電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「トルク計算」は \( T = P/\omega \) を正しく使えるかを試す最頻出テーマです。本記事では、令和5年度上期 A問題4「滑り4 %で運転する誘導電動機のトルク」を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
落とし穴はただ一つ:「定格出力」は実際の回転速度での出力なので、ωも実速度(滑り込み)で使うこと。同期速度のωで割ると 382 N・m(選択肢(1))に誘導されます。
令和5年度上期 機械科目 A問題4:問題文と選択肢
出力と角速度を「同じ段」で組むことが、この問題のすべてです。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度上期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題4
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和5年度上期 A問題4
定格出力 36 kW、定格周波数 60 Hz、8 極のかご形三相誘導電動機があり、滑り 4 %で定格運転している。このとき、電動機のトルク [N・m] の値として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、機械損は無視できるものとする。
(1) 382 (2) 398 (3) 428 (4) 458 (5) 478
出題のポイント:出力と角速度は「同じ段」で組む
T=P/ω——式そのものは簡単ですが、誘導機には「出力」も「角速度」も2種類ずつあるのが厄介なところです。組み合わせを間違えると、そのままワナの選択肢に着地します。
| 段階 | 電力 | 角速度 | 組み合わせてよいか |
| 同期速度の段 | 二次入力 P2(同期ワット) | 同期角速度 ωs | ○ T=P2/ωs |
| 実速度の段 | 機械出力 Po | 実際の角速度 ω | ○ T=Po/ω |
| 混ぜる | 機械出力 Po | 同期角速度 ωs | ✗ これが誤答(1)382 |
本問は「定格出力36 kW」という機械出力が与えられているので、組むべきは実際の角速度です。

3ステップで解く
8極・60 Hz。極数の読み違いに注意。
滑り4 % の分だけ遅い。
min−1 のままでは割れない。
kW を W に直してから。



別解:同期ワットで解いても同じ答えになる
もう一方のペアで解いても、当然ながら同じ値になります。検算として使えるので、余裕があれば両方やってみてください。
機械出力は二次入力の (1−s) 倍だったので、割れば戻る。
✓ 一致
なぜ必ず一致するのか——分子も分母も同じ (1−s) が掛かっているからです。
同期速度は暗記しておくと速い
誘導機の計算問題では、ほぼ毎回 Ns=120f/p を計算します。よく出る組み合わせは覚えてしまったほうが速く、しかも極数の読み違いにも気づけます。
| 極数 | 50 Hz | 60 Hz |
| 2極 | 3 000 | 3 600 |
| 4極 | 1 500 | 1 800 |
| 6極 | 1 000 | 1 200 |
| 8極 | 750 | 900 |
| 10極 | 600 | 720 |
60 Hz の階段「3 600 → 1 800 → 1 200 → 900」と50 Hz の階段「3 000 → 1 500 → 1 000 → 750」——この2列を覚えておけば、問題文の回転速度を見た瞬間に極数の見当がつきます。
本問なら「864 min−1」という半端な数字から、いちばん近い同期速度は900(8極・60 Hz)だと逆に読むこともできます。計算結果の妥当性チェックとして使ってください。
機械損があったらどうなるか
本問は「機械損は無視できる」と断っています。この一文がなければ答えが変わるので、条件文の意味を確認しておきましょう。
| 本問(機械損を無視) | 機械損がある場合 | |
| 定格出力36 kW の意味 | 機械出力=軸出力=36 kW | 軸出力=36 kW(機械損はその外側) |
| トルクの計算に使う電力 | 36 kW | 36 kW+機械損 |
| 求まるトルク | 398 N·m | もう少し大きい |
電動機が発生している電磁的なトルクは、軸から取り出せる分より少し大きいのです。その差が軸受の摩擦や風損(機械損)——電動機自身が自分を回すために使ってしまう分だと考えてください。
「電動機のトルク」と聞かれたときに、どちらを答えるのか——問題文が機械損を無視すると言っている以上、区別する必要がないということです。条件文は「考えなくてよいこと」を教えてくれていると読みましょう。
⏱️ 本番での進め方
① 出力と角速度はペアで選ぶ:機械出力なら実速度、同期ワットなら同期速度。
② 60 Hz の同期速度は3 600→1 800→1 200→900 の階段で暗記。
③ 単位を最初にそろえる:kW→W、min−1→rad/s(×2π/60)。
④ 両方のルートで解いて検算できる。(1−s) が約分されるので必ず一致する。
同じ出力でも、極数が多いほどトルクは大きい
本問の答え398 N·m という値が「大きい」のか「小さい」のか——相場感を持っておくと、計算結果の妥当性チェックに使えます。
同じ36 kW・60 Hz・滑り4 % の電動機を、極数だけ変えて比べてみましょう。
| 極数 | 同期速度 | 実速度(s=4 %) | 角速度 | トルク |
| 2極 | 3 600 min−1 | 3 456 min−1 | 362 rad/s | 99 N·m |
| 4極 | 1 800 min−1 | 1 728 min−1 | 181 rad/s | 199 N·m |
| 6極 | 1 200 min−1 | 1 152 min−1 | 121 rad/s | 298 N·m |
| 8極(本問) | 900 min−1 | 864 min−1 | 90.5 rad/s | 398 N·m |
極数が2倍になれば速度が半分になり、同じ出力ならトルクは2倍です。P=Tω が一定なのだから当たり前ですが、この表を頭に置いておくと「8極で400 N·m 前後」という見当がその場で立ちます。
トルクが大きいということは、軸も回転子も太くなるということです。低速大トルクの機械は、同じ出力でも物理的に大きく重くなります——「高速回転させたほうが機械は小さくなる」という設計の基本原則がここにあります。
減速機を挟んででも高速の電動機を使うことがあるのは、この理由からです。低速用の大きな電動機を1台使うより、小さな高速電動機+減速機のほうが安く軽く済む場合がある——トルクは「値段のかかる量」だと考えてよいでしょう。
💡 覚え方
「T=P/ω——P と ω は同じ段のペアで」。T=Po/ω=P2/ωs((1−s) が約分される)。60 Hz の同期速度は3 600・1 800・1 200・900、50 Hz は3 000・1 500・1 000・750。ペアを崩すと必ず誤答選択肢に着地する。
⚠️ よくある間違い
機械出力を同期角速度で割って382 N·m とする(選択肢(1))のが本問の罠です。36 000/94.2=382——ペアを崩した典型です。もう一つはrad/s への変換(×2π/60)を忘れることと、8極を4極と見間違えて同期速度を1 800とすることです。

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