電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「誘導起電力と滑り」は誘導機を「回転する変圧器」として理解できているかを試す王道テーマです。本記事では、平成28年度 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
流れは「三相→回転磁界」「レンツの法則→打ち消す」「固定子=一次・回転子=二次」「回転中の起電力は s 倍」。最後の(オ)が 1/s や 1−s と紛らわしいのが本問の仕掛けです。
平成28年度 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成28年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成28年度 A問題3(要約)
固定子巻線に電流が流れると(ア)が生じ、回転子巻線に起電力が誘導されトルクが生じる。回転子電流の起磁力を(イ)ように固定子巻線に電流が流れる。回転子停止時は原理的に変圧器と同じで、固定子巻線は変圧器の(ウ)巻線、回転子巻線は(エ)巻線に相当する。回転子が n で回転しているとき、(エ)誘導起電力の大きさは停止時の(オ)倍となる。
(1) 交番磁界・打ち消す・二次・一次・1−s (2) 回転磁界・打ち消す・一次・二次・1/s (3) 回転磁界・増加させる・一次・二次・s (4) 交番磁界・増加させる・二次・一次・1/s (5) 回転磁界・打ち消す・一次・二次・s
本問は令和5年度上期 A問題3(誘導機41)でほぼそのまま再出題されました。「回れば s 倍」を固めれば確実な得点源です。
出題のポイント:誘導機は「二次側が回る変圧器」
この問題文は誘導機の動作原理を1段ずつ言葉にした文章です。変圧器の知識をそのまま持ち込めば、(ア)から(エ)までは考えずに埋まります。誘導機ならではの話は(オ)だけです。
| 問題文の段階 | 変圧器で言うと | 空欄 |
| 固定子巻線に電流 ⇒ 磁界 | 一次巻線に電流 ⇒ 主磁束 | (ア)回転磁界 |
| 回転子電流の起磁力を打ち消すように一次電流 | 二次電流が増えれば一次電流も増える | (イ)打ち消す |
| 固定子=電源側/回転子=誘導される側 | 一次巻線/二次巻線 | (ウ)一次・(エ)二次 |
| 回転すると二次起電力が変わる | 対応するものがない | (オ)s 倍 |
本問は令和5年度上期 A問題3(誘導機41)でほぼそのまま再出題されました。「回れば s 倍」を固めれば確実な得点源です。

(イ):なぜ「打ち消す」なのか
ここは丸暗記せず、理由で押さえてください。回転子に電流が流れると、その電流も磁束を作ります。もしその磁束が主磁束を強める向きだったら——強まった磁束がさらに大きな二次電流を生み、それがまた磁束を強め……と際限なく発散します。
実際には逆で、二次電流の起磁力は主磁束を打ち消す向きに生じます(レンツの法則)。すると主磁束が減りかけるので、一次側の起電力が下がり、電源から流れ込む電流が増えて元の磁束を保ちます。
「増加させる」を選ぶとエネルギー保存則が崩れます。何もしなくても磁束が勝手に増え続ける機械になってしまうからです。(イ)=打ち消す。
(オ):起電力が s 倍になっても、電流は s 倍にならない
回転子から見た相対速度は sns——停止時の s 倍ですから、誘導起電力も二次周波数も s 倍です。(オ)=s。
ここで面白いことが起きます。起電力が s 倍に小さくなるのだから、二次電流も s 倍に小さくなりそうなものですが、そうはなりません。
| 滑りの領域 | 分母の様子 | 二次電流 | トルク |
| s が小さい(定格付近) | sx2 ≪ r2 なので分母 ≒ r2 | I2 ≒ sE2/r2(s に比例) | s にほぼ比例(比例域) |
| s が大きい(始動付近) | sx2 ≫ r2 なので分母 ≒ sx2 | I2 ≒ E2/x2(一定に頭打ち) | 逆に減っていく |
始動時に電流が定格の5〜7倍も流れるのに、トルクは定格の1〜2倍しか出ない——この一見おかしな現象の理由がここにあります。電流はリアクタンスで頭打ちになるうえ、力率が非常に悪くなってトルクに寄与しないのです。
トルク−滑り曲線が山型になるのも、この2つの領域のつなぎ目があるからです。s が小さいうちは s に比例して増え、大きくなると減りに転じる——その境目が最大トルクの滑り sm=r2/x2 です。


