電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「かご形の二次抵抗と深溝形回転子」は効率と始動特性の両立という設計思想を問う良問テーマです。本記事では、平成26年度 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
物語は一貫しています——「運転時の効率のため二次抵抗は小さく、でも始動トルクは欲しい。そこで深溝形の表皮効果(電流密度が不均一)で始動時だけ実効抵抗を上げる」。仕上げは「滑りが小さい=ほぼ定速度」の指摘です。
平成26年度 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成26年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成26年度 A問題3
定格負荷時の効率を考慮して二次抵抗値は、できるだけ(ア)する。滑り周波数が大きい始動時には、かご形回転子の導体電流密度が(イ)となるような導体構造(たとえば深溝形)にして、始動トルクを大きくする。定格負荷時は、無負荷時より(ウ)であり、その差は(エ)。このことから三相かご形誘導電動機は(オ)電動機と称することができる。
(1) 小さく・不均一・低速度・小さい・定速度 (2) 大きく・不均一・低速度・大きい・変速度 (3) 小さく・均一・低速度・小さい・定速度 (4) 大きく・均一・高速度・大きい・変速度 (5) 小さく・不均一・高速度・小さい・変速度
出題のポイント:「いつの話か」で答えが反転する
二次抵抗は大きいほうが良いのか、小さいほうが良いのか——この問いに一つの答えはありません。始動の話なら大きく、運転の話なら小さくが正解です。
| 場面 | 望ましい二次抵抗 | 理由 |
| 定格運転時 | できるだけ小さく | 滑りが小さくなり、二次銅損 sP2 が減って効率が上がる |
| 始動時 | できるだけ大きく | sm=r2/x2 が1に近づき、始動トルクが最大に近づく |
問題文の(ア)は「定格負荷時の効率を考慮して」と場面を指定しています。だから(ア)=小さく——始動トルクの話につられて「大きく」を選ばないことが本問の第一関門です。

空欄を確定する
(イ):深溝形は電流密度を「不均一」にする
「滑り周波数が大きい始動時には」と問題文が条件を付けています。二次周波数 f2=sf1 は s=1 で最大——電源周波数と同じ50 Hzです。
深い溝に納めた導体では、この高い周波数によって電流が溝口側(外側)に偏ります(表皮効果)。電流密度が不均一になる=実効的な断面積が減る=実効抵抗が増える——(イ)=不均一。
「均一」では抵抗が変わらず、始動トルクも増えません。問題文の「始動トルクを大きくする」という目的と矛盾するので、その時点で消せます。
(ウ)(エ)(オ):滑りが数 % だから定速度電動機
無負荷時はほぼ同期速度で回っており、定格負荷をかけると滑りの分だけ遅くなります。(ウ)=低速度。その差は定格滑り=数 % 分ですから小さい。(エ)=小さい。
負荷が変わっても速度がほとんど変わらない電動機を「定速度電動機」と呼びます。(オ)=定速度。


