電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「T形とL形の等価回路」は誘導機計算の土台となる回路知識です。本記事では、平成26年度 A問題6を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
物語は3段——「等価回路は変圧器と同型(T形)」「低周波・低電圧始動では一次抵抗の電圧降下が相対的に大きくなり磁束減→トルク減少」「定格運転なら励磁回路を左端(電源側)へ移したL形で簡略化」。V/f制御の背景まで含んだ良問です。
平成26年度 機械科目 A問題6:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成26年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題6
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成26年度 A問題6(要約)
三相誘導電動機の1相当たりの等価回路は(ア)と同様に表すことができる。図の(イ)等価回路で、定格の数%程度の周波数・電圧で始動するとき、始動電流が定格電流と同じだけ流れると(ウ)による電圧降下の一次電圧に対する比率が定格時より大きくなるので磁束が減少し、発生トルクが(エ)する。定格運転時は励磁回路を図の(オ)側に移した簡易等価回路も有効で、V/f一定なら負荷変動に影響されず励磁電流がほぼ一定となる。
(1) 同期電動機・L形・一次抵抗・増加・右端の負荷抵抗 (2) 変圧器・T形・一次抵抗・減少・左端の端子 (3) 同期電動機・T形・二次漏れリアクタンス・減少・右端の負荷抵抗 (4) 変圧器・L形・一次抵抗・増加・右端の負荷抵抗 (5) 変圧器・T形・二次漏れリアクタンス・減少・左端の端子

出題のポイント:低周波では「r は残り、x は縮む」
この問題の核心は、周波数を下げたときに抵抗とリアクタンスが違う振る舞いをするという一点です。
| 定格(50 Hz・200 V) | 低周波始動(2.5 Hz・10 V) | |
| 一次抵抗 r1 | 0.5 Ω(不変) | 0.5 Ω(不変) |
| 定格電流での抵抗降下 | 5 V | 5 V(同じ) |
| 端子電圧に占める割合 | 5/200=2.5 % | 5/10=50 % |
| 励磁に回る電圧 | 195 V(ほぼ全部) | 5 V(半分しかない) |
| 磁束 | 定格 | 半分に痩せる |
| トルク | 定格 | 減少 |
同じ5 V の降下が、200 V なら2.5 % だが10 V なら50 %——これが「一次電圧に対する比率が定格時より大きくなる」の中身です。



空欄を確定する
(ア)(イ):変圧器とT形
誘導機は「回転する変圧器」ですから、1相分の等価回路も変圧器と同じ形になります。(ア)=変圧器。
図は励磁回路が回路の中央にあるT形(精密)等価回路です。(イ)=T形。低周波始動のような厳密な検討をするときは、励磁回路の位置を正しく置いたT形でなければなりません。
(ウ)(エ):一次抵抗と減少
(ウ)=一次抵抗。「二次漏れリアクタンス」では説明がつきません——リアクタンスは周波数とともに減るので、低周波では比率が拡大するどころか縮小するからです。
問題文が「磁束が減少し」と書いているのですから、その帰結であるトルクも当然減ります。(エ)=減少。「増加」では文意が破綻します。
(オ):励磁回路を左端へ移すとL形
定格運転時は一次抵抗の降下が2.5 % 程度と小さいので、励磁回路を電源端子(左端)まで移してしまっても大きな誤差になりません。(オ)=左端の端子——これがL形(簡易)等価回路です。


