電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「Y−Δ始動とトルク」は1/3の法則を使いこなせるかを試す頻出テーマです。本記事では、令和5年度下期 A問題4「Y始動トルクから定格トルクを逆算する」問題を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
計算は掛け算と割り算の2回だけ。「Y始動トルクはΔの1/3」→ ×3、「Δ始動トルクは定格の240 %」→ ÷2.4。条件文を数直線のように並べられれば10秒で解けます。
令和5年度下期 機械科目 A問題4:問題文と選択肢
3つのトルクを大小順に並べてから計算に入ります。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題4
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和5年度下期 A問題4
あるかご形三相誘導電動機を定格電圧で Y-Δ始動したところ、始動トルクは 60 N・m であった。また、Δ結線での全電圧始動時(定格電圧)の始動トルクは定格運転時の 240 %である。この電動機の定格運転時のトルクの値 [N・m] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 20 (2) 25 (3) 35 (4) 43 (5) 75
出題のポイント:3つのトルクを数直線に並べる
この問題にはトルクが3つ登場します。どれとどれの比なのかを取り違えると、掛けるべきところで割ってしまいます。先に大小関係を並べてしまうのが確実です。
| 何のトルクか | 本問での値 | 隣との関係 | |
| ① Y始動トルク | Y-Δ始動でYにしたときの始動トルク | 60 N·m(与えられた値) | — |
| ② Δ全電圧始動トルク | Δのまま直入れしたときの始動トルク | 180 N·m | ①の3倍 |
| ③ 定格運転トルク | 定格で回っているときのトルク | 75 N·m(求める値) | ②の1/2.4 |
大きい順に ② 180 > ③ 75 > ① 60——始動トルクがいちばん大きいのはΔ直入れ、いちばん小さいのがY始動です。この並びを先に書いてしまえば、計算の向きを間違えようがありません。

2回の換算で答えが出る
Yで始動するとΔの1/3なので、遡るには3倍する。
「Δ全電圧始動時の始動トルクは定格運転時の240 %」=定格の2.40倍。



選択肢はすべて「係数の取り違え」
| 選択肢 | そう出る計算 | どこを間違えたか |
| (1) 20 | 60 ÷ 3 | 3倍すべきところを3で割った(向きが逆) |
| (2) 25 | 60 ÷ 2.40 | Y-Δの1/3を忘れた(240 % だけで割った) |
| (3) 35 | 60 ÷ √3 | トルク比を1/√3とした(電圧比と混同) |
| (4) 43 | 60 × √3 ÷ 2.40 | 3倍ではなく√3倍にした |
| (5) 75 | 60 × 3 ÷ 2.40 | 正解 |
「3で割る/2.40で割る/√3で割る/√3倍する/3倍する」が全部並んでいます。方向で絞ることもできます——Y始動トルク60 N·m は3つの中でいちばん小さいのですから、定格トルクは60より大きいはず。(1)(2)(3)(4)はすべて60未満なので、この1点だけで(5)に決まります。
なぜトルクは電圧の2乗に比例するのか
「T∝V²」は覚えるものではなく、2つの比例をつないだ結果です。
だから電圧が80 % に下がるとトルクは64 % に落ちます。電圧低下の影響がトルクでは倍加して現れる——この感覚は電圧低下の問題でもそのまま使えます。
| 電圧の比 | トルクの比 | 具体例 |
| 1/√3=0.577 | 1/3=0.333 | Y-Δ始動 |
| 0.80 | 0.64 | 電源電圧が20 % 低下 |
| 0.90 | 0.81 | 電源電圧が10 % 低下 |
| 0.50 | 0.25 | 始動補償器の50 % タップ |
Y-Δ始動が使える負荷か、数字で判定する
本問の答えが出たところで、実務的な確認をしておきましょう。この電動機はY始動で本当に始動できるのか——Y始動トルク60 N·m と定格トルク75 N·m を比べます。
負荷トルクが定格の80 % を超えていたら始動できない。
これは決して余裕のある数字ではありません。負荷が軽い状態で始動できる機械にしか、Y-Δ始動は使えないということです。
| 負荷の種類 | 始動時に必要なトルク | Y-Δ始動 |
| ファン・ポンプ(二乗低減トルク) | 低速では非常に小さい(速度の2乗で増える) | 向いている |
| コンベヤ・工作機械(定トルク) | 低速でも定格に近いトルクが要る | 厳しい |
| 圧縮機(負荷をかけたまま始動) | 始動の瞬間から大きい | 使えない |
ファンやポンプの負荷トルクは回転速度の2乗に比例します。始動直後の低速域ではほとんどゼロなので、Y始動の弱いトルクでも十分に加速できます。Y-Δ始動が送風機やポンプで広く使われているのは、この負荷特性のおかげです。
逆に圧縮機のように「最初から重い」負荷では、Y結線のまま加速できずに止まってしまいます。その場合は始動補償器やインバータ、あるいは無負荷で始動してから負荷をかける(アンローダ)といった対策が要ります。
⏱️ 本番での進め方
① 3つのトルクを大小順に並べてから計算:Δ始動 > 定格 > Y始動。
② 電圧1/√3、電流とトルクは1/3——1/√3 なのは電圧だけ。
③ 答えは60より大きいはず。それだけで(1)〜(4)が消える。
④ 240 % は「定格の2.40倍」。定格に戻すには2.40で割る。
★同型問題:令和7年度下期にも同じ形で出ている
この問題は令和7年度下期 A問題4とまったく同じ形で再出題されています。数値だけを差し替えた双子です。
| 令和5年度下期 A問題4 | 令和7年度下期 A問題4 | |
| Y始動トルク(与えられる値) | 60 N·m | 49.0 N·m |
| Δ全電圧始動トルク | 定格の240 % | 定格の210 % |
| 計算 | 60×3÷2.40 | 49.0×3÷2.10 |
| 定格運転トルク | 75 N·m | 70.0 N·m |
| 正解の番号 | (5) | (5) |
解き方は完全に同じ「×3 して ÷(何 %)」の2手です。変わっているのは与えられたトルクと、Δ全電圧始動時の倍率だけ——240 % か210 % かという違いにすぎません。
2年しか離れていない再出題ですから、次に出るときも同じ形と考えてよいでしょう。数値が変わっても手順が変わらない問題は、練習の費用対効果が最も高い——この2本を続けて解いて、手が勝手に動くようにしておく価値があります。
偶然ですが、どちらも正解が(5)です。ただしこれは信用してはいけない一致で、直流機では同じ問題で番号が(4)と(2)に分かれた例があります。あくまで値を出してから選択肢を見てください。
💡 覚え方
Y-Δ始動は「電圧1/√3・電流1/3・トルク1/3」。T∝V² なのは、磁束も二次電流も電圧に比例するから。本問は「×3 して ÷2.40」の2手。Y始動トルクが定格の80 % しかないので、Y-Δ始動は軽負荷始動できる機械(ファン・ポンプ)に限られる。
⚠️ よくある間違い
240 % を「Y始動トルクの240 %」と読んで 60÷2.40=25 とするのが本問最大の罠です(選択肢(2))。問題文は「Δ結線での全電圧始動時の始動トルクは定格運転時の240 %」——比べているのはΔ始動と定格です。もう一つはトルク比を1/√3とすること(選択肢(3))。

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