電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「変圧器」は頻出かつ重要なテーマの一つです。本記事では、令和5年度下期 A問題9で出題された「変圧器の巻線抵抗の温度補正」を、はじめての方でも確実に解けるように基礎から丁寧に解説します。
変圧器の規約効率を計算するときは、巻線の抵抗値を基準温度 75 ℃における値に補正します。試験室(20 ℃)で測った抵抗をそのまま使うと、実運転時の銅損を過小評価してしまうからです。この補正は「抵抗は(235+温度)に比例する」という関係を使った、比例計算1本で解けます。
数値まで全く同じ問題が 【機械】平成28年度A問題8 で出題されています。出題パターンが固定なので、セットで解けば確実な得点源になります。
令和5年度下期 機械科目 A問題9:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題9
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和5年度下期 A問題9
変圧器の規約効率を計算する場合、巻線の抵抗値を 75 ℃の基準温度の値に補正する。
ある変圧器の巻線の温度と抵抗値を測ったら、20 ℃のとき 1.0 Ωであった。この変圧器の 75 ℃における巻線抵抗値 [Ω] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
ただし、巻線は銅導体であるものとし、\( T \) [℃] と \( t \) [℃] の抵抗値の比は、
\( (235 + T) : (235 + t) \)
である。
(1) 0.27 (2) 0.82 (3) 1.22 (4) 3.75 (5) 55.0
出題のポイント:なぜ75 ℃に補正するのか
問題文の1行目「変圧器の規約効率を計算する場合、巻線の抵抗値を75 ℃の基準温度の値に補正する」——これは単なる前置きではなく、この問題の存在理由です。
巻線抵抗は温度で変わります。だから「20 ℃で測った値」で効率を計算しても、実際の運転状態とは違う答えになります——運転中の巻線は温度が上がっているからです。
| 測定時 | 実際の運転時 | |
| 巻線温度 | 室温(20 ℃前後) | 周囲温度+温度上昇(75 ℃前後) |
| 巻線抵抗 | 小さい | 大きい |
| 銅損 | 小さく見える | 実際は大きい |
| 効率 | よく見える | 実際はやや低い |
測定値のまま効率を計算すると、実際より良い値が出てしまう——それではメーカーごとに条件がばらばらになり、比較できません。だから「75 ℃で評価する」と決めて統一しているのです。

計算する
T=75 ℃、t=20 ℃
選択肢の1.22に一致

22 %の増加が効率にどう効くか
具体的な影響を見てみましょう。ある変圧器の出力が10 kW、鉄損80 W、20 ℃での銅損が100 Wだったとします。
| 20 ℃の値で計算 | 75 ℃に補正して計算 | |
| 鉄損 | 80 W | 80 W(変わらない) |
| 銅損 | 100 W | 122 W |
| 全損失 | 180 W | 202 W |
| 効率 | 98.23 % | 98.02 % |
効率が0.2ポイント下がりました。わずかに見えますが、効率98 %台の機器では大きな差です——損失で見れば12 %も増えていることになります。
鉄損は温度で変わらない点にも注目してください。鉄損は磁束密度で決まるので、温度補正の対象外——補正するのは銅損(巻線抵抗)だけです。
選択肢の作られ方を読む
⚠️ よくある間違い
(2) 0.82 Ωは比を逆にしたときの値(255/310)です。温度が上がって抵抗が下がるという、物理的にあり得ない答え——「熱くなれば抵抗は増える」という向きを最初に確認しておけば避けられます。
(4) 3.75 Ωは75/20、(5) 55.0 Ωは75−20——いずれも235 を足すことを忘れた答えです。
問題文が式を与えてくれているのですから、そのとおりに使えば(4)(5)は出てきません。与えられた式を無視して自己流で計算しない——当たり前のようで、時間に追われると起きがちな失敗です。
温度補正が出てくるその他の場面
| 場面 | どう使うか |
| 変圧器の規約効率 | 巻線抵抗を75 ℃に補正して銅損を計算する(本問) |
| 温度上昇試験 | 試験前後の抵抗値の変化から、巻線の平均温度を逆算する(抵抗法) |
| 電線の許容電流 | 周囲温度が高いほど許容電流を下げる(電力・法規科目) |
| 接地抵抗・絶縁抵抗の測定 | 季節や温度によって値が変わることを踏まえて判定する |
2番目の抵抗法は、平成20年度や令和7年度下期のB問題で扱った温度上昇試験と直結します。巻線の中に温度計を入れられないので、抵抗値から温度を逆算する——本問の式を逆向きに使うわけです。
本問は割り算1回で終わる易しい問題ですが、その背後には「温度と抵抗」「損失と効率」「試験法」という広がりがある——1問を通して周辺まで押さえておくと、他の問題にも効いてきます。
基準温度75 ℃はどこから来たのか
なぜ「75 ℃」なのか——これは絶縁物の耐熱クラスと、温度上昇の限度から決まった値です。
| 項目 | 値 | 根拠 |
| 基準となる周囲温度 | 20 ℃ | 試験を行う標準的な室温 |
| 巻線の温度上昇の限度 | 55 K | A種絶縁(許容105 ℃)での規定値 |
| 合計 | 75 ℃ | 標準的な運転時の巻線温度 |
20+55=75——これが基準温度75 ℃の正体です。「標準的な条件で運転したときに、巻線がどれくらいの温度になるか」を代表する値として選ばれています。
耐熱クラスが上がれば、基準温度も上がります。F種絶縁(許容155 ℃)の機器なら、基準温度は115 ℃とされることもあります——温度上昇の限度が大きいぶん、運転温度も高くなるからです。
効率の比較には条件の統一が要る
もし各メーカーが好きな温度で効率を計算したら、比較になりません。20 ℃で計算すれば効率がよく見え、100 ℃で計算すれば悪く見える——数字だけを並べても意味がなくなります。
だから「75 ℃で評価する」と決めて統一しているのです。規約効率という名前の「規約」は、まさにこうした取り決めを指しています——実測ではなく、決められた手順で計算した効率という意味です。
この考え方は、トップランナー基準の評価負荷率(油入40 %、モールド50 %)とも共通します。条件をそろえなければ比較できない——だから制度として条件を決めておくわけです。
本問の1行目「規約効率を計算する場合、巻線の抵抗値を75 ℃の基準温度の値に補正する」——この一文には、こうした制度的な背景が凝縮されています。単なる問題の設定ではなく、実務のルールそのものなのです。
⏱️ 本番での進め方
①「温度が上がれば抵抗は上がる」。答えは1.0 Ω より大きい。
② 310/255≒1.216。割り算1回で終わり。
③ 与えられた式を無視しない。235 を足すのを忘れない。
④ 補正するのは銅損だけ。鉄損は温度で変わらない。
💡 覚え方
「効率は75 ℃で評価する」——実際の運転温度に近い条件でそろえるためです。そして「銅なら235、アルミなら225 を足して比を取る」——この2文で本問は終わりです。
出題履歴:平成28年度とまったく同じ問題
本問は平成28年度 A問題8と、問題文も数値も選択肢も完全に同一です(変圧器24:変圧器の巻線抵抗の温度補正)。正解の番号も (3) で一致しています。
7年ぶりに一字一句同じ問題が出題される——電験3種では珍しいことではありません。過去問を解いておく価値が、こうした形で現れます。
ただし選択肢の並びが変わることもあるので、番号ではなく値(1.22 Ω)と求め方を覚えておくのが確実です。この問題なら、割り算1回で毎回その場で出せます。


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