電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「巻線形誘導電動機の構造」は材料の知識まで踏み込む一段細かい構造問題です。本記事では、令和4年度上期 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
前半は定番(回転磁界・電磁鋼板)、中盤は絶縁電線の使い分け(小出力=ポリエステル線、大出力=ガラス巻線の平角銅線)、締めは可変抵抗器の目的=始動特性の改善(比例推移)です。
令和4年度上期 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
材料を「何のために選ばれているか」で並べ替えてから読みます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和4年度上期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和4年度上期 A問題3(要約)
三相巻線形誘導電動機は(ア)を作る固定子と巻線形回転子で構成。固定子は(イ)を打ち抜いて積層鉄心を構成。回転子の巻線には耐熱性・絶縁性に優れた絶縁電線が用いられ、小出力用ではホルマール線や(ウ)などの丸線が、大出力用では(エ)の平角銅線が用いられる。三相巻線はスリップリング+ブラシで外部端子に接続され、可変抵抗器を接続することにより(オ)を改善したり速度制御をすることができる。
(1) 回転磁界・高張力鋼板・ビニル線・エナメル線・効率 (2) 回転磁界・電磁鋼板・ビニル線・エナメル線・始動特性 (3) 電磁力・電磁鋼板・ビニル線・エナメル線・効率 (4) 電磁力・高張力鋼板・ポリエステル線・ガラス巻線・効率 (5) 回転磁界・電磁鋼板・ポリエステル線・ガラス巻線・始動特性
本問は平成19年度 A問題3(誘導機46)とほぼ同一の再出題です(旧表記は「けい素鋼板」)。材料の序列ごと覚えれば二度おいしい問題です。
出題のポイント:材料を「役割」で並べ替える
この問題は構造だけでなく材料まで踏み込みます。それぞれの材料が何のために選ばれているかが分かっていれば、覚えていなくても消去法で決まります。
| 場所 | 使う材料 | 選ばれた理由 | ダミーとして出るもの |
| 固定子鉄心 | 電磁鋼板(けい素鋼板)の積層 | 鉄損(ヒステリシス損・渦電流損)を減らす | 高張力鋼板(構造材であって磁性材ではない) |
| 小出力機の巻線 | ホルマール線・ポリエステル線(丸線) | 耐熱性のあるエナメル被覆で、細くても絶縁できる | ビニル線(耐熱性が足りない) |
| 大出力機の巻線 | ガラス巻線の平角銅線 | 大電流を流すため断面積が要る+最上級の耐熱 | エナメル線(大出力には力不足) |

空欄を確定する
(ア)(イ):回転磁界と電磁鋼板
固定子が作るのは回転磁界です。(ア)=回転磁界。「電磁力」は力の名前であって磁界ではありません——この一語で(3)(4)が消えます。
鉄心は電磁鋼板を打ち抜いて積層します。(イ)=電磁鋼板。「高張力鋼板」は自動車の車体などに使う構造用の鋼板で、磁気回路には使いません。
(ウ)(エ):耐熱グレードの序列
問題文が「耐熱性・絶縁性に優れた絶縁電線」と前置きしているのが決め手です。ビニル線は耐熱性が低く、回転機の巻線には使えません。(ウ)=ポリエステル線で(2)が消えます。
大出力用は電流が大きいので平角銅線を使い、その絶縁にはガラス繊維(ガラス巻線)を用います。(エ)=ガラス巻線。
(オ):外部抵抗の目的は始動特性
可変抵抗器を二次側に入れる目的は、比例推移で始動トルクを大きくし始動電流を抑えることです。(オ)=始動特性。
☝️ ひっかけの作り方:「効率」を選んではいけません。抵抗を入れれば滑りが増え、二次銅損(sP2)が増えて効率はむしろ悪化します。効率を犠牲にしてでも始動トルクが欲しい——それが巻線形の存在理由です。



