電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「力率と効率の関係」は理解を試す良問がそろうテーマです。本記事では、令和7年度上期 A問題9「力率80 %のときの全負荷効率」を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
核心はただ一つ。全負荷(=定格電流)なら、力率が変わっても損失は変わらない。変わるのは出力(×0.8)だけ。効率式の分子・分母のうち出力だけ小さくなるので、効率は少し下がります。
令和7年度上期 機械科目 A問題9:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和7年度上期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題9
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和7年度上期 A問題9
ある変圧器の負荷力率 100 % における全負荷効率は 98 % である。この変圧器の負荷力率 80 % における全負荷効率 [%] の値として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 78.4 (2) 81.6 (3) 97.5 (4) 98.4 (5) 99.6
出題のポイント:力率が変わっても損失は変わらない
力率が100 %から80 %に下がったとき、何が変わって何が変わらないのか——ここを押さえるだけの問題です。
| 力率100 % | 力率80 % | 変わるか | |
| 端子電圧 | 定格 | 定格 | 変わらない |
| 電流 | 定格 | 定格 | 変わらない(全負荷なので) |
| 鉄損 | 電圧で決まる | 同じ | 変わらない |
| 銅損 | 電流で決まる | 同じ | 変わらない |
| 出力 | S×1.0 | S×0.8 | ★0.8倍になる |
変わるのは出力(有効電力)だけです。損失は電圧と電流で決まるので、力率には関係ありません——だから「分子だけが0.8倍、分母の損失はそのまま」という計算になります。

損失を出力の何倍かで表す
定格容量が与えられていないので、力率100 %のときの出力を1として、損失がその何倍かを求めます。
出力を1、損失を L とおく
両辺の逆数を取る
出力の約2.04 %
効率98 %とは「損失が出力の2.04 %」という意味です。「損失が入力の2 %」ではない点に注意——効率の分母は入力(出力+損失)だからです。
力率80 %のときの効率
分子だけ0.8倍、損失はそのまま
分母を足す
選択肢の97.5に一致

選択肢の作られ方を読む
⚠️ よくある間違い
(1) 78.4 %は98×0.8 と単純に掛けた値です。効率は比なので、力率をそのまま掛けても意味がありません。
(2) 81.6 %は0.8÷0.98 を百分率にした値——やはり効率の定義に立ち返っていない答えです。
この2つは「効率が8割近くまで落ちる」という答えですが、変圧器の効率がそこまで悪化することは現実にはありません。変圧器は回転部分がなく、効率98〜99 %台の機器——桁の感覚を持っていれば、この2肢は最初に落とせます。
☝️ ひっかけの作り方:(4) 98.4 %と(5) 99.6 %は「効率が上がる」答えです。力率が悪くなって効率が上がることはありません——同じ電流を流しながら取り出せる有効電力が減るのだから、効率は必ず下がる。この向きの判断だけで、答えは(3)しか残りません。
なぜ力率が悪いと効率が下がるのか
変圧器は電流を流すぶんだけ銅損を発生させます。力率が悪いということは、同じ電流を流しているのに有効電力が少ないということ——「同じ手間で、得られるものが少ない」状態です。
力率100 %なら定格電流で S[kW] を送れますが、力率80 %なら 0.8S[kW] しか送れません。それでも銅損は同じ——だから損失の割合が相対的に増え、効率が下がります。
これは力率改善が省エネにつながる理由そのものです。需要家が力率を改善すれば、同じ有効電力を送るのに必要な電流が減り、変圧器や配電線の損失が減ります——だから電力会社は力率割引という形で改善を促しているのです。
変圧器の効率は「実測」ではなく「規約」で出す
効率98 %の変圧器の損失を実測しようとすると、大変なことになります。入力と出力を別々に測って引き算する——それぞれの測定誤差が0.5 %あっただけで、損失の値は大きく狂ってしまうからです。
入力が100.0 kW、出力が98.0 kW なら損失は2.0 kWですが、それぞれに0.5 %の誤差があると、損失は1.0〜3.0 kW の範囲で揺れます——50 %もの誤差です。効率の高い機器ほど、この方法は使えません。
| 実測効率 | 規約効率 | |
| 求め方 | 出力と入力を実測して割る | 損失を個別に測り、出力から計算で求める |
| 必要な設備 | 定格容量の負荷と電源 | 無負荷試験と短絡試験の設備だけ |
| 精度 | 低い(差を取るため誤差が拡大) | 高い(損失そのものを測る) |
| 電験で使うのは | — | こちら |
無負荷試験は定格電圧を加えて電流を流さないので、電源容量は励磁電流分だけ。短絡試験は定格電流を流すが電圧はごくわずか——どちらも定格容量に比べればごく小さな設備で済みます。
本問で「全負荷効率は98 %」と与えられているのも、この規約効率のことです。だから損失を「出力の何倍か」として扱ってよく、力率が変わっても損失は動かない——という本問の解き方が成り立ちます。
効率の定義の分母が「入力」であることも、あらためて確認しておきましょう。入力=出力+損失ですから、効率98 %なら損失は入力の2 %であり、出力の2.04 %です。この差はわずかですが、計算の出発点を間違えると答えがずれます。
⏱️ 本番での進め方
① 損失は電圧と電流で決まる。力率では変わらない。
② 効率98 % ⇒ 損失は出力の 1/0.98−1=0.0204 倍。
③ 分子だけ0.8倍して 0.8/(0.8+0.0204)≒0.975。
④ 力率が悪化して効率が上がる肢は物理的にあり得ない。まず消す。
💡 覚え方
「力率で変わるのは分子(出力)だけ、分母の損失は動かない」——この一文で計算の形が決まります。そして「効率は必ず下がる」という向きを押さえれば、選択肢は半分になります。


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