はじめに:令和7年上期 電験3種 機械科目 A問題9の概要
この記事では、電験3種(第三種電気主任技術者試験)機械科目 令和7年上期 A問題9について、初心者にも分かりやすく詳細に解説します。
今回のテーマは「変圧器の効率・損失」です。変圧器の効率計算は、電験3種において非常に頻出かつ重要な分野です。力率の変化が全負荷効率にどのように影響するのか、鉄損と銅損の関係性を正しく理解することが正答へのカギとなります。
まずは、実際に出題された問題文を確認してみましょう。
令和7年上期 電験3種 機械科目 A問題9:変圧器の効率に関する問題
以下が実際の試験で出題された問題です。

問題文の確認
ある変圧器の負荷力率 \( 100 \ \% \) における全負荷効率は \( 98 \ \% \) である。この変圧器の負荷力率 \( 80 \ \% \) における全負荷効率 \( \,\text{[%]} \) の値として、最も近いものを(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 78.4 (2) 81.6 (3) 97.5 (4) 98.4 (5) 99.6
問題文は非常にシンプルですが、ここから必要な条件を読み取り、計算式を立てる必要があります。それでは、解答と詳しい解説を見ていきましょう。
解答と詳細解説:変圧器の全負荷効率の求め方


この問題の正解は (3) 97.5 [%] です。
なぜこの答えになるのか、順を追って丁寧に解説します。スライドの内容をベースに、計算のステップを一つずつ確認していきましょう。
ステップ1:変数の定義を整理する
計算を始める前に、使用する記号(変数)を明確に定義しておきます。これが整理できていると、数式がぐっと分かりやすくなります。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| \( P_n \) | 定格出力 | [W] |
| \( \cos \theta \) | 力率 | (無次元) |
| \( P_i \) | 鉄損(無負荷損) | [W] |
| \( P_c \) | 銅損(負荷損) | [W] |
| \( \eta \) | 効率 | [%] |
ステップ2:変圧器の効率の一般式を確認する
変圧器の効率 \( \eta \) は、出力と入力(出力+損失)の比で表されます。損失は「鉄損 \( P_i \)」と「銅損 \( P_c \)」の和です。
効率の一般式は以下のようになります。
$$ \eta = \frac{P_n \cos \theta}{P_n \cos \theta + P_i + P_c} \times 100 \,\text{[%]} $$
ここで重要なのは、出力は「定格出力 \( P_n \)」に「力率 \( \cos \theta \)」を掛けた値になるということです。変圧器の有効出力(実際に仕事をする電力)は皮相電力に力率を掛けたものであり、力率が低いほど有効出力は小さくなります。
ステップ3:力率100%における条件から損失を求める
問題文より、「力率 \( 100 \ \% \)(つまり \( \cos \theta = 1 \))における全負荷効率は \( 98 \ \% \)」であることが分かっています。これを効率の一般式に代入してみましょう。
$$ \eta_{100} = \frac{P_n \times 1}{P_n \times 1 + P_i + P_c} \times 100 = 98 $$
この式を整理して、損失(\( P_i + P_c \))と定格出力(\( P_n \))の関係を導き出します。
まず、両辺を整理します。
$$ 100 P_n = 98(P_n + P_i + P_c) $$
右辺を展開します。
$$ 100 P_n = 98 P_n + 98(P_i + P_c) $$
\( P_n \) の項を整理します。
$$ 2 P_n = 98(P_i + P_c) $$
これを \( P_i + P_c \) について解くと、以下の重要な関係式が得られます。
$$ P_i + P_c = \frac{2}{98} P_n $$
この関係式が、次のステップで力率 \( 80 \ \% \) の効率を計算する際の鍵となります。
ステップ4:力率と損失に関する重要な性質を理解する
計算を進める前に、変圧器の損失(銅損と鉄損)に関する重要な性質を確認しておきましょう。ここを勘違いすると正しい答えにたどり着けません。
① 銅損 \( P_c \) について
銅損は負荷電流の2乗に比例します(\( P_c \propto I^2 \))。全負荷(定格)状態では負荷電流の大きさは変わらないため、力率が変わっても銅損は変化しません。つまり、力率が \( 100 \ \% \) でも \( 80 \ \% \) でも、全負荷状態であれば銅損 \( P_c \) は同じ値です。
② 鉄損 \( P_i \) について
鉄損は変圧器の鉄心(コア)内で発生する損失であり、電圧と周波数によって決まります。そのため、負荷の大きさや力率に関係なく常に一定です。電源電圧と周波数が一定であれば、\( P_i \) は固定値となります。
これら2点から、全負荷状態であれば、力率が変化しても全損失(\( P_i + P_c \))は変化しないということが分かります。したがって、ステップ3で求めた \( P_i + P_c = \frac{2}{98} P_n \) を、力率 \( 80 \ \% \) の計算にもそのまま使用できます。