T形とL形の使い分け
| T形等価回路 | L形等価回路 | |
| 励磁回路の位置 | 一次と二次の間(本来の位置) | 入力端子(左端) |
| 精度 | 高い | 定格付近なら十分 |
| 計算 | 枝が3本に分かれて煩雑 | 直列回路1本になり簡単 |
| 使う場面 | 低周波・始動時など厳密な検討 | 定格付近の効率・トルク計算 |
| 誤差が出る条件 | — | 一次抵抗降下の割合が大きいとき(=低周波) |
L形が使えなくなるのは、まさに本問が扱っている低周波始動の場面です。励磁回路を左端に移すという近似は「一次インピーダンスの降下が小さい」ことを前提にしているので、その前提が崩れる領域では使えません。
問題文が「定格運転時は」とわざわざ断っているのは、この適用条件を明示するためです。近似を使うときは、必ずその前提を確認する——工学の基本姿勢がここに現れています。
トルクブーストという対策
低周波で磁束が痩せるのが問題なら、その分だけ電圧を上乗せすればよい——これがトルクブースト(電圧補正)です。
| 周波数 | V/f 一定なら | 実際に必要な電圧 | 上乗せ分 |
| 50 Hz(定格) | 200 V | 200 V | ほぼ不要 |
| 25 Hz | 100 V | 105 V 程度 | 5 V |
| 5 Hz | 20 V | 25 V 程度 | 5 V(割合では25 %) |
| 2.5 Hz | 10 V | 15 V 程度 | 5 V(割合では50 %) |
上乗せする電圧の絶対値はほぼ一定(抵抗降下の分)ですが、割合で見ると低周波ほど大きくなる——だからインバータの V/f 曲線は、低周波側で折れ曲がった形になっています。
ブーストを効かせすぎると、今度は無負荷時に磁束が過剰になって励磁電流が増え、無駄な発熱を招きます。負荷の状態に応じて適切な補正量を決める必要がある——ここから先はベクトル制御という、より高度な制御の世界に入っていきます。
⏱️ 本番での進め方
① 「r は残り、x は縮む」——低周波の物理はこの一言で決まる。
② (エ)は「減少」。「磁束が減少し」の直後に「増加」では文意が破綻する。
③ T形=精密(励磁は真ん中)、L形=簡易(励磁は左端)。
④ (ウ)にリアクタンスは入らない——周波数とともに減るので比率拡大の説明にならない。
等価回路の各定数は何を表しているのか
T形等価回路に並ぶ記号は、それぞれが機械の実体と1対1で対応しています。記号の意味が分かると、(ウ)のような判定が一瞬で終わります。
| 定数 | 回路上の位置 | 機械の中の何を表しているか | 周波数を下げると |
| r1 | 一次側の直列 | 固定子巻線の抵抗(一次銅損) | 変わらない |
| x1 | 一次側の直列 | 固定子の漏れ磁束 | 比例して減る |
| g0 | 励磁回路の並列 | 鉄損(ヒステリシス損・渦電流損) | 減る |
| b0 | 励磁回路の並列 | 主磁束を作る励磁電流 | — |
| x2′ | 二次側の直列 | 回転子の漏れ磁束 | 比例して減る |
| r2′/s | 二次側の直列 | 二次銅損+機械出力 | — |
「周波数を下げると」の列を見れば、(ウ)の答えは即座に決まります。リアクタンス(x1・x2′)はどれも周波数とともに減るのですから、「電圧降下の比率が定格時より大きくなる」原因にはなり得ません。変わらないのは r1 だけです。
もう一つ押さえておきたいのが、r2′/s だけが滑りで変わるという点です。他の定数はすべて機械の作りで決まってしまうのに対し、この1つだけが運転状態によって動きます——だから誘導機の特性は、この項の変化としてほぼ説明できてしまうのです。
| 運転状態 | 滑り s | r2′/s | 回路の見え方 |
| 始動(拘束) | 1 | r2′(最小) | 二次側が短絡に近い ⇒ 大電流 |
| 定格運転 | 0.03 | 33 r2′ | 抵抗が大きく、電流は適度 |
| 無負荷 | ≒0 | ほぼ無限大 | 二次側が開放に近い ⇒ 励磁電流だけ |
「始動=二次短絡、無負荷=二次開放」——拘束試験と無負荷試験がなぜあの条件で行われるのかも、この表がそのまま説明しています。等価回路は、誘導機のあらゆる現象を1枚に翻訳した地図だと考えてください。
💡 覚え方
「T形=精密(励磁は真ん中)、L形=簡易(励磁は左端)。低周波では r1 が主役——磁束が痩せてトルク減」。抵抗降下の絶対値は変わらないのに端子電圧が小さくなるので、割合が跳ね上がる。対策がトルクブーストで、上乗せ量の絶対値はほぼ一定だが割合は低周波ほど大きい。
⚠️ よくある間違い
(ウ)に「二次漏れリアクタンス」を選ぶのが典型です。リアクタンスは x=2πfL なので周波数とともに減ります——「比率が大きくなる」の説明になりません。もう一つは(エ)に「増加」——直前の「磁束が減少し」と矛盾します。

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