今回は令和6年度上期 機械科目 A問題5を解説します。回転界磁形同期電動機の始動(制動巻線による自己始動)を問う穴埋め問題です。
平均トルクが零で起動しないため、回転子磁極面に制動巻線を施し、かご形誘導電動機と同じ原理で起動。界磁巻線は抵抗で短絡し、同期速度付近で直流励磁します。
問題文と選択肢

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和6年度上期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題5
回転界磁形同期電動機が停止している状態で,固定子巻線に対称三相交流電圧を印加すると回転磁界が生じる。しかし,励磁された回転子磁極が受けるトルクは,同じ大きさで向きが交互に変わるので,その平均トルクは零になり電動機は起動しない。これを改善するために,回転子の磁極面に(ア)を施す。これは,(イ)と同じ起動原理を利用したもので,誘導トルクによって電動機を起動させる。
起動時には,回転磁束によって誘導される高電圧によって絶縁が破壊するおそれがあるので,(ウ)を抵抗で短絡して起動する。回転子の回転速度が同期速度に近づくと,この短絡を切り放し(エ)で励磁すると,回転子は同期速度に引き込まれる。空白箇所(ア)〜(エ)に当てはまる組合せとして正しいものを一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (1) 補償巻線 巻線形誘導電動機 界磁巻線 交流 (2) 制動巻線 かご形誘導電動機 界磁巻線 直流 (3) 制動巻線 巻線形誘導電動機 界磁巻線 交流 (4) 制動巻線 かご形誘導電動機 固定子巻線 直流 (5) 補償巻線 かご形誘導電動機 固定子巻線 直流
出題のポイント:始動を時系列で追う
同期電動機は、そのままでは始動できません。だから「誘導電動機として始動して、途中から同期機に切り替える」という手順を踏みます。問題文は、その時系列をそのまま書いています。
| 段階 | 何が起きるか | 使うもの |
| ① 始動 | 制動巻線がかご形として働き、誘導トルクで加速 | 固定子の回転磁界 |
| ② 加速中 | 界磁巻線は抵抗で短絡しておく | 放電抵抗(絶縁を守る) |
| ③ 同期速度付近 | 短絡を外して直流励磁 | 界磁巻線 |
| ④ 引入れ | 同期トルクで同期速度に引き込まれる | 界磁磁極 |
「かご形として回し始め、同期速度近くで直流を入れる」——この2段構えが自己始動法です。4つの空欄は、この流れの各段階に対応しています。

なぜ平均トルクが零になるのか
問題文の冒頭「同じ大きさで向きが交互に変わるので、その平均トルクは零になり電動機は起動しない」——ここが同期電動機の宿命です。
停止した回転子から見ると、固定子の回転磁界は毎秒 f 回も通り過ぎていきます。磁極が近づいてくるときは引き寄せられ、通り過ぎるときは押し戻される——この繰り返しで、平均すればゼロになります。
| 誘導電動機 | 同期電動機 | |
| 停止時のトルク | 出る | 平均するとゼロ |
| 理由 | 相対速度があれば必ず誘導が起きる | 磁極が交互に引かれ・押されて打ち消し合う |
| 対策 | 不要 | 制動巻線で誘導機として始動する |
そこで回転子の磁極面に、かご形と同じ導体(制動巻線)を埋め込むのです。これがあれば、誘導電動機とまったく同じ原理でトルクが出ます——(ア)=制動巻線、(イ)=かご形誘導電動機。
なぜ界磁巻線を抵抗で短絡するのか
(ウ)は「界磁巻線」です。始動中の界磁巻線には、非常に高い電圧が誘導されます——その理由を押さえておきましょう。
界磁巻線は直流で励磁するために、巻数が非常に多く作られています。そこへ始動時の回転磁界が高速で鎖交する——巻数が多いほど誘起電圧は高くなるので、数千 V に達することもあります。
| 界磁巻線の扱い | 何が起きるか | 判定 |
| 開放したまま | 高電圧が発生して絶縁が破壊される | だめ |
| そのまま短絡 | 電圧は抑えられるが、始動特性が悪くなる | 好ましくない |
| 抵抗を通して短絡 | 電圧を抑えつつ、適度な始動トルクが得られる | これが正解 |
「抵抗で短絡」という中途半端に見える操作には、2つの目的が同時に込められています。絶縁を守ることと、始動トルクの特性を整えることです。
そして同期速度に近づいたら、この短絡を外して直流を流します——(エ)=直流。界磁磁極が生きれば、回転磁界に引き込まれて同期速度に入ります。