定速度電動機とは何か
「定速度」と「変速度」は、電動機を分類するときの基本的な軸です。無負荷から定格までで速度がどれだけ変わるかで分けます。
| 電動機 | 速度変動率の目安 | 分類 | 理由 |
| 同期電動機 | 0 % | 定速度 | 常に同期速度で回る |
| 三相かご形誘導 | 3〜5 % | 定速度 | 定格滑りが小さい |
| 直流分巻・他励 | 3〜8 % | 定速度 | 磁束が一定に保たれる |
| 巻線形(外部抵抗を入れた状態) | 大きい | 変速度的 | 滑りが大きく、負荷で速度が動く |
| 直流直巻 | 非常に大きい | 変速度 | 負荷電流が磁束も決めるため(無負荷では暴走) |
かご形誘導電動機が定速度に分類されるのは、(ア)で二次抵抗を小さく設計しているからにほかなりません。もし二次抵抗を大きくすれば、同じ機械が変速度的な特性になります——本問の(ア)と(オ)は、同じ設計判断の原因と結果なのです。
この「定速度」という性質は、多くの用途で長所です。ポンプや送風機は決まった速度で回ってくれればよいのですから、負荷が変動しても速度が変わらないのはありがたい——かご形誘導電動機が産業用の標準になった理由の一つです。
問題文全体が一つの設計ストーリーになっている
| 空欄 | 設計上の判断 | その帰結 |
| (ア) 二次抵抗を小さく | 運転効率を優先する | 始動トルクが不足する |
| (イ) 深溝形で不均一に | 始動時だけ実効抵抗を上げる | 始動トルクの問題を解決 |
| (ウ)(エ) 速度差は小さい | (ア)の結果 | 滑りが数 % で済む |
| (オ) 定速度電動機 | (ウ)(エ)の結論 | 用途の広さにつながる |
5つの空欄が独立していないことに注目してください。「効率のため抵抗を小さくした」→「だから始動トルクが足りない」→「だから深溝形にした」→「抵抗が小さいから滑りも小さい」→「だから定速度電動機」——一本の因果の鎖です。
だから(ア)を「大きく」にしてしまうと、そこから後ろが全部おかしくなります。抵抗が大きければ滑りも大きく、(エ)は「大きい」、(オ)は「変速度」になるはず——選択肢(2)はまさにその整合した誤りです。問題文が「定格負荷時の効率を考慮して」と明記している一点で、(1)に決まります。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)は「定格負荷時の効率」の話——始動トルクにつられない。
② 深溝形は電流密度が不均一になるから抵抗が増える。均一では意味がない。
③ 定格滑りは数 %——だから速度差は小さく、定速度電動機。
④ 5つの空欄は一本の因果の鎖。(ア)が決まれば残りは自動的に決まる。
銘板の回転速度から、その機械の効率が読める
(ウ)(エ)(オ)で確認した「滑りは数 %」という事実は、実務では非常に便利な手がかりになります。銘板に書かれた定格回転速度を見るだけで、その機械の二次側の損失が分かるのです。
例:50 Hz・4極・定格1 440 min−1 と書かれた電動機を読んでみましょう。
1 440 にいちばん近い同期速度は4極の1 500。
4 %。
二次入力の4 % が回転子で熱になっている。
「回転速度が半端な数字である」こと自体が、滑りの存在を語っています。1 500 ちょうどなら同期電動機、1 440 なら誘導電動機で滑り4 %——銘板を見ただけで機種と特性の見当がつきます。
| 銘板の定格回転速度(50 Hz) | 極数 | 定格滑り | 読み取れること |
| 2 880 min−1 | 2極(Ns=3 000) | 4 % | 高速機。ポンプ・ブロワ向け |
| 1 440 min−1 | 4極(Ns=1 500) | 4 % | 最も一般的な汎用機 |
| 1 455 min−1 | 4極 | 3 % | より効率の高い設計(二次抵抗が小さい) |
| 950 min−1 | 6極(Ns=1 000) | 5 % | 低速機。小容量ほど滑りが大きい傾向 |
同じ4極でも1 440 と1 455 では滑りが4 % と3 %——後者のほうが二次抵抗が小さく、効率の良い設計だということです。その代わり始動トルクは小さいはずで、まさに本問の(ア)が述べているトレードオフが銘板に現れています。
一般に小容量機ほど定格滑りが大きく(5 % 前後)、大容量機ほど小さい(1〜2 %)傾向があります。大形機は導体が太くて抵抗が小さくなるからで、直流機の効率が容量とともに上がるのと同じ事情です。
💡 覚え方
「運転は低抵抗(効率)、始動は表皮効果で高抵抗(トルク)——深溝形は一人二役」。二次抵抗の大小は「いつの話か」で正義が変わる。定格滑りが数 % だから速度変動率も小さく、かご形誘導電動機は定速度電動機——同期電動機・直流分巻と同じ仲間で、直流直巻だけが変速度。
⚠️ よくある間違い
始動トルクの話につられて(ア)を「大きく」にするのが最頻の誤りです。問題文は「定格負荷時の効率を考慮して」と場面を指定しています。もう一つは滑り数 % を「大きい差」と評価して変速度を選ぶこと——3〜5 % は十分に小さいのであり、電動機の分類上は定速度です。

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