電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「電力フローと発電機運転」は黄金比を符号まで含めて使いこなせるかを試す一段上の論説テーマです。本記事では、平成29年度 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
前半は「二次入力=同期ワット」「Pₒ:Pc₂=(1−s):s」の定義確認。後半は s<0 を代入して機械出力の符号が負→発電機と結論づける、美しい論理問題です。
平成29年度 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成29年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成29年度 A問題3
誘導機の二次入力は(ア)とも呼ばれ、トルクに比例する。二次入力における機械出力と二次銅損の比は、誘導機の滑りを s として(イ)の関係にある。この関係を用いると、二次銅損は常に正であることから、s が −1 から 0 の間の値をとるとき機械出力は(ウ)となり、誘導機は(エ)として運転される。
(1) 同期ワット・(1−s):s・負・発電機 (2) 同期ワット・(1+s):s・負・発電機 (3) トルクワット・(1+s):s・正・電動機 (4) 同期ワット・(1−s):s・負・電動機 (5) トルクワット・(1−s):s・正・電動機
出題のポイント:黄金比は符号ごと信用してよい
誘導機の二次側には「黄金比」と呼ばれる関係があります。この比は滑りが負でも1より大きくても成立する——その一般性を確かめさせるのが本問です。

空欄を確定する
(ア):二次入力の別名は「同期ワット」
P2=ω0T——同期角速度とトルクの積です。「同期速度で回っていると仮定したときの機械出力」に等しいので、トルクを電力の単位で表す言い方として同期ワットと呼びます。(ア)=同期ワット。
☝️ ひっかけの作り方:「トルクワット」という用語は存在しません。もっともらしく見えますが造語です。(ア)で「トルクワット」を選んだ時点で(3)(5)が消えるので、用語の実在性だけで2肢が落ちます。
(イ):黄金比から2つを抜き出すだけ
機械出力と二次銅損の比ですから、Po😛c2=(1−s):s。(イ)=(1−s):s。黄金比に「1+s」は登場しませんので、(2)もここで消えます。
(ウ)(エ):s<0 を代入して符号を見る
問題文の(イ)を移項しただけ。
分子は正、分母が負。二次銅損は常に正なので機械出力は負。
機械出力が負とは、軸から仕事を受け取っているということです。外から回されて電気を作っている——発電機運転にほかなりません。(ウ)=負、(エ)=発電機。


滑りの全域で電力の向きを追う
黄金比が符号込みで成立するということは、滑りの値さえ決めれば運転モードが自動的に決まるということです。本問が扱った s<0 は、その一部にすぎません。
| 滑り s | 回転の様子 | P2(二次入力) | Pc2(二次銅損) | Po(機械出力) | 運転モード |
| s>1 | 磁界と逆向きに回っている | 正 | 正(非常に大きい) | 負 | 逆相制動 |
| s=1 | 停止(始動の瞬間) | 正 | =P2(全部熱) | 0 | 始動時 |
| 0<s<1 | 同期速度より遅い | 正 | 正(sP2) | 正 | 電動機 |
| s=0 | 同期速度ちょうど | 0 | 0 | 0 | 理想無負荷 |
| s<0 | 同期速度より速い | 負(系統へ返す) | 正 | 負(軸から受け取る) | 発電機 |
符号の読み方は「正=受け取る、負=送り出す」です。発電機運転では P2 も Po も負——軸から機械エネルギーを受け取り、二次側から一次側へ電力を送り返しているという電力の流れがそのまま読めます。
極端な例:逆相制動では両側から熱が入る
s>1(逆相制動・プラッギング)は特に劇的です。s=2 で計算してみましょう。
二次入力の2倍が熱になる。
負=軸からも仕事が入ってくる。
電気側から P2、機械側から P2——合計 2P2 がすべて二次銅損として熱になります。逆相制動が「効くけれど熱がすごい」と言われる理由がここに全部出ています。短時間しか使えず、大形機では制動抵抗の熱容量が設計の要点になります。
誘導発電機はどこで使われているのか
s<0 での運転=誘導発電機は、机上の話ではありません。風力発電や小水力発電で実際に使われています。
| 誘導発電機 | 同期発電機 | |
| 界磁 | 不要(構造が簡単・安価) | 必要(励磁装置が要る) |
| 励磁のための無効電力 | 外部(系統)から取る | 自前で作れる |
| 単独運転 | できない(コンデンサが必要) | できる |
| 系統への並列 | 同期を取る必要がなく簡単 | 同期検定が必要 |
| 速度変動 | 滑りで吸収できる | 許容されない |
誘導発電機の最大の利点は「同期を取らなくてよい」ことです。同期発電機は電圧・周波数・位相を合わせてから並列投入しなければならないのに対し、誘導発電機は同期速度より少し速く回すだけで自動的に発電に移ります——風の強さで回転数が揺れる風力発電にはうってつけです。
弱点は「自分では磁界を作れない」こと。励磁のための無効電力を系統から受け取る必要があるので、系統が停電すると発電も止まります(単独運転ができない=安全面ではむしろ利点でもあります)。独立して使いたい場合は端子にコンデンサをつないで無効電力を供給します(自励式誘導発電機)。
⏱️ 本番での進め方
① 「トルクワット」は存在しない用語——(ア)だけで(3)(5)が消える。
② 黄金比に「1+s」は出てこない——(イ)で(2)も消える。
③ 残る(1)(4)は(エ)だけの違い。「機械出力が負なのに電動機」は自己矛盾なので(4)は落ちる。
④ 二次銅損は常に正——問題文がこれを明示しているのは「基準にせよ」という誘導。
同期ワットが便利な理由
(ア)の「同期ワット」は、単なる別名ではありません。トルクを求めるいちばん楽な道筋を与えてくれます。
なぜ実際の速度ではなく同期速度で割るのか——トルクは二次入力に比例するからです。Po=(1−s)P2 と ω=(1−s)ω0 の両方に (1−s) が付いているので、T=Po/ω=P2/ω0 と約分されます。
数値で確かめましょう(4極50 Hz・二次入力5.0 kW・滑り0.04)。
滑りを一切使っていないのがこの式の値打ち。
もし機械出力から求めるなら、Po=(1−0.04)×5000=4800 W、N=(1−0.04)×1500=1440 min−1、ω=150.8 rad/s、T=4800/150.8=31.8 N·m——同じ答えですが手数が倍です。トルクを聞かれたら同期ワットを同期角速度で割る、と決めておくと計算が速くなります。
「トルクに比例する」と問題文が言っているのは、まさにこの関係です。二次入力とトルクは同期角速度という定数で結ばれているだけ——だから二次入力を「ワットで表したトルク」と見なしてよく、同期ワットと呼ぶのです。
💡 覚え方
P2😛o😛c2=1:(1−s):s は滑りの符号を問わず成立。二次入力=同期ワット=ω0T。s<0(同期速度超過)で機械出力が負=発電機、s>1(逆回転)で両側から熱が入る=逆相制動。二次銅損だけは常に正で、これが符号判定の基準になります。
⚠️ よくある間違い
比を s:(1−s) と逆に取るのが最も多い誤りです。滑りの割合がそのまま熱になる——s が付くのは二次銅損のほうと覚えてください。もう一つは機械出力が負でも「電動機」とする(4)——負=軸から受け取っている=発電機で、選択肢の中で論理が閉じていません。

コメント