なぜ「けい素」を入れた鋼板を使うのか
電磁鋼板は、鉄にけい素を数 % 加えた鋼板です。けい素を入れると何が良くなるのか——鉄損の2つの成分がどちらも減ります。
| 鉄損の成分 | 何で決まるか | けい素を入れると | 積層すると |
| ヒステリシス損 | 磁化のしにくさ(保磁力)× 周波数 | 減る(磁化曲線が細くなる) | 変わらない |
| 渦電流損 | 鉄心の導電率 × 周波数2 × 板厚2 | 減る(固有抵抗が上がる) | 大きく減る(板厚の2乗) |
渦電流損は板厚の2乗に比例するので、0.5 mm を0.35 mm にすれば約半分になります。「薄い板を絶縁して重ねる」という作り方は、この一点のためです。
けい素を入れすぎると硬くもろくなって打ち抜けなくなるので、回転機では3 % 程度までにとどめます。変圧器用(方向性けい素鋼板)はもっと多く入れられる——打ち抜きの形が単純だからです。同じ「けい素鋼板」でも用途で中身が違います。
絶縁材料の耐熱クラス
(ウ)(エ)の材料選定は、突き詰めれば「何度まで耐えられるか」の話です。電気機器の絶縁は耐熱クラスで分類されています。
| 耐熱クラス | 許容最高温度 | 代表的な材料 |
| A種 | 105 ℃ | 綿・紙をワニスで処理したもの |
| E種 | 120 ℃ | ポリウレタン・ホルマール |
| B種 | 130 ℃ | マイカ・ガラス繊維(有機系接着剤) |
| F種 | 155 ℃ | マイカ・ガラス繊維(耐熱性接着剤) |
| H種 | 180 ℃ | マイカ・ガラス繊維(シリコーン系) |
ガラス繊維がB種以上に集中していることに注目してください。ガラスは無機物なので、有機物のエナメルより本質的に熱に強いのです。大出力機に「ガラス巻線」が使われる理由がここにあります。
大出力機ほど発熱が大きく、冷却も難しくなります。絶縁が焼ければ機械は即座に故障するので、絶縁の耐熱クラスが機械の寿命をそのまま決めます。「10 ℃ 上がると寿命は半分」(10 ℃ 半減則)という経験則があるほど、温度は絶縁にとって厳しい要因です。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)=回転磁界で2肢消える——「電磁力」は磁界の名前ではない。
② 問題文の「耐熱性に優れた」がビニル線を排除する。
③ (オ)は始動特性。外部抵抗は発熱源なので効率は悪化する。
④ 高張力鋼板は構造材。磁気回路には電磁鋼板(けい素鋼板)。
なぜ大出力機は「平角」の銅線なのか
(エ)の「平角銅線」——丸ではなく角ばった断面の線を使う理由は、スロットにどれだけ銅を詰め込めるかにあります。
| 丸線 | 平角線 | |
| スロット内の隙間 | 多い(円の間に必ず空きができる) | 少ない(隙間なく積める) |
| 占積率 | 低い | 高い |
| 同じスロットに入る銅の量 | 少ない | 多い |
| 結果 | 抵抗が大きく損失が増える | 抵抗が小さく効率が上がる |
| 加工 | 曲げやすく巻きやすい | 硬く、曲げに手間がかかる |
丸い線を並べると、どうしても円と円の間に隙間ができます。大出力機では巻線の断面積がそのまま損失を決めるので、この隙間が無視できません——平角にして詰め込むほうが得になります。
小出力機で丸線が使われるのは、細い線を何百回も巻く必要があり、平角では作業にならないからです。「小は巻きやすさ、大は占積率」——どちらも合理的な選択であって、優劣ではありません。
絶縁の付け方も、この違いに対応しています。丸線はエナメル(ホルマール・ポリエステル)を薄く焼き付けるのに対し、平角線はガラス繊維を巻き付ける——太い線には巻き付けるほうが確実で、しかも耐熱性が高いという二重の利点があります。
★再出題:平成19年度 A問題3とほぼ同じ問題
この問題は平成19年度 A問題3とほぼ同一の再出題です。旧年度では鉄心の材料が「けい素鋼板」と表記されていましたが、指しているものは同じ(電磁鋼板=けい素鋼板)です。
15年ぶりの再出題ですが、選択肢が並べ替えられて正解の番号は平成19年度の(2)から本問の(5)へ移動しています。番号ではなく中身で覚えてください。そして、材料の知識という一見マイナーな論点が、こうして繰り返し問われていることが分かります。「鉄心は電磁鋼板、小は丸線、大は平角+ガラス、外部抵抗は始動のため」——この4点は覚えておく価値があります。
材料問題は計算がないぶん、知っているか知らないかで決まってしまいます。逆に言えば、一度覚えれば確実に得点できる問題——用語の意味(電磁鋼板=磁性材、高張力鋼板=構造材、ビニル=配線材)を押さえておけば、消去法でも十分に戦えます。
💡 覚え方
「鉄心は電磁鋼板、小は丸線(ホルマール・ポリエステル)、大は平角+ガラス、外部抵抗は始動のため」。けい素を入れるとヒステリシス損も渦電流損も減り、積層すると渦電流損が板厚の2乗で減る。ガラス繊維は無機物だから耐熱クラスが高い。
⚠️ よくある間違い
(オ)に「効率」を選ぶのが典型です。外部抵抗は熱を出す部品で、効率はむしろ下がります。もう一つは(ウ)にビニル線——配線材であって巻線材ではありません。問題文の「耐熱性・絶縁性に優れた」という前置きが排除の根拠になります。

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