電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「誘導機の基本原理」は動作の核心(相対速度→電圧→電流→トルク)を問う定番テーマです。本記事では、平成22年度 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
埋めるのは「回転磁界」「スリップリング」「電動機」「発電機」の4語。特に後半の「同期速度より速いか遅いか」で電動機/発電機が切り替わる関係が本問の主役です。
平成22年度 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成22年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成22年度 A問題3(要約)
固定子の励磁電流による同期速度の(ア)と回転子との速度の差によって回転子に電圧が発生し電流が流れる。巻線形誘導機では回転子巻線をブラシと(イ)で外部に引き出して二次抵抗値を調整する。1>s>0では回転方向にトルクが発生するので(ウ)となる。同期速度より高速では逆方向にトルクが発生し(エ)となる。
(1) 交番磁界・スリップリング・電動機・発電機 (2) 回転磁界・スリップリング・電動機・発電機 (3) 交番磁界・整流子・発電機・電動機 (4) 回転磁界・スリップリング・発電機・電動機 (5) 交番磁界・整流子・電動機・発電機
本問は令和6年度上期 A問題3(誘導機37)でそのまま再出題されました。文面までほぼ同一——過去問の「型」の価値を示す代表例です。
出題のポイント:誘導機の因果の連鎖を読む
問題文の1行目「速度の差(相対速度)によって回転子に電圧が発生し、その電圧によって回転子に電流が流れる」——これは誘導機の動作原理そのものです。この連鎖を頭に置いて読めば、空欄は自然に埋まります。
| 段階 | 何が起きるか | 根拠 |
| ① 回転磁界ができる | 三相電流が同期速度で回る磁界を作る | (ア)=回転磁界 |
| ② 相対速度が生じる | 回転子は磁界より遅いので、差の分だけ磁界を切る | ns−n=sns |
| ③ 電圧が誘導される | 磁界を切る速さに比例した起電力 | ファラデーの法則 |
| ④ 電流が流れる | 回転子回路が閉じているので電流になる | かご形なら端絡環で短絡 |
| ⑤ トルクが生じる | 磁束と電流でフレミング左手の法則の力 | (ウ)(エ)の判定へ |
本問は令和6年度上期 A問題3(誘導機37)でそのまま再出題されました。文面までほぼ同一——過去問の「型」の価値を示す代表例です。

空欄を確定する
(ア):「同期速度の◯◯」と言えるのは回転磁界だけ
同期速度とは、磁界が回る速さ Ns=120f/p のことです。交番磁界は回らないので、同期速度という言葉が付きません。(ア)=回転磁界——これで(1)(3)(5)が消えます。
(イ):巻線形の二次回路を外部へ
ブラシと組んで回転する巻線を外部につなぐ部品はスリップリング。(イ)=スリップリング。整流子は直流機で電流の向きを切り替える部品で、役割がまったく違います。
(ウ)(エ):トルクの向きで決まる
1>s>0:回転方向にトルク=回転を助けている=電動機。同期速度より高速:逆方向にトルク=回転を妨げている=外から回されている=発電機。(ウ)=電動機、(エ)=発電機。



