電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「インバータの一次周波数制御」はエアコンや電気自動車にも通じる実務直結の頻出テーマです。本記事では、令和5年度下期 B問題15「滑り周波数一定の周波数制御」を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
カギは「滑り周波数 \( f_2 = sf_1 \)」と「滑り \( s \)」の区別。周波数を下げても \( f_2 \) は一定、しかし \( s \) は変わる——ここを混同させるのが出題者の狙いです。
令和5年度下期 機械科目 B問題15:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 B問題15
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和5年度下期 B問題15
定格出力 15 kW、定格周波数 60 Hz、4 極の三相誘導電動機があり、トルク一定の負荷を負って運転している。この電動機について、次の(a)及び(b)の問に答えよ。
(a) 定格回転速度 1 746 min⁻¹ で運転しているときの滑り周波数の値 [Hz] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 1.50 (2) 1.80 (3) 1.86 (4) 2.10 (5) 2.17
(b) インバータにより一次周波数制御を行って、一次周波数を 40 Hz としたときの回転速度 [min⁻¹] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、滑り周波数は一次周波数にかかわらず常に一定とする。
(1) 1 146 (2) 1 164 (3) 1 433 (4) 1 455 (5) 1 719
出題のポイント:滑り s と滑り周波数 f₂ は別物
この問題は、よく似た2つの量を区別できるかを試しています。どちらも「滑り」と名が付きますが、単位も性質も違います。
| 滑り s | 滑り周波数 f2 | |
| 単位 | 無次元(割合) | Hz |
| 定義 | (Ns−N)/Ns | sf1 |
| 意味 | 同期速度に対する遅れの割合 | 回転子に流れる電流の周波数 |
| 一次周波数を下げると | 変わる | (本問の条件では)一定 |
f2=sf1 ですから、f2 を一定に保っても f1 が変われば s は変わります——ここを混同させるのが出題者の狙いです。

(a):滑りを出してから周波数に掛ける
4極・60 Hz。
(b):滑り周波数から滑りを逆算する
f2 は一定という条件。分母が小さくなるので滑りは大きくなる。


別解:滑り周波数一定=「遅れ回転数が一定」
もっと速い解き方があります。滑り周波数が一定ということは、同期速度からの遅れ(min−1)が一定だということなのです。
引き算1回で終わる。
滑りを計算する必要すらありません。「同期速度が1 800 から1 200 へ600 下がったのだから、回転速度も600 下がる」——1 746−600=1 146 と考えても同じです。
この見方は、V/f 一定制御の本質でもあります。周波数を変えても遅れ回転数が変わらないので、トルク−速度曲線が横に平行移動するだけ——だから低速でも定格と同じトルクが出せるのです。
なぜ滑り周波数を一定にするとトルクが一定になるのか
問題文が「滑り周波数は一次周波数にかかわらず常に一定とする」と条件を置いている理由を考えてみましょう。これは「トルク一定で運転する」ことと同じ意味だからです。
「滑り周波数を制御する=トルクを制御する」ということです。電気車のインバータ制御で「滑り周波数制御」と呼ばれる方式は、まさにこの原理——回転周波数に滑り周波数を足した値を出力すれば、狙ったトルクが得られます。
本問の f2=1.80 Hz は、定格トルクに対応する滑り周波数です。これを一定に保ったまま一次周波数を40 Hz に下げれば、定格トルクのまま減速できる——まさにインバータによる可変速運転そのものを計算させている問題だと言えます。
⏱️ 本番での進め方
① s は無次元、f2 は Hz。混同しない。
② f2 一定=遅れ回転数一定。引き算で解ける。
③ (b)は同期速度が600 下がるので、回転速度も600 下がる。
④ f2 を制御することはトルクを制御すること。
(b)の運転で、出力はどうなっているか
問題は回転速度までしか聞いていませんが、出力まで追うと、この制御の性格が見えてきます。トルク一定という条件が効いてきます。
トルクが同じなら出力は速度に比例(P=ωT)。
速度が約2/3 になったので、出力も約2/3です。トルクは変わらないまま、出力だけが減った——これが定トルク運転の特徴です。
| 60 Hz 運転 | 40 Hz 運転 | |
| 一次周波数 | 60 Hz | 40 Hz |
| 滑り周波数 | 1.80 Hz | 1.80 Hz(同じ) |
| 滑り | 0.03 | 0.045 |
| 回転速度 | 1 746 min−1 | 1 146 min−1 |
| トルク | 定格 | 定格(同じ) |
| 出力 | 15 kW | 9.85 kW |
| 二次効率 (1−s) | 97 % | 95.5 % |
二次効率が97 % から95.5 % へ、わずかに下がっている点に注目してください。滑りが0.03 から0.045 へ増えたぶんです。
それでも二次抵抗制御とは比べものになりません。同じ速度(1 146 min−1)を二次抵抗で実現するなら、滑りは0.36 まで増やす必要があり、二次効率は64 % にまで落ちます。インバータなら95.5 % で済む——この差が省エネの正体です。
「同期速度そのものを下げる」か「滑りを大きくする」か——同じ減速でも、どちらの方法を採るかで効率がまるで違うということが、この数字の対比から読み取れます。
💡 覚え方
「f2=sf1——f2 が一定でも f1 が変われば s は変わる」。遅れ回転数 Ns−N=120f2/p は f2 だけで決まるので、f2 一定なら遅れも一定=曲線が平行移動。二次電流は f2 で決まるので、f2 一定=トルク一定。
⚠️ よくある間違い
(b)で滑りを0.03 のまま使うのが最頻の誤りです。一定なのは滑り周波数であって滑りではありません——0.03 のままだと1 200×0.97=1 164(選択肢(2))に着地します。もう一つは(a)で滑り0.03 をそのまま答えること——問われているのは Hz です。

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