電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「変圧器」は頻出かつ重要なテーマの一つです。本記事では、令和5年度下期 A問題8で出題された「一次→二次換算の換算係数」について、はじめての方でも確実に判断できるように、等価回路の換算の考え方を丁寧に解説します。
この問題は計算ではなく、変圧器の簡易等価回路で一次側の量を二次側に換算するときの係数に関する論説問題です。ポイントは、電圧・電流は a の1乗、インピーダンス・アドミタンスは a の2乗で換算する(しかも Z と Y は逆数の関係)こと。これさえ押さえれば、誤りの選択肢を確実に見抜けます。
令和5年度下期 機械科目 A問題8:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題8
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和5年度下期 A問題8
変圧器の一次側(巻数 \( N_1 \))の諸量を二次側(巻数 \( N_2 \))に換算した場合の簡易等価回路の換算係数に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、この変圧器の巻数比 \( \left(N_1/N_2\right) \) を \( a \) とする。
(1) 一次側の電圧は \( 1/a \) 倍
(2) 一次側の電流は \( a \) 倍
(3) 励磁電流は \( a \) 倍
(4) 一次側のインピーダンスは \( 1/a^2 \) 倍
(5) 励磁アドミタンスは \( 1/a^2 \) 倍
出題のポイント:アドミタンスはインピーダンスの逆数
(5)の「励磁アドミタンスは 1/a2 倍」が誤りです。正しくは a2 倍——アドミタンスはインピーダンスの逆数だからです。
| 換算する量 | 一次 → 二次(本問の向き) | 理由 |
| 電圧 | 1/a 倍 | 二次側は電圧が低い |
| 電流(励磁電流を含む) | a 倍 | 二次側は電流が大きい |
| インピーダンス | 1/a2 倍 | 電圧÷電流=(1/a)÷a |
| アドミタンス | ★a2 倍 | インピーダンスの逆数だから逆 |
インピーダンスが 1/a2 倍になるなら、その逆数であるアドミタンスは a2 倍——逆数どうしは倍率も逆数になるという、当たり前の関係です。
アドミタンスは電流÷電圧ですから、直接考えても同じ結論になります。電流が a 倍、電圧が 1/a 倍なら、その比は a÷(1/a)=a2 倍です。


正しい4つの記述を確認する
(1)(2) 電圧は 1/a 倍、電流は a 倍
本問は一次側の量を二次側に換算する向きです。a=N1/N2 で、降圧変圧器なら a>1——二次側は電圧が低く電流が大きいのですから、電圧は1/a 倍、電流は a 倍で正しい向きです。
これまで扱ってきた「二次 → 一次」の換算とは逆向きである点に注意します。あちらは電圧 a 倍・電流 1/a 倍——向きが変われば倍率も逆数になります。
☝️ ひっかけの作り方:「どちらからどちらへ換算するのか」を読み違えるのが、この分野で最も多いつまずきです。本問は問題文の冒頭で「一次側の諸量を二次側に換算した場合」と明記——ここを読み飛ばすと、すべての倍率が逆になります。
(3) 励磁電流も電流なので a 倍
励磁電流は一次側にしか流れない特別な電流ですが、換算のルールは他の電流と同じです。「電流だから a 倍」——特別扱いする必要はありません。
(4) インピーダンスは 1/a² 倍
電圧が1/a 倍、電流が a 倍ですから、その比であるインピーダンスは (1/a)/a=1/a2 倍——正しい記述です。


(4)と(5)を並べれば矛盾に気づける
(4)と(5)は、逆数どうしの量について述べています。それなのに、どちらも「1/a2 倍」と同じ倍率になっている——これは論理的にあり得ません。
逆数の関係にある2つの量が、同じ倍率で変換されるとしたら、変換後も逆数の関係が保たれないことになります。Z×Y=1 という関係が、換算後は Z’×Y’=1/a4 になってしまう——明らかにおかしいのです。
知識がなくても、選択肢どうしの整合性から誤りが見つけられる——論説問題ではこうした「内部矛盾」を探す視点も有効です。5つの記述を並べて眺め、互いに矛盾していないかを確認する——本問はその練習になります。
換算の向きを間違えないために
| 二次 → 一次に換算 | 一次 → 二次に換算(本問) | |
| 電圧 | a 倍 | 1/a 倍 |
| 電流 | 1/a 倍 | a 倍 |
| インピーダンス | a2 倍 | 1/a2 倍 |
| アドミタンス | 1/a2 倍 | a2 倍 |
4×2=8通りの倍率を暗記する必要はありません。「電圧は高い側へ換算するなら大きくなる」という1点さえ押さえれば、残りはすべて導けます。
電流は電圧の逆、インピーダンスは電圧÷電流、アドミタンスはその逆数——4つの量が芋づる式につながっているのです。試験場で迷ったら、電圧から順に組み立て直しましょう。
なぜ励磁回路だけアドミタンスで表すのか
変圧器の等価回路で、巻線側はインピーダンス(r と x)、励磁側はアドミタンス(g0 と b0)で表されます。なぜ表し方が違うのでしょうか。
答えは「直列か並列か」です。直列につながる要素はインピーダンスで足し算できるのに対し、並列につながる要素はアドミタンスで足し算できる——計算しやすい形を選んでいるだけです。
| 直列回路 | 並列回路 | |
| 足し算できる量 | インピーダンス Z | アドミタンス Y |
| 変圧器での該当箇所 | 巻線抵抗と漏れリアクタンス | 励磁回路(鉄損分と磁化分) |
| 実部 | 抵抗 r(損失) | コンダクタンス g0(鉄損) |
| 虚部 | リアクタンス x | サセプタンス b0(磁化) |
励磁回路では、鉄損電流と磁化電流が並列に分かれて流れます。だから両者をアドミタンスで表せば、単純に足せる——\( \dot{Y}_0=g_0-jb_0 \) という形になります。
もしインピーダンスで表そうとすれば、並列合成の式(逆数の和の逆数)が必要になり、式が煩雑になります。「並列だからアドミタンス」——ただそれだけの理由です。
だから換算の倍率も逆になる
この理解があれば、本問の(5)が誤りであることも自然に受け入れられます。アドミタンスはインピーダンスの逆数として定義された量——だから換算の倍率も逆数になるのは当然です。
「インピーダンスが 1/a2 倍なら、アドミタンスは a2 倍」——逆数どうしの関係は、換算後も保たれなければならないからです。もし両方とも 1/a2 倍だとしたら、換算後は Z×Y≠1 になってしまいます。
等価回路の表記法という「なぜそう書くのか」を知っておくと、換算のルールも暗記ではなく理解として身につきます——遠回りに見えて、実は近道です。
⏱️ 本番での進め方
① まず「どちらからどちらへ」を確認する。本問は一次→二次。
② 電圧の向きさえ決まれば、他は自動的に決まる。
③ インピーダンスとアドミタンスは逆数なので倍率も逆数。
④ (4)と(5)が同じ倍率なのは矛盾。それだけで(5)が怪しいと分かる。
💡 覚え方
「Z と Y は逆数、だから倍率も逆数」——これだけで本問は解けます。そして「換算の向きを最初に確認する」——向きを取り違えると、すべての倍率が裏返ります。
関連問題:同じ換算が穴埋めでも出ている
二次側の量を一次側に換算する形の問題も出題されています(変圧器6:変圧器の等価回路と一次側換算/変圧器5:同(令和6年度上期))。そちらは向きが逆なので、倍率もすべて逆数になります。
3問を並べて解くと、「向きが変われば倍率が裏返る」ことが体で分かります——暗記ではなく理解でしのぐべき分野だと言えます。



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