極端値チェックで(オ)を確定する
| 候補 | s=1(停止) | s=0(同期速度) | 判定 |
| s 倍 | E2(停止時と一致) | 0(磁界を切らない) | 両端とも正しい ✓ |
| 1/s 倍 | E2 | 無限大 | ✗ 破綻する |
| (1−s) 倍 | 0 | E2 | ✗ 停止時が最大のはず |
10秒で終わる検算です。係数を選ばせる問題を見たら、まず s=0 と s=1 を代入する——これを癖にしておけば、(オ)型の罠にはもう掛かりません。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)=回転磁界で(1)(4)が消える。三相なら必ず回転磁界。
② (イ)=打ち消す——増加させるとエネルギー保存則が崩れる。ここで(3)も消える。
③ 残る(2)(5)は(オ)だけの違い。極端値チェックで s 倍に確定。
④ 実物は s 倍、等価回路の抵抗表現が 1/s 倍——混同しない。
s=1 の誘導機が「変圧器そのもの」であることの使い道
問題文の「回転子停止時は原理的に変圧器と同じ」は、単なる例え話ではありません。実際に誘導機の定数を測るとき、この性質をそのまま使います。
| 試験 | どうやるか | 何をゼロにしているか | 何が求まるか |
| 拘束試験(短絡試験) | 回転子を固定して低い電圧を加える | s=1 に固定して機械出力をゼロに | 二次抵抗・漏れリアクタンス |
| 無負荷試験(開放試験) | 負荷をつけずに定格電圧で回す | s≒0 にして二次電流をほぼゼロに | 励磁回路の定数・鉄損・機械損 |
この2つは変圧器の短絡試験・無負荷試験とまったく同じ構図です。「邪魔な項をゼロにする条件を人工的に作って、残ったものを測る」——直流機の固定試験・開放試験も同じ発想で、電気機器の測定に共通する考え方です。
拘束試験で回転子を固定するのは、s=1 にすれば機械出力が消えて、残るのが銅損だけになるからです。(オ)で確認したとおり s=1 なら二次起電力は停止時のまま——つまり「回らない誘導機=二次側を短絡した変圧器」として測定できます。
低い電圧で行うのは、定格電圧を加えると始動電流(定格の5〜7倍)が流れて焼けてしまうからです。定格電流が流れる程度まで電圧を下げて測り、比例計算で定格値に換算します——これも変圧器の短絡試験と同じ手順です。
★同一問題:令和5年度上期にそのまま再出題されている
この問題は令和5年度上期 A問題3としてほぼそのまま再出題されています。問題文の展開も、5つの空欄の答えも同じです。
| 平成28年度 A問題3(本問) | 令和5年度上期 A問題3 | |
| (ア)(イ) | 回転磁界・打ち消す | 回転磁界・打ち消す(同じ) |
| (ウ)(エ) | 一次・二次 | 一次・二次(同じ) |
| (オ) | s 倍 | s 倍(同じ) |
| 正解の番号 | (5) | (5) |
7年ぶりの再出題で、選択肢の並びも正解番号も変わりませんでした。ただしこれは幸運な一致であって、同じ問題で番号が動いた例は直流機に複数あります。番号ではなく「回れば s 倍」という中身で覚えてください。
7年空けても同じ文面で出るということは、この論点が誘導機の入口として重視されているということです。回転磁界 → レンツの法則 → 一次と二次 → s 倍という文章の流れごと覚えてしまうのが、いちばん確実な対策になります。
💡 覚え方
「回れば s 倍、止まれば変圧器」。起電力・周波数・リアクタンスの3つが同時に s 倍になる。ただし二次電流は s に比例しない——分母の sx2 のせいで、始動付近では E2/x2 に頭打ち。これがトルク曲線が山型になる理由で、境目が sm=r2/x2。
⚠️ よくある間違い
(オ)に 1/s を入れるのが最頻です。等価回路の r2/s が印象に残っているためですが、1/s だと同期速度で起電力が無限大になります。もう一つは(ウ)(エ)を逆にすること——電源につながる固定子が一次です。

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