はじめに
電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「変圧器の効率・損失」に関する問題は頻出テーマの一つです。今回は、平成20年(2008年)機械科目 B問題 問16を取り上げ、初心者の方でも理解できるように順を追って詳しく解説します。
変圧器の鉄損と銅損の関係、そして最大効率の条件は、計算問題として非常によく出題されます。本記事を通じて、公式の丸暗記ではなく、なぜその計算になるのかという「考え方」を身につけましょう。
問題の確認:平成20年 機械 B問題 問16

問題文と与えられた条件を整理します。
定格容量 \( 50\,\mathrm{kV{\cdot}A} \) の単相変圧器がある。この変圧器を定格電圧、力率 \( 100\,\% \)、全負荷の \( \dfrac{3}{4} \) の負荷で運転したとき、鉄損と銅損が等しくなり、そのときの効率は \( 98.2\,\% \) であった。
この変圧器について、次の(a)および(b)に答えよ。
ただし、鉄損と銅損以外の損失は無視できるものとする。(a) この変圧器の鉄損 \( \mathrm{[W]} \) の値として、最も近いのは次のうちどれか。
(1) 344 (2) 382 (3) 425 (4) 472 (5) 536(b) この変圧器を全負荷、力率 \( 100\,\% \) で運転したときの銅損 \( \mathrm{[W]} \) の値として、最も近いのは次のうちどれか。
(1) 325 (2) 453 (3) 579 (4) 611 (5) 712
変圧器の損失と効率の基礎知識
問題を解く前に、変圧器の損失と効率に関する重要な基礎知識をおさらいしておきましょう。
鉄損(無負荷損)は常に一定
鉄損 \( P_i \) は、変圧器の鉄心内で生じる損失(ヒステリシス損や渦電流損)です。電源の電圧と周波数が一定であれば、負荷の大きさに関わらず常に一定となります。これは、鉄損が電流ではなく磁束の大きさや周波数によって決まるためです。
銅損(負荷損)は負荷電流の2乗に比例する
銅損 \( P_c \) は、巻線の抵抗によって生じるジュール熱(\( I^2 R \))です。電流の2乗に比例するため、負荷率(全負荷に対する割合)を \( x \) とすると、銅損は全負荷時の銅損の \( x^2 \) 倍になります。
全負荷時の銅損を \( P_c \) とすると、負荷率 \( x \) のときの銅損は次の式で表されます。
$$\text{負荷率}\,x\,\text{のときの銅損} = x^2 \times P_c$$
最大効率の条件:鉄損=銅損
変圧器の効率が最大となるのは、鉄損と(その負荷時の)銅損が等しくなったときです。すなわち次の条件が成立するとき、効率は最大になります。
$$P_i = x^2 P_c$$
問題の解説と解法手順(ステップ別)
それでは、具体的な計算手順を見ていきましょう。

ステップ1:変数の定義と与条件の整理
問題文から、以下の数値と条件を整理します。
| 記号 | 意味 | 値・条件 |
|---|---|---|
| \( S_n \) | 定格容量 | \( 50\,\mathrm{kV{\cdot}A} = 50{,}000\,\mathrm{VA} \) |
| \( P_i \) | 鉄損(一定) | 未知 \( \mathrm{[W]} \) |
| \( P_c \) | 全負荷時の銅損 | 未知 \( \mathrm{[W]} \) |
| 負荷条件 | 負荷率・力率 | 定格の \( \dfrac{3}{4} \) 負荷、力率 \( 100\,\% \) |
| \( \eta \) | 効率(3/4負荷時) | \( 98.2\,\% \) |
| 特別条件 | 損失の等値条件 | \( \dfrac{3}{4} \) 負荷時に鉄損=銅損 |
ステップ2:3/4負荷時の銅損を式で表す
銅損は負荷の2乗に比例します。全負荷時の銅損を \( P_c \) とすると、\( \dfrac{3}{4} \) 負荷時の銅損は次のようになります。
$$\frac{3}{4}\text{負荷時の銅損} = \left(\frac{3}{4}\right)^2 \times P_c = \frac{9}{16}\,P_c$$
ステップ3:鉄損と銅損が等しい条件を式にする
問題文の「\( \dfrac{3}{4} \) 負荷時において、鉄損と銅損が等しくなり」という条件から、鉄損 \( P_i \) と全負荷銅損 \( P_c \) の関係式を立てます。
$$P_i = \frac{9}{16}\,P_c \quad \cdots (1)$$
この式(1)が、本問を解くための最大の鍵となります。鉄損は一定(負荷に依存しない)ですが、銅損は負荷の2乗に比例して変化することを忘れないようにしましょう。

