 | 磁束の重心 |
| 磁束が増えていくとき | 素直に増える | 遅れて増える | 囲まれていない側に寄る |
| 磁束が減っていくとき | 素直に減る | 遅れて減る | くま取り側に寄る |
磁束の重心が左右に振れる——これが「移動磁界」です。完全な回転磁界ではありませんが、一方向に磁界が動くので回転子を回し始めることができます。回転方向は必ず「囲まれていない側からくま取り側へ」と決まっています。
| 補助コイル方式 | くま取りコイル方式 | |
| 作るもの | 擬似的な回転磁界 | 移動磁界 |
| 位相のずらし方 | コンデンサや巻線抵抗 | 短絡環の誘導電流 |
| 始動トルク | 大きい(コンデンサなら特に) | 非常に小さい |
| 構造 | 巻線が2組要る | 銅の輪を付けるだけ |
| 回転方向 | 配線で変えられる | 変えられない(構造で決まる) |
| 用途 | ポンプ・コンプレッサ | 小形ファン・レンジフード |
くま取りコイル形は効率も始動トルクも低いのですが、とにかく安く単純です。数ワットの換気扇に高級な始動装置は要らない——用途に対して十分な性能を最小の部品数で実現している点が、この方式の値打ちです。
⏱️ 本番での進め方
① 機種ごとに「いじる場所」を決めておく:巻線形=二次、かご形=一次、単相=位相。
② (ア)は1——始動=静止=滑り1。0は同期速度の話。
③ (オ)は物理で切れる——同じ電源なら周波数は同じ、違えられるのは位相だけ。
④ 「電圧と周波数の両方」はインバータの専売特許。
巻線形の始動抵抗器はなぜ「段」を持つのか
(ア)で確認したとおり、始動の瞬間に最大トルクを出すには sm=1 となる抵抗を入れます。ところが、回り始めた途端にその抵抗は邪魔になります。
回転が上がれば滑りは下がっていきます。抵抗を入れたままでは、s が sm=1 から離れていくのでトルクがどんどん落ちる——加速が止まってしまいます。
| 加速の段階 | 滑り s | そのときの最適な二次抵抗 | 操作 |
| 始動の瞬間 | 1.0 | r2+R=x2(全抵抗) | すべての抵抗を入れる |
| 加速中 | 0.5 | その半分 | 1段目を短絡 |
| さらに加速 | 0.25 | さらに半分 | 2段目を短絡 |
| 定格速度 | 0.03 | r2 だけ | 全部短絡する |
滑りが下がるのに合わせて抵抗を減らしていけば、常に山の頂上付近で加速を続けられます。これが始動抵抗器が段数を持つ理由です。直流機の始動抵抗器が段数を持つのと目的は似ていますが、中身は違います。
| 直流機の始動抵抗器 | 巻線形誘導機の始動抵抗器 | |
| 入れる場所 | 電機子回路(一次側) | 二次回路 |
| 目的 | 始動電流を抑える | 始動トルクを最大にする(+電流も抑える) |
| 段を進める合図 | 逆起電力が上がって電流が下がったら | 滑りが下がってトルクが落ち始めたら |
| トルクへの影響 | トルクも減ってしまう | トルクは増える(比例推移) |
決定的な違いは最下行です。直流機では抵抗を入れると電流もトルクも減るのに対し、巻線形誘導機では電流が減ってトルクは増える——比例推移という現象があるからこその特権です。
だから巻線形はクレーンや巻上機に使われてきました。荷を吊ったまま始動しなければならない——電流を抑えつつ最大トルクで始動できる方式は、ほかにインバータしかありません。
★同一問題:令和7年度下期 A問題3として再出題されている
この問題は令和7年度下期 A問題3としてほぼ同一の内容で再出題されています。5つの空欄の答えも同じですが、正解の番号が違います。
| 平成23年度 A問題2(本問) | 令和7年度下期 A問題3 | |
| (ア)(イ) | 1・スリップリング | 1・スリップリング(同じ) |
| (ウ)(エ) | 始動補償器・インバータ | 始動補償器・インバータ(同じ) |
| (オ) | 位相 | 位相(同じ) |
| 正解の番号 | (1) | (4) |
14年ぶりの再出題で、選択肢が並べ替えられて正解が (1) から (4) へ移動しています。本問を「答えは(1)」と番号で覚えていた人は、令和7年度下期で確実に外します。
覚えるべきは「1・スリップリング・始動補償器・インバータ・位相」という5語の並びです。14年という長い間隔を置いても同じ文面で出題される——始動法は誘導機の中心的な論点として定着しているということでしょう。
「巻線形は二次、かご形は一次、単相は位相」という3本立てさえ頭にあれば、選択肢の並びがどう変わっても対応できます。
💡 覚え方
「巻線形は二次で比例推移(s=1へ)、かご形は一次でY-Δ・補償器・インバータ、単相は位相ずらしで回す」。始動時の滑りは1。sm=1 にするには外部抵抗を R=x2−r2 とすればよい。くま取りコイルは短絡環で磁束を遅らせて移動磁界を作るので、回転方向は構造で決まってしまう。
⚠️ よくある間違い
(オ)に「周波数」を選ぶのが最頻の誤りです。主コイルと補助コイルは同じ電源につながっているのですから、周波数が違うはずがありません。もう一つは(イ)に整流子——スリップリングは連続した環(交流をそのまま取り出す)、整流子は分割された片(直流に変換する)で、見た目も役割も別物です。

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