今回は令和7年度下期 機械科目 A問題4を解説します。Y-Δ始動したときの始動トルクから、定格運転時のトルクを逆算する計算問題です。
使う知識は「Y-Δ始動では始動電流もトルクも 1/3 になる」の1点だけ。Y結線にすると相電圧が 1/√3 になり、トルクは電圧の2乗に比例するので (1/√3)²=1/3——ここさえ押さえれば2行で解けます。
令和7年度下期 機械科目 A問題4:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和7年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題4
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和7年度下期 A問題4
あるかご形三相誘導電動機を定格電圧でY-Δ始動したところ,始動トルクは49.0N・mであった.また,Δ結線での全電圧始動時(定格電圧)の始動トルクは定格運転時の210%である.この電動機の定格運転時のトルクの値[N・m]として,最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ.
あるかご形三相誘導電動機を定格電圧でY-Δ始動したところ、始動トルクは49.0N・mであった。また、Δ結線での全電圧始動時(定格電圧)の始動トルクは定格運転時の210%である。この電動機の定格運転時のトルクの値[N・m]として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)16.3 (2)23.3 (3)28.3 (4)40.4 (5)70.0 N・m

出題のポイント:Y-Δ始動は「電圧1/√3・トルク1/3」
Y-Δ始動の問題は、比率が3つ——電圧が1/√3、電流が1/3、トルクが1/3——を正しく使い分けられるかで決まります。電圧だけが1/√3で、電流とトルクは1/3という非対称が引っかけどころです。
問題の解説:逆算で定格トルクへ
本問は逆向きに問われています。Y-Δ始動したときのトルク49.0 N·m から出発して、定格トルクを求める——2段階の逆算です。
Y始動はΔの1/3なので、逆算するには3倍する。
「Δ結線での全電圧始動時の始動トルクは定格運転時の210 %」を使う。
147÷2.1=70。
選択肢はすべて「係数の取り違え」
| 選択肢 | そう出る計算 | どこを間違えたか |
| (1) 16.3 | 49.0 ÷ 3 | 3倍すべきところを3で割った(向きが逆) |
| (2) 23.3 | 49.0 ÷ 2.10 | Y-Δの1/3を忘れた(210 % だけで割った) |
| (3) 28.3 | 49.0 ÷ √3 | トルク比を1/√3とした(電圧比と混同) |
| (4) 40.4 | 49.0 × √3 ÷ 2.10 | 3倍ではなく√3倍にした |
| (5) 70.0 | 49.0 × 3 ÷ 2.10 | 正解 |
5つの選択肢が「3で割る/2.10で割る/√3で割る/√3倍する/3倍する」を全部並べてあります。電圧は1/√3、トルクと電流は1/3——この使い分けを最初に紙に書いてから計算に入れば、取り違えは起きません。
方向で絞ることもできます。始動トルク49.0 N·m はY結線での値=最も小さい値です。Δ全電圧ならその3倍、定格運転はさらにその1/2.1ですから、答えは49.0 より大きいはず。(1)(2)(3)(4)はすべて49.0 より小さいので、この1点だけで(5)に決まります。
なぜY-Δ始動を使うのか、そして何を失うのか
Y-Δ始動の目的は始動電流を抑えることです。かご形誘導電動機は全電圧で始動すると定格の5〜7倍の電流が流れ、電源系統の電圧を下げてしまう(他の機器に迷惑をかける)ため、何らかの対策が要ります。
| Δ全電圧始動 | Y-Δ始動 | 比 | |
| 1相にかかる電圧 | V | V/√3 | 1/√3 |
| 相電流 | Ip | Ip/√3 | 1/√3 |
| 線電流 | √3 Ip | Ip/√3 | 1/3 |
| トルク | T | T/3 | 1/3 |
線電流が1/3になるのがY-Δ始動の値打ちです。Δ結線では線電流が相電流の√3倍ですが、Y結線では線電流=相電流——この違いで1/√3 × 1/√3=1/3 になります。
代償はトルクも1/3になることです。電流とトルクが同じ割合で減るので、「電流だけ減らしてトルクは保つ」という都合のよいことはできません。重負荷では始動できない——だからY-Δ始動は無負荷または軽負荷で始動できる機械に限られます(送風機・ポンプなど)。