ステップ4:効率の公式を用いて全負荷銅損を計算する
効率 \( \eta \) は次の公式で求められます。
$$\eta = \frac{\text{出力}}{\text{出力} + \text{全損失}} \times 100\,[\%]$$
① \( \dfrac{3}{4} \) 負荷、力率 \( 100\,\% \) における出力を求める
$$\text{出力} = \frac{3}{4} \times 50{,}000\,\mathrm{[VA]} \times 1.0 = 37{,}500\,\mathrm{[W]}$$
② \( \dfrac{3}{4} \) 負荷における全損失を \( P_c \) で表す
全損失は鉄損と銅損の和です。式(1)の \( P_i = \dfrac{9}{16}\,P_c \) を代入します。
$$\text{全損失} = P_i + \frac{9}{16}\,P_c = \frac{9}{16}\,P_c + \frac{9}{16}\,P_c = \frac{18}{16}\,P_c = \frac{9}{8}\,P_c$$
③ 効率の式に代入して \( P_c \) を求める
$$98.2 = \frac{37{,}500}{37{,}500 + \dfrac{9}{8}\,P_c} \times 100$$
両辺を100で割り、分母を払って整理します。
$$0.982 \times \left(37{,}500 + \frac{9}{8}\,P_c\right) = 37{,}500$$
$$36{,}825 + 0.982 \times \frac{9}{8}\,P_c = 37{,}500$$
$$0.982 \times \frac{9}{8}\,P_c = 37{,}500 – 36{,}825 = 675$$
$$P_c = \frac{675 \times 8}{0.982 \times 9} = \frac{5{,}400}{8.838} \approx 611\,\mathrm{[W]}$$
よって、全負荷銅損 \( P_c \approx 611\,\mathrm{[W]} \) となります。これが(b)の解答:(4) 611 W です。
ステップ5:鉄損を計算する
ステップ3の式(1)を用いて鉄損 \( P_i \) を求めます。
$$P_i = \frac{9}{16}\,P_c = \frac{9}{16} \times 611 = \frac{5{,}499}{16} \approx 343.7\,\mathrm{[W]}$$
最も近い値は \( 344\,\mathrm{[W]} \) となります。これが(a)の解答:(1) 344 W です。
解答まとめ
以上の計算から、正解の選択肢は次の通りです。
| 設問 | 求める量 | 計算結果 | 正解 |
|---|---|---|---|
| (a) | 鉄損 \( P_i \) | \( \approx 344\,\mathrm{[W]} \) | (1) 344 |
| (b) | 全負荷銅損 \( P_c \) | \( \approx 611\,\mathrm{[W]} \) | (4) 611 |
各条件における損失と効率の比較
計算結果を整理すると、3/4負荷時と全負荷時の損失・効率の比較は次のようになります。
| 条件 | 出力(力率100%) | 銅損 \( P_c \) | 鉄損 \( P_i \) | 全損失 | 効率 \( \eta \) |
|---|---|---|---|---|---|
| 3/4負荷 | \( 37{,}500\,\mathrm{[W]} \) | \( 344\,\mathrm{[W]} \)(\( \dfrac{9}{16}P_c \)) | \( 344\,\mathrm{[W]} \)(一定) | \( 688\,\mathrm{[W]} \) | \( 98.2\,\% \) |
| 全負荷 | \( 50{,}000\,\mathrm{[W]} \) | \( 611\,\mathrm{[W]} \)(\( P_c \)) | \( 344\,\mathrm{[W]} \)(一定) | \( 955\,\mathrm{[W]} \) | \( \approx 98.1\,\% \) |
効率は若干低下しますが、高負荷での効率も依然として非常に高いことがわかります。
まとめ:変圧器の効率・損失計算で押さえるべきポイント
本問題を解く上で、絶対に押さえておくべきポイントは次の3点です。
- 鉄損は負荷によらず一定である(電圧・周波数が一定なら変化しない)。
- 銅損は負荷の2乗に比例して変化する(負荷率 \( x \) のとき、銅損は \( x^2 P_c \))。
- 最大効率の条件は「鉄損=銅損」であり、この条件から \( P_i \) と \( P_c \) の関係式が立てられる。
この3つの原則を理解していれば、「〇/〇負荷のとき」という条件が与えられても、慌てずに損失の式を立てることができます。効率の公式と組み合わせて方程式を解く力は、電験3種の機械科目で非常に重要ですので、繰り返し復習しておきましょう。

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