制動巻線は始動が終わっても働き続ける
「制動巻線」という名前は、じつは始動とは別の役目から付いています。本業は「乱調(ハンチング)を抑えること」です。
| 役目 | いつ働くか | 何をするか |
| 自己始動 | 始動時 | かご形として誘導トルクを出す |
| 乱調の抑制 | 同期運転中 | 回転子が振動すると相対速度が生じ、制動トルクが働いて振動を止める |
どちらも「同期速度からずれたときだけ働く」という点で共通しています。同期速度で安定して回っているときは、制動巻線には何も起きません——ずれたときだけ出てくる保険のような巻線です。
乱調は同期機に固有の現象です。回転子が磁界にばねでつながれているようなもので、負荷が急変すると新しい釣り合い位置のまわりで振動します——制動巻線がその振動にブレーキをかけるので「制動」巻線なのです。
⏱️ 本番での進め方
① 時系列で追う:制動巻線で誘導始動 → 界磁は抵抗短絡 → 同期速度付近で直流励磁。
② (ア)は「補償巻線」ではない——補償巻線は直流機の電機子反作用対策。
③ (ウ)は界磁巻線。固定子巻線を短絡したら電源が短絡してしまう。
④ (エ)は直流。交流で励磁したら同期機にならない。
💡 覚え方
「制動巻線でかご形誘導始動 → 界磁巻線は抵抗で短絡 → 同期速度付近で直流励磁して引き込む」。同期電動機の平均始動トルクが零なのは、磁極が交互に引かれ・押されるから。界磁巻線を短絡するのは、巻数が多くて高電圧が誘導されるから。制動巻線は乱調抑制にも効く。
⚠️ よくある間違い
(ア)に「補償巻線」を選ぶのが典型です。補償巻線は直流機で電機子反作用を打ち消す巻線で、同期機の磁極面にあるのは制動巻線です。もう一つは(ウ)に「固定子巻線」——固定子は電源につながっているのですから、短絡したら電源短絡になってしまいます。
なぜ「回転界磁形」と断っているのか
問題文の冒頭「回転界磁形同期電動機が」——わざわざ形式を明示しているのには理由があります。同期機には2つの構成があり、界磁巻線を短絡するという話は回転界磁形だからこそ成り立つからです。
| 回転界磁形 | 回転電機子形 | |
| 界磁(磁石側) | 回転子 | 固定子 |
| 電機子(電力側) | 固定子 | 回転子 |
| ブラシが扱う電流 | 励磁電流(小さい) | 負荷電流(大きい) |
| 高電圧の絶縁 | 固定子側なので楽 | 回転部の絶縁が難しい |
| 採用 | ほぼすべての実用機 | ごく小容量に限られる |
回転界磁形が標準になった理由は「ブラシが扱う電流の大きさ」です。励磁電流は負荷電流に比べればはるかに小さい——小さな電流を渡すだけなら、スリップリングとブラシで十分です。
回転電機子形では、大電流かつ高電圧の負荷電流をブラシ経由で取り出すことになります。回転しながら数千ボルトを扱うのは絶縁上きわめて困難——だから大容量機では成立しません。
直流機とちょうど逆だという点も押さえておきましょう。直流機は界磁が静止で電機子が回転——だからブラシが電機子電流という大電流を扱うことになり、それが大容量化の限界を作っています。同期機が何十万kW でも作れるのに、直流機が作れないのは、この違いによります。
そして本問の「界磁巻線を抵抗で短絡する」という操作は、界磁巻線が回転子にある回転界磁形だからこそ意味を持ちます。回転磁界が回転子の界磁巻線を高速で横切る——その結果として高電圧が誘導されるという筋道です。
まとめ
| (ア) | 制動巻線 |
| (イ) | かご形誘導電動機 |
| (ウ) | 界磁巻線 |
| (エ) | 直流 |
| 答え | (2) |
▼あわせて解きたい関連問題
・同期電動機の始動方法:【機械】平成25年度A問題5
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