本問の数値で確かめてみましょう。定格トルクが70.0 N·m の機械で、Y始動時のトルクは49.0 N·m=定格の70 %。負荷が定格の70 % を超えていると始動できません。Δ全電圧なら147 N·m=定格の210 %出せるので、こちらなら問題なく始動できます——「電流を取るかトルクを取るか」の選択だということが数字で分かります。
⏱️ 本番での進め方
① 「電圧1/√3、電流1/3、トルク1/3」を紙に書いてから始める。
② 逆算の向きを確認:Y始動の値から出発するなら3倍してΔへ。
③ 210 % は「定格の2.10倍」なので、定格に戻すには2.10で割る。
④ 答えは49.0より大きいと先に決める。それだけで(5)に絞れる。
💡 覚え方
Y-Δ始動は「電圧1/√3・電流1/3・トルク1/3」。トルクが1/3なのは電圧の2乗に比例するから((1/√3)2)。線電流が1/3になるのは、Δでは線電流が相電流の√3倍だから。電流もトルクも同じ1/3なので、重負荷では始動できないのが弱点。
⚠️ よくある間違い
トルク比を1/√3としてしまう(→(3)28.3)のが典型です。1/√3なのは電圧だけで、トルクは2乗に比例するので1/3。もう一つは逆算の向きを間違える(→(1)16.3)こと——Y始動の値はいちばん小さいので、そこから定格へ戻すなら大きくなるはずです。
他の始動法と比べてみる
Y-Δ始動はかご形誘導電動機の始動法のひとつにすぎません。他の方法と並べると、Y-Δの位置づけがはっきりします。
| 始動法 | 電圧比 | 始動電流比 | 始動トルク比 | 特徴 |
| 全電圧(直入れ) | 1 | 1(定格の5〜7倍) | 1 | 小容量機のみ。最も簡単 |
| Y-Δ始動 | 1/√3 | 1/3 | 1/3 | 安価・定番。切替時に突入電流 |
| リアクトル始動 | 任意 a | a | a2 | 電圧を連続的に選べる |
| 始動補償器(単巻変圧器) | 任意 a | a2 | a2 | 電流もa2で減る(変圧器だから) |
| インバータ | 周波数も可変 | 定格程度 | 大きくできる | 最良だが高価 |
リアクトル始動と始動補償器の違いに注目してください。どちらも電圧を a 倍に下げますが、電源側から見た電流はリアクトルが a 倍、始動補償器は a2 倍です。変圧器は電圧を下げた分だけ電流を増やして電力を保つので、一次側から見ると電流の減り方が2乗になるのです。
Y-Δ始動が「電流1/3・トルク1/3」で始動補償器の a=1/√3 と同じになるのは偶然ではありません。Y-Δも実質的に「電圧を1/√3にする」変圧器なしの手段だからです。変圧器が要らない分だけ安く、その代わり比率を選べない——これがY-Δの立ち位置です。
Y-Δには弱点もあります。YからΔへ切り替える瞬間、電動機がいったん電源から切り離されるため、再投入時に大きな突入電流とトルクショックが出ます。これを避けるため、Δ側の一部を先に入れる「コンドルファ始動」など切替方式に工夫があることも知っておくとよいでしょう。
★同型問題:令和5年度下期にも同じ形で出ている
この問題は令和5年度下期 A問題4と同じ形の問題です。数値だけが差し替えられています。
| 令和5年度下期 A問題4 | 令和7年度下期 A問題4 | |
| Y始動トルク(与えられる値) | 60 N·m | 49.0 N·m |
| Δ全電圧始動トルク | 定格の240 % | 定格の210 % |
| 計算 | 60×3÷2.40 | 49.0×3÷2.10 |
| 定格運転トルク | 75 N·m | 70.0 N·m |
| 正解の番号 | (5) | (5) |
「Y始動トルクを3倍してΔ全電圧始動トルクにし、それを倍率で割って定格へ戻す」——2手で終わる手順がそのまま共通です。倍率が240 % か210 % かが違うだけで、考え方は1ミリも変わりません。
2年間隔での再出題ですから、Y-Δ始動のトルク計算はこの形で定着していると見てよいでしょう。与えられるのがY始動トルク、聞かれるのが定格トルク——という向きも共通です。
どちらも正解が(5)ですが、これは偶然です。同じ問題で選択肢の並びが変わり正解番号が動いた例は直流機に複数あります。値を出してから選択肢を照合する手順を崩さないでください。
まとめ
| Y-Δ始動の電圧 | 1相にかかる電圧が線間の 1/√3 |
| Y-Δ始動の電流 | 全電圧始動の 1/3 |
| Y-Δ始動のトルク | 電圧の2乗に比例 ⇒ (1/√3)²=1/3 |
| 本問の与件 | T_Y=49.0 N·m、T_Δ=定格の210% |
| Δ全電圧始動 | T_Δ=49.0×3=147 N·m |
| 定格トルク | T=147/2.10=70.0 N·m |
| 答え | (5) |
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