今回は平成21年度 機械科目 B問題16を解説します。単相ブリッジ接続の電圧形インバータについて、ゲート切替直後に電流が流れるバルブデバイス(a)と、RL回路の過渡式からピーク電流Ipを求める計算(b)を扱う問題です。
t=T/2直前はQ1,Q2が通電中。切替直後は負荷のインダクタンスが電流を同方向に保とうとするため、Q3,Q4は逆方向で導通できず還流ダイオードD3,D4を経由します。Ipは周期条件の式 ia(T/2)=Ip から求めます。
平成21年度 機械科目 B問題16:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成21年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 B問題16
電験3種 機械科目 【パワーエレクトロニクス】 平成21年度 B問題16
図1は,IGBTを用いた単相ブリッジ接続の電圧形インバータを示す。直流電圧 Ed〔V〕は,一定値と見なせる。出力端子には,インダクタンス L〔H〕で抵抗値 R〔Ω〕の誘導性負荷が接続されている。
図2は,このインバータの動作波形である。時刻 t=0〔s〕でIGBT Q3及びQ4のゲート信号をオフにするとともにQ1及びQ2のゲート信号をオンにすると,出力電圧 va〔V〕は Ed〔V〕となる。t=T/2〔s〕でQ1及びQ2のゲート信号をオフにするとともにQ3及びQ4のゲート信号をオンにすると,va〔V〕は −Ed〔V〕となる。これを周期 T〔s〕で繰り返して方形波電圧を出力する。
出力電流 ia〔A〕は,t=0〔s〕で −Ip〔A〕になっているものとする。負荷の時定数は τ=L/R〔s〕である。t=0〜T/2〔s〕では,時間の関数 ia(t) は次式となる。
ia(t) = −Ipe−t/τ + (Ed/R)(1−e−t/τ)
定常的に動作しているときには,周期条件から t=T/2〔s〕で出力電流は Ip〔A〕となり,次式が成り立つ。
ia(T/2) = −Ipe−T/2τ + (Ed/R)(1−e−T/2τ) = Ip
このとき,次の(a)及び(b)に答えよ。ただし,バルブデバイス(IGBT及びダイオード)での電圧降下は無視するものとする。
(a)時刻 t=T/2〔s〕の直前ではQ1及びQ2がオンしており,出力電流は直流電源からQ1→負荷→Q2の経路で流れている。t=T/2〔s〕でIGBT Q1及びQ2のゲート信号をオフにするとともにQ3及びQ4のゲート信号をオンにした。その直後(図2で,t=T/2〔s〕から,出力電流が0〔A〕になる t=tr〔s〕までの期間),出力電流が流れるバルブデバイスとして,正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(1)Q1,Q2 (2)Q3,Q4 (3)D1,D2 (4)D3,D4 (5)Q3,Q4,D1,D2
(b)Ed=200〔V〕,L=10〔mH〕,R=2.0〔Ω〕,T=10〔ms〕としたとき,Ip〔A〕の値として,最も近いのは次のうちどれか。ただし,e=2.718とする。
(1)32 (2)46 (3)63 (4)76 (5)92


出題のポイント:切替直後は必ずダイオードが受ける
(a)は「ゲート信号を切り替えた直後、何が導通するか」という問題です。答えはD3・D4——ゲートをオンにしたQ3・Q4ではありません。
| 時点 | 出力電圧 va | 出力電流 ia | 導通するもの | 電力の向き |
| T/2 の直前 | +Ed | 正 | Q1・Q2 | 電源 → 負荷 |
| T/2 〜 tr | −Ed | まだ正 | ★D3・D4 | 負荷 → 電源(回生) |
| tr 以降 | −Ed | 負 | Q3・Q4 | 電源 → 負荷 |
誘導性負荷の電流は瞬時には向きを変えられません。電圧が −Ed に反転しても、電流はまだ正の向きに流れている——この電流を通せるのはダイオードだけです。
IGBTは逆向きには流せない(逆阻止)——だからQ3・Q4にゲート信号を与えても、電流が0を横切るまでは導通できません。その tr という時点が、問題文に明記されています。
選択肢(5)「Q3,Q4,D1,D2」のような混在は誤りです。同じ向きの電流が2つの経路に分かれることはありません——電流の向きがひとつなら、通る素子もひとつの組に決まります。



