電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「変圧器」は頻出かつ重要なテーマの一つです。本記事では、令和元年度(2019年)A問題8で出題された「変圧器の並行運転と循環電流」について、はじめての方でも確実に解けるように、基礎から一歩ずつ丁寧に解説します。
この問題は、巻数比がわずかに異なる2台の変圧器を並列運転したときに流れる循環電流を求める問題です。「二次側が無負荷なのに、なぜ電流が流れるのか?」という点さえ理解できれば、計算は「起電力差 ÷ 合成インピーダンス」だけで解けます。
令和元年度 機械科目 A問題8:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和元年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題8
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和元年度 A問題8
2台の単相変圧器があり、それぞれ、巻数比(一次巻数/二次巻数)が 30.1、30.0、二次側に換算した巻線抵抗及び漏れリアクタンスからなるインピーダンスが (0.013+j0.022) Ω、(0.010+j0.020) Ω である。この2台の変圧器を並列接続し二次側を無負荷として、一次側に 6600 V を加えた。この2台の変圧器の二次巻線間を循環して流れる電流の値 [A] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
ただし、励磁回路のアドミタンスの影響は無視するものとする。(1) 4.1 (2) 11.2 (3) 15.3 (4) 30.6 (5) 61.3
出題のポイント:無負荷なのに電流が流れる
二次側は無負荷です。それでも電流が流れる——2台の二次起電力がわずかに違うので、その差が2台を結ぶループを回すからです。
巻数比が30.1 と30.0——わずか0.33 %の違いですが、変圧器の内部インピーダンスがきわめて小さいので、大きな循環電流になります。
負荷がないのだから、電流の行き先は「もう1台の変圧器」しかありません。2台の二次巻線が直列につながった閉回路——だからインピーダンスは足し算になります。

二次起電力の差を求める
一次電圧÷巻数比
巻数比が小さいほど二次電圧は高い
わずか0.73 V
差はわずか0.73 V——220 V に対して0.33 %にすぎません。それでもこれが循環電流を流す原動力になります。
合成インピーダンスで割る
実部どうし・虚部どうしを足す
直列なので単純な和
三平方
約48 mΩ
選択肢の15.3に一致

この電流はどれくらい深刻か
15.3 A という値だけでは、深刻さが分かりません。定格電流と比べて初めて意味を持ちます。
%インピーダンスで考えるとはっきりします。電圧差は0.33 %、2台の %Z の合計を仮に10 %とすれば——循環電流は定格の 0.33/10=3.3 %程度と見積もれます。
| 巻数比の差 | 二次電圧の差 | 循環電流(%Z 合計10 %のとき) | 評価 |
| 0.33 %(本問) | 0.73 V | 定格の3.3 % | 許容範囲 |
| 1 % | 2.2 V | 定格の10 % | 銅損が1 %増える。許容できる |
| 2.5 %(タップ1段) | 5.5 V | 定格の25 % | 常時発熱。避けたい |
循環電流は無負荷でも流れ続けます。負荷電流と重なると、片方の変圧器が過負荷になることも——だから並行運転では変圧比をそろえることが条件になっています。
本問の0.33 %という差は、製造公差の範囲内と言えます。実務では±0.5 %程度の差は許容されるのが普通——本問はその境目あたりの設定です。
選択肢の作られ方を読む
⚠️ よくある間違い
(5) 61.3 Aはインピーダンスを合計せず、片方だけで割ったような値、(1) 4.1 Aは抵抗分だけ、あるいはリアクタンス分だけで割ったような値です。
(4) 30.6 Aは正解のちょうど2倍——インピーダンスを合計せず1台分で割ってしまったときに近い値になります。「2台が直列のループを作る」という理解が要点です。
☝️ ひっかけの作り方:「二次側が無負荷なのだから電流は流れない」と考えてしまうのが、この問題最大のつまずきです。無負荷なのは「外部への出力」の話——2台の変圧器どうしは互いにつながっており、そこに閉回路ができているのです。
循環電流は、負荷電流と重なって効いてくる
本問は無負荷での循環電流を求めましたが、実際の運転では負荷電流が流れています。循環電流はそこに重なる——それが並行運転で変圧比をそろえる本当の理由です。
循環電流は、片方の変圧器から出てもう片方へ入る向きに流れます。だから一方では負荷電流に加算され、他方では減算される——2台の負担が不均等になります。
| 負荷電流の分担 | 循環電流 | 実際に流れる電流 | |
| 二次電圧が高いほう(巻数比30.0) | 50 %ずつ | +15.3 A | 増える(過負荷側) |
| 二次電圧が低いほう(巻数比30.1) | 50 %ずつ | −15.3 A | 減る(余力側) |
電圧の高いほうが多く負担する——電源としての「押し出す力」が強いからです。結果として、片方だけが先に定格に達してしまい、2台合わせても定格容量の和までは使えません。
ただし循環電流と負荷電流は位相が違うので、単純な足し算にはなりません。循環電流はほぼ純粋な遅れ電流(インピーダンスがリアクタンス主体だから)——力率のよい負荷電流とはおよそ直角に近い関係になります。
そのため合計電流の増加は、単純な和よりは小さくなります。それでも常時流れ続ける無効電流であることに変わりはなく、銅損を増やし、容量を食いつぶす——百害あって一利なしです。
だから並行運転の前には、必ず二次電圧を実測して確認します。タップ位置をそろえ、電圧計で差がないことを確かめてから投入する——本問の計算が、その手順の必要性を数値で裏づけているのです。
⏱️ 本番での進め方
① 二次起電力=一次電圧÷巻数比。差を取る。
② インピーダンスは2台分を足す(直列ループ)。
③ 循環電流=電圧差÷合成インピーダンスの大きさ。
④ 巻数比が小さいほうが二次電圧は高い。差の向きを確認。
💡 覚え方
「電圧差÷インピーダンスの和」——ただそれだけの計算です。難しく見えるのは「無負荷なのに電流が流れる」という状況設定——2台が閉ループを作っていると気づけば、あとは普通の交流回路になります。
関連問題:並行運転の条件は論説でも問われる
変圧比が一致していないと循環電流が流れる、という事実は論説問題でも繰り返し出ています(変圧器42:三相変圧器の並行運転の条件(角変位)/変圧器41:同(令和5年度上期))。本問はその現象を計算で確かめる形です。


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