電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「損失の連立方程式」は測定データから損失を切り分ける実務的なテーマです。本記事では、令和4年度下期 A問題8「2つの測定から無負荷損を求める」問題を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
全損失=無負荷損(一定)+負荷損(電流の2乗に比例)。電流の違う2つの測定を連立させ、引き算で無負荷損を消せば係数が出ます。中学数学の連立方程式そのものです。
令和4年度下期 機械科目 A問題8:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和4年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題8
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和4年度下期 A問題8
単相変圧器がある。二次側電圧 200 V において、二次側電流 250 A のときの全損失は 1 525 W であった。同様に、二次側電圧 200 V において、二次側電流 150 A のときの全損失は 1 125 W であった。この変圧器の無負荷損は何 W か。最も近いものを、次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 400 (2) 525 (3) 576 (4) 900 (5) 1 000
出題のポイント:2つの式を引き算して鉄損を消す
全損失は鉄損と銅損の合計です。電圧が同じ200 V に保たれているので、2回の測定で鉄損は同じ値——変わったのは銅損だけということになります。
| 損失 | 別名 | 何で決まるか | 負荷を変えると |
| 鉄損 | 無負荷損・固定損 | 電圧と周波数(=磁束密度) | 変わらない |
| 銅損 | 負荷損 | 電流の2乗(巻線抵抗による) | 負荷率の2乗に比例して変わる |
鉄損が両方の測定で共通なら、2つの式を引き算すれば鉄損が消えて、銅損の情報だけが残ります——これが本問の骨格です。連立方程式を解くというより、引き算で1つ消すという感覚で臨みましょう。

銅損が電流の2乗に比例することを使う
銅損は巻線抵抗による I2R 損ですから、電流の2乗に比例します。「2乗」を忘れて電流に比例させてしまうのが本問最大の落とし穴——そこを間違えた答えも選択肢に用意されています。
電流250 A のとき
電流150 A のとき
鉄損が消える
銅損の比例係数
銅損を引く
選択肢の900に一致

選択肢の作られ方を読む
⚠️ よくある間違い
(2) 525 Wは銅損を「電流に比例」として計算したときの答えです。1 525−1 125=400 を 250−150=100 で割って k=4、Pi=1 125−4×150=525——もっともらしい計算ですが、銅損は電流の2乗に比例するので誤りです。
(1) 400 Wは全損失の差そのもの——引き算の結果をそのまま答えてしまったケースです。
☝️ ひっかけの作り方:「銅損は電流の2乗、鉄損は電圧の2乗」——どちらも2乗ですが、比例する相手が違います。本問は電圧が一定なので鉄損は動かず、電流だけが変わるので銅損だけが動く——この整理ができていれば、電流に比例させる誤りは起きません。
別解:負荷率で考える
250 A を全負荷とみれば、150 A は負荷率0.6です。銅損は負荷率の2乗に比例するので、比の形で解くこともできます。
電流の比がそのまま負荷率
2乗に比例
全損失の差
250 A のときの銅損
同じ答えになる
こちらの解き方では、途中で「250 A のときの銅損は625 W」という情報も得られます。鉄損900 W に対して銅損625 W——この変圧器は250 A では鉄損のほうが大きく、最大効率点はもっと重い負荷側にあると読めます。
この変圧器が最も効率よく働くのは何アンペアか
鉄損900 W、そして電流250 A のときの銅損が625 Wだと分かりました。鉄損のほうが大きいということは、この測定点はまだ最大効率点に達していない——もっと電流を流したほうが効率がよくなるということです。
変圧器の効率が最大になるのは鉄損と銅損が等しいときでした。本問で求めた係数 k=0.01 を使えば、その電流が計算できます。
銅損=鉄損
k=0.01、鉄損900 W
300 A のとき効率が最大になる
| 二次電流 | 鉄損 | 銅損 | 全損失 | 出力(力率1) | 効率 |
| 150 A | 900 W | 225 W | 1 125 W | 30 000 W | 96.4 % |
| 250 A | 900 W | 625 W | 1 525 W | 50 000 W | 97.0 % |
| 300 A(最大効率) | 900 W | 900 W | 1 800 W | 60 000 W | 97.1 % |
| 400 A | 900 W | 1 600 W | 2 500 W | 80 000 W | 97.0 % |
300 A を頂点に、その前後でなだらかに下がっていく——これが変圧器の効率曲線の形です。頂上付近はきわめて平坦で、250 A でも400 A でも97.0 %と、最大値との差は0.1ポイントしかありません。
この平坦さこそが変圧器の使いやすさです。負荷が一日中変動しても、効率はほとんど落ちない——だから配電用変圧器は負荷率が大きく変わる場所にも安心して置けます。
逆に軽負荷側では効率が目に見えて落ちます。150 A では96.4 %まで下がっており、鉄損900 W が相対的に重くのしかかっているからです。負荷が軽い時間の長い変圧器ほど、鉄損の小さい設計が有利——アモルファス鉄心の変圧器が省エネ機器として使われるのは、この理由によります。
⏱️ 本番での進め方
① 電圧が同じ=鉄損が同じ。2式を引けば鉄損が消える。
② 銅損は電流の「2乗」に比例。2502−1502=40 000。
③ 400÷40 000=0.01 → 銅損225 W → 鉄損900 W。
④ 求めた値を元の式に戻して検算する。1 525 になれば正しい。
💡 覚え方
「鉄損は電圧で決まるから負荷が変わっても動かない、銅損は電流の2乗で動く」——この一文が、変圧器の損失問題すべての土台です。効率・最大効率条件・全日効率も、すべてここから派生します。


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