(b) 周期条件から Ip を解く
定常状態では、半周期ごとに同じ波形が符号を変えて繰り返します。t=0 で −Ip だった電流が、t=T/2 でちょうど +Ip になる——これが周期条件です。
問題文がその式まで与えてくれているので、あとは Ip について解くだけ——指数の部分をひとまとめの文字に置くと計算が楽になります。
指数部を k と置く
Ip を右辺に集める
—
あとは τ と T/2 から k を出すだけです。τ=L/R=5 ms、T/2=5 ms なので、指数は −1——ちょうど時定数1つ分という、計算しやすい設定になっています。
—
★ここが1になる設定
—
選択肢の46に一致

⚠️ よくある間違い
(1−k)/(1+k) を (1−k) だけで止めると 63.2 A になります。分母の (1+k) を忘れるのが最も多い誤りです。
また e−1=0.368 を 0.632 と取り違えるのも定番——「時定数1つで最終値の63.2 %まで到達=残りが36.8 %」という2つの数字を、意味とセットで覚えてください。
なぜ半周期が時定数と同じ設定なのか
T/2=τ という設定は、意図的に選ばれています。電流が上がりきる前に反転する——実機のインバータに近い、現実的な条件だからです。
| T/2 と τ | k=e−T/2τ | Ip÷(Ed/R) | 波形 |
| T/2=0.1τ | 0.905 | 0.050 | ほぼ三角波 |
| T/2=τ(本問) | 0.368 | 0.462 | 指数関数の曲線 |
| T/2=5τ | 0.0067 | 0.987 | ほぼ方形波 |
周波数が高い(T/2 が小さい)ほど Ip は小さくなります——電流のリプルが減るということです。PWMインバータが高いスイッチング周波数を使うのは、この効果を狙っている面もあります。
逆に周波数が低いと、電流が Ed/R に近づくまで上がってしまいます。素子に流れる電流が大きくなる——低周波で運転するときほど、電流のピークに注意が必要になるのです。
⏱️ 本番での進め方
①(a) 切替直後は電流がまだ前の向き=ダイオードが受ける。D3・D4。
② QとDが混在する選択肢は、電流の向きがひとつなので誤り。
③(b) 指数部を k と置いて Ip=(Ed/R)(1−k)/(1+k)。
④ τ=5 ms、T/2τ=1 なので k=e−1=0.368。分母の(1+k)を忘れない。
💡 覚え方
「切替直後はダイオード、電流が0を横切ってからIGBT」——誘導性負荷のインバータでは必ずこの順序。そして「e−1=0.368、1−e−1=0.632」——過渡現象で何度も出てくる2つの数字です。
同じ回路の関連問題
まったく同じ回路・同じ波形を使った問題が令和6年度上期と令和4年度下期にあります(令和6年度上期B問題16/令和4年度下期B問題16)。
そちらは区間①〜④の導通素子と時定数 τ を問う設定——本問はその先の Ip まで踏み込んでいます。3問を並べて解けば、この回路は完全に押さえられます。

出力電圧の実効値と基本波
本問のインバータは方形波を出力しています。その実効値と基本波の関係も、あわせて押さえておきましょう。
基本波の実効値が 0.90Ed、全体の実効値が Ed——差の分が高調波です。ひずみ率にすると約48 %——方形波はかなり歪んだ波形だということになります。
| 方形波インバータ(本問) | PWMインバータ | |
| 出力電圧の調整 | できない(Ed を変えるしかない) | 変調率で自由に調整できる |
| 高調波 | 3次・5次が大きい | 搬送波付近へ追いやれる |
| 電流波形 | 本問のような指数関数の連なり | 正弦波に近い |
それでも電流はかなりなめらかになります——負荷のインダクタンスがフィルタとして働くからです。本問で計算した時定数 τ が、そのフィルタの強さを表していることになります。
電動機のトルクは電流で決まります。電圧が方形波でも、電流がなめらかならトルクの脈動は小さい——方形波インバータでも実用になったのはこのためです。
まとめ
| (a)還流デバイス | D3,D4 |
| τ=L/R | 5ms |
| e^(−T/2τ) | ≒0.368 |
| Ip | ≒46.2A |
| (a) | (4) |
| (b) | (2) |
| 答え | (a)-(4),(b)-(2) |
▼あわせて解きたい関連問題
・IGBT単相ブリッジインバータの電流経路(令和6年度上期):【機械】令和6年度上期B問題16
・IGBT単相ブリッジインバータの電流経路(令和4年度下期):【機械】令和4年度下期B問題16

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