ステップ5:力率80%における全負荷効率を計算する
いよいよ、問題で問われている「力率 \( 80 \ \% \) における全負荷効率」を計算します。
力率 \( 80 \ \% \)(\( \cos \theta = 0.8 \))のときの効率 \( \eta_{80} \) を効率の一般式に当てはめます。
$$ \eta_{80} = \frac{P_n \times 0.8}{P_n \times 0.8 + (P_i + P_c)} \times 100 $$
ここに \( P_i + P_c = \frac{2}{98} P_n \) を代入します。
$$ \eta_{80} = \frac{0.8 P_n}{0.8 P_n + \dfrac{2}{98} P_n} \times 100 $$
分母と分子から \( P_n \) を約分して消去します。
$$ \eta_{80} = \frac{0.8}{0.8 + \dfrac{2}{98}} \times 100 $$
分母分子に \( 98 \) を掛けて整理します。
$$ \eta_{80} = \frac{0.8 \times 98}{0.8 \times 98 + 2} \times 100 = \frac{78.4}{78.4 + 2} \times 100 = \frac{78.4}{80.4} \times 100 $$
$$ \eta_{80} \approx 0.9751 \times 100 \approx 97.5 \,\text{[%]} $$
計算結果は約 \( 97.5 \,\text{[%]} \) となり、選択肢の中で最も近い値は (3) 97.5 です。
解法の全体像:計算の流れを整理する
解法の流れをまとめると、以下のようになります。
| ステップ | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| ステップ1 | 変数の定義(\( P_n, \cos\theta, P_i, P_c, \eta \)) | 記号を整理 |
| ステップ2 | 効率の一般式を確認 | \( \eta = \frac{P_n \cos\theta}{P_n \cos\theta + P_i + P_c} \times 100 \) |
| ステップ3 | 力率100%・効率98%の条件を代入 | \( P_i + P_c = \frac{2}{98} P_n \) |
| ステップ4 | 損失の性質を確認(力率変化で損失は不変) | 全負荷では \( P_i + P_c \) は一定 |
| ステップ5 | 力率80%の効率を計算 | \( \eta_{80} \approx 97.5 \,\text{[%]} \) → 正解 (3) |
変圧器の効率計算でよくある誤りと注意点
誤り①:力率が変わると損失も変わると思い込む
最も多い誤りは、「力率が低くなると銅損も変化する」と思い込むことです。銅損は電流の2乗に比例しますが、全負荷(定格電流)状態では電流の大きさは変わりません。力率が変わるのは電流の位相であり、電流の大きさではないため、銅損は変化しないのです。
誤り②:出力に力率を掛け忘れる
効率の計算式において、分子(出力)に力率 \( \cos \theta \) を掛け忘れるミスも頻発します。変圧器の有効出力は \( P_n \cos \theta \) であり、力率 \( 100 \ \% \) のときは \( \cos \theta = 1 \) なので見落としがちですが、力率 \( 80 \ \% \) のときは必ず \( 0.8 \) を掛ける必要があります。
誤り③:効率が大幅に下がると思い込む
「力率が下がると効率も大幅に下がる」と直感的に思いがちですが、この問題では力率 \( 100 \ \% \) のときの効率 \( 98 \ \% \) から、力率 \( 80 \ \% \) では \( 97.5 \ \% \) とわずかしか変化しません。これは、損失(\( P_i + P_c \))が変化しない一方で、分子の出力も \( 0.8 \) 倍になるからです。選択肢に \( 78.4 \) や \( 81.6 \) が含まれているのは、力率をそのまま効率に掛け算してしまうような誤った解法を誘導するためのひっかけです。
まとめ:変圧器の効率計算のポイント
今回は、令和7年上期の電験3種 機械科目 A問題9を題材に、変圧器の効率計算について解説しました。
この問題を解くための重要なポイントは以下の3点です。
- 効率の公式を正確に覚える:出力には必ず力率 \( \cos \theta \) を掛けることを忘れない。
- 損失と出力の関係式を導く:与えられた条件(今回は力率100%時の効率)から、損失(\( P_i + P_c \))を定格出力(\( P_n \))を用いた式で表す。
- 損失の性質を理解する:全負荷状態であれば、力率が変わっても鉄損と銅損の合計(全損失)は変化しない。
変圧器の効率計算は、電験3種の機械科目で頻出のテーマです。公式の丸暗記だけでなく、「なぜその式になるのか」「力率が変わると何が変化し、何が変化しないのか」という本質的な部分を理解しておくことが、応用問題に対応するための近道となります。ぜひ、この機会に効率計算の基本をしっかりとマスターしておきましょう。

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