今回は平成29年度 機械科目 A問題2を解説します。テーマは永久磁石界磁の直流機による回生制動で、上り坂・下り坂を一定速度で走る車を題材に、電流・誘導起電力・トルクの向きを問う論説問題です。
回生制動は「電動機を発電機として使いブレーキをかけながら電力を電源へ戻す運転」です。何が反転して何が反転しないのかを、式で整理できれば確実に得点できます。
問題文と選択肢

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成29年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題2
界磁に永久磁石を用いた磁束一定の直流機で走行する車があり,上り坂で電動機運転を,下り坂では常に回生制動(直流機が発電機としてブレーキをかける運転)を行い,一定の速度(直流機が一定の回転速度)を保って走行している。
この車の駆動システムでは,直流機の電機子銅損以外の損失は小さく無視できる。電源の正極側電流,直流機内の誘導起電力などに関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 上り坂における正極側の電流は,電源から直流機へ向かって流れている。
(2) 上り坂から下り坂に変わるとき,誘導起電力の方向が反転する。
(3) 上り坂から下り坂に変わるとき,直流機が発生するトルクの方向が反転する。
(4) 上り坂から下り坂に変わるとき,電源電圧を下げる制御が行われる。
(5) 下り坂における正極側の電流は,直流機から電源へ向かって流れている。
出題のポイント:回生で「反転するもの」と「しないもの」を仕分ける
回生制動の問題は、力行(電動機運転)から回生(発電機運転)へ切り替わるとき、何が反転して何が反転しないか——この仕分けがすべてです。3本柱の式に戻れば、機械的に判定できます。
φ も n も変わらないのだから、E=kEφn も変わりません。大きさも向きもそのまま。これが本問の核心で、選択肢(2)はまさにここを突いています。
| 量 | 上り坂(力行) | 下り坂(回生) | 反転するか |
| 磁束 φ | 一定(永久磁石) | 一定 | しない |
| 回転速度 n | 一定・同じ向き | 一定・同じ向き | しない |
| 誘導起電力 E | kEφn | kEφn(同じ) | しない |
| 電源電圧 V と E の関係 | V > E | V < E | — |
| 電機子電流 Ia | 電源 → 直流機 | 直流機 → 電源 | する |
| トルク T | 回転方向と同じ(駆動) | 回転方向と逆(制動) | する |
反転するのは Ia と T の2つだけ。しかもT が反転するのは Ia が反転したからなので、本当に反転しているのは電流1つとも言えます。

電流の向きは V と E の大小で決まる
電機子電流は Ia=(V−E)/Ra で決まります。E は変えられないので、電流の向きを決めているのは V の側です。
V を E より高くすれば力行、低くすれば回生——だから選択肢(4)の「上り坂から下り坂に変わるとき、電源電圧を下げる制御が行われる」は正しいのです。回生に入るには、電源電圧を E より下げなければ電流が逆流しません。
電流は電源から直流機へ。T は回転方向と同じ ⇒ 車を押し上げる。
電流は直流機から電源へ。T は回転方向と逆 ⇒ ブレーキになる。

5つの選択肢を1つずつ検証する
(1) 上り坂の正極側電流は電源から直流機へ → 正しい
上り坂は力行——電動機として車を押し上げているので、電力は電源から直流機へ流れます。電流の向きも同じです。
(2) 上り坂から下り坂に変わるとき、誘導起電力の方向が反転する → 誤り
E=kEφn のうち、φ は永久磁石なので一定、n は「一定の速度を保って走行」なので一定。したがってE は大きさも向きも変わりません。
誘導起電力が反転するのは「回転方向が逆になったとき」だけです。車は前進したまま坂を下るのですから、回転方向は変わりません。これが答えです。
☝️ ひっかけの作り方:「反転する」という語を、電流・トルク・起電力のうち間違ったものに付けるのがこの問題の作り方。反転するのは電流とトルクだけで、起電力は反転しない——3つを並べて仕分けておけば迷いません。
(3) 直流機が発生するトルクの方向が反転する → 正しい
T=kTφIa で φ は一定、Ia が反転するのでトルクも反転します。回転方向と逆向きのトルク=ブレーキになり、下り坂で速度が上がるのを抑えます。
(4) 電源電圧を下げる制御が行われる → 正しい
回生に入るには V < E にする必要があります。E は変えられないので、V を下げるしかありません。「回生ブレーキをかけるには電源電圧を下げる」——一見わかりにくいですが、式から必然的に導かれます。
(5) 下り坂の正極側電流は直流機から電源へ → 正しい
回生=発電した電力を電源へ返す運転ですから、電流は直流機から電源へ流れます。「回生」という言葉自体が「電力を回して生かす」という意味です。

回生制動が成り立つ条件と限界
回生制動は「運動エネルギーを電気に戻す」ブレーキなので、摩擦ブレーキと違ってエネルギーを捨てません。電気自動車や電車で航続距離が伸びるのは、この仕組みのおかげです。
ただし成り立つには条件があります。
| 条件 | 満たされないと | 実際の対策 |
| 電源が電力を受け取れる | 行き場のない電流で電圧が上昇し、機器が壊れる | 蓄電池に充電する/他の負荷へ回す(電車なら他の列車) |
| V を E より下げられる | 電流が逆流せず回生できない | チョッパやインバータで電圧を可変にする |
| 回転している | E=kEφn=0 でブレーキ力がゼロ | 低速域では摩擦ブレーキに切り替える |
3つ目が特に大事です。回生ブレーキは停止直前には効かなくなるので、実際の車両は低速域で機械ブレーキへ滑らかに切り替えています。電車で「回生失効」と呼ばれるのは1つ目の条件が崩れた場合で、近くに電力を消費する列車がいないと回生が使えなくなります。
本問が「電機子銅損以外の損失は無視できる」としているのも意味があります。回生中も銅損 Ia2Ra は発生するので、位置エネルギーの全部が電気として戻るわけではありません。戻せるのは E·Ia のうち V·Ia の分だけで、差の Ia2Ra は熱になります。
⏱️ 本番での進め方
① φ・n・E・Ia・T の5つを縦に並べて「反転するか」を書き込む。30秒で表ができる。
② 反転するのは Ia と T だけ。φ・n・E は反転しない。
③ 電流の向きを決めるのは V と E の大小。V>E なら力行、V<E なら回生。
④ 「回生するには電源電圧を下げる」——直感に反するので、式 Ia=(V−E)/Ra で確認する。
💡 覚え方
回生で反転するのは電流とトルクだけ。磁束・回転速度・誘導起電力は反転しない。E=kEφn なので、E が反転するのは回転方向が逆になったときだけ。力行は V>E、回生は V<E——だから回生するには電源電圧を下げる。回生ブレーキは低速では効かない(E が小さくなるから)。
⚠️ よくある間違い
「発電機になるのだから起電力の向きも変わるはず」と考えてしまうのがこの問題の狙いです。発電機か電動機かを決めているのは電流の向きであって、起電力の向きではありません。同じ E のまま、V との大小関係だけで役割が入れ替わる——この理解が回生制動の本質です。
まとめ
| 力行(上り坂) | \(V\gt E\)、電流は電源→直流機、\(P\gt 0\) で駆動 |
| 回生(下り坂) | \(E\gt V\)、電流は直流機→電源、トルク反転でブレーキ |
| 反転しないもの | 誘導起電力 \(E=k_{\mathrm E}\phi n\)(磁束・回転方向が同じため) |
| 答え | (2) |
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