滑りの符号で3つの顔が決まる
| 滑り s | 回転子の速度 | トルクの向き | エネルギーの流れ | 運転モード |
| s < 0 | 同期速度より速い | 回転と逆向き | 機械 → 電気 | 発電機 |
| s = 0 | 同期速度ちょうど | なし | なし | 理想無負荷 |
| 1 > s > 0 | 同期速度より遅い | 回転と同じ向き | 電気 → 機械 | 電動機 |
| s > 1 | 磁界と逆向きに回っている | 回転と逆向き | 電気も機械も熱へ | 制動(逆相制動) |
本問が扱っているのは上2つ(電動機と発電機)だけですが、s>1 の制動運転まで含めて3つセットで覚えるのが定番です。
s>1 は「磁界と逆向きに回っている」状態——運転中に電源の2線を入れ替えると、磁界だけが逆転して回転子は慣性でそのまま回り続けるので、この状態になります。強い制動トルクが得られる代わりに、電気側からも機械側からもエネルギーが流れ込んで全部が熱になります。
なぜ滑りがゼロになれないのか
誘導機は原理的に同期速度で回れません。その理由は、上に書いた因果の連鎖の入口にあります。
磁界と回転子が同じ速さ。
磁界を切らなければ何も起きない。
トルクがゼロなら、摩擦や風損で必ず減速します。減速すれば相対速度が生まれてトルクが復活する——この釣り合いの位置が定格滑りです。滑りは欠陥ではなく、誘導機が動くための必要条件だと理解してください。
「非同期機(asynchronous machine)」という別名は、まさにこの性質を指しています。同期機が必ず同期速度で回るのと、正反対の性格です。
★同一問題:令和6年度上期 A問題3として再出題されている
この問題は令和6年度上期 A問題3として、文面までほぼ同一で再出題されています。ところが正解の番号が違います。
| 平成22年度 A問題3(本問) | 令和6年度上期 A問題3 | |
| (ア)(イ) | 回転磁界・スリップリング | 回転磁界・スリップリング(同じ) |
| (ウ)(エ) | 電動機・発電機 | 電動機・発電機(同じ) |
| 正解の番号 | (2) | (3) |
答えの中身は完全に同じなのに、選択肢の並びが変わって正解が (2) から (3) へ移動しています。14年ぶりの再出題で、番号だけがずらされた——「答えは(2)」と覚えていた人が引っかかる典型的な形です。
頻出の基本問題ほど、選択肢の並べ替えだけで再登場します。覚えるべきは「回転磁界・スリップリング・電動機・発電機」という4語の並びであって、番号ではありません。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)で3肢が消える——「同期速度の交番磁界」は日本語として成立しない。
② 残り2肢は(ウ)(エ)の順序だけ。「回転方向にトルク=電動機」で決まる。
③ 3モードをセットで:s<0 発電機/1>s>0 電動機/s>1 制動。
④ 正解の番号は年度で違う(本問(2)、令和6年度上期(3))。中身で覚える。
トルクはどこで、どうやって生まれているのか
問題文は「トルクが発生する」と書くだけですが、その現場を思い浮かべておくと、(ウ)(エ)の判定が体感的に分かります。
| 段階 | 何が起きているか | 使う法則 |
| ① 回転磁界が導体を切る | 回転子導体から見ると、磁界が横切っていく | ファラデーの法則 |
| ② 導体に起電力 | e=Blv(v=相対速度) | フレミング右手の法則 |
| ③ 導体に電流 | かご形なら端絡環で閉じているので流れる | オームの法則 |
| ④ 導体に力 | F=BIl | フレミング左手の法則 |
右手の法則で電流が決まり、左手の法則で力が決まる——この2段構えが誘導機の要です。そして生じる力の向きは、必ず「磁界が動いていく向き」になります。
直感的には「磁界に引きずられる」と考えて構いません。磁石を導体板の上で動かすと、導体板が磁石を追いかける——アラゴの円板として知られる現象で、誘導機はこれを円筒形にしたものです。
ここから(エ)も理解できます。回転子が磁界を追い越したら、相対速度の向きが逆になります。起電力の向きが逆になり、電流も逆になり、力も逆向き——追い越そうとする回転子を、磁界が引き戻そうとするのです。
その引き戻す力に逆らって回し続けるには、外から仕事を入れなければなりません。入れた仕事は電気になって電源へ流れ出ていく——これが発電機運転の実体です。「回転と逆向きのトルク」という問題文の記述は、この引き戻しの力を指しています。
💡 覚え方
「遅れて回れば電動機、追い越したら発電機」。相対速度 → 起電力 → 電流 → トルクの連鎖があるので、s=0 では何も起きず、同期速度には到達できない(非同期機)。同期速度という語が付くのは回転磁界だけ——交番磁界は回らない。
⚠️ よくある間違い
(ウ)(エ)を逆にして(4)を選ぶのが最頻の誤りです。問題文の「回転方向にトルクが発生する」をそのまま読めば、回転を助けている=電動機です。もう一つは「同期速度の交番磁界」という表現に違和感を持てずに(1)を選ぶこと——交番磁界は回転しないので同期速度を持ちません。

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