今回は平成30年度 電力科目 A問題9、架空送電線の多導体方式に関する空欄補充問題です。コロナ対策としての多導体(架空送電11・19)に加え、表皮効果・インダクタンス・送電容量への効果まで踏み込む総まとめ問題です。
多導体の効能は3つセットで覚えます:①電線表面の電位の傾き(電界)が小さくなる→コロナ開始電圧が高くなる→コロナ損・雑音を抑制。②同じ合計断面積の単導体より表皮効果が小さい(電流が有効に流れる)。③インダクタンスが減少→送電容量が増加し系統安定度が向上。
(イ)(ウ) 電位の傾きとコロナ開始電圧
2つの言葉は、裏返しの関係にあります。
| ★電位の傾き(電界強度) | ★コロナ開始電圧 | |
| ★意味 | ★同じ電圧で電線表面にかかる電界 | ★コロナが始まる電圧 |
| ★多導体にすると | ★★小さくなる | ★★高くなる |
| ★意味するところ | ★電界が弱まる | ★より高い電圧まで耐える |
電界が弱まれば、より高い電圧までコロナが起きません——だから開始電圧が「高く」なるのです。
「電位の傾きが大きくなる」なら、コロナが起きやすくなります——逆の効果になってしまいます。
2つは必ずセットで動きます——片方が決まればもう片方も決まるのです。
平成30年度 電力科目 A問題9:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成30年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題9
電験3種 電力科目 【架空送電】 平成30年度 A問題9
次の文章は、架空送電線の多導体方式に関する記述である。
送電線において、1相に複数の電線を(ア)を用いて適度な間隔に配置したものを多導体と呼び、主に超高圧以上の送電線に用いられる。多導体を用いることで、電線表面の電位の傾きが(イ)なるので、コロナ開始電圧が(ウ)なり、送電線のコロナ損失、雑音障害を抑制することができる。
多導体は合計断面積が等しい単導体と比較すると、表皮効果が(エ)。また、送電線の(オ)が減少するため、送電容量が増加し系統安定度の向上につながる。
上記の記述中の空白箇所(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)及び(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) スペーサ 大きく 低く 大きい インダクタンス (2) スペーサ 小さく 高く 小さい 静電容量 (3) シールドリング 大きく 高く 大きい インダクタンス (4) スペーサ 小さく 高く 小さい インダクタンス (5) シールドリング 小さく 低く 大きい 静電容量

(エ) 表皮効果が小さくなる
交流では、電流が電線の表面に偏って流れます。
| 単導体(太い1本) | ★多導体(細い複数本) | |
| ★1本あたりの断面 | ★大きい | ★小さい |
| ★中心まで電流が届くか | ★届きにくい | ★★届きやすい |
| ★表皮効果 | ★大きい | ★★小さい |
| ★実効的な抵抗 | ★増える | ★★増えにくい |
合計断面積が同じでも、細く分けたほうが表皮効果は小さい——1本あたりが細いからです。
太い電線では、中心付近に電流がほとんど流れません——断面を活かしきれないのです。
だから多導体のほうが実効抵抗が小さくなります——損失の面でも有利になります。
(オ) インダクタンスが減る
等価半径 r が大きくなれば、対数の中身が小さくなります——だからインダクタンスが減るのです。
| 量 | 多導体にすると | 結果 |
| ★等価半径 | ★大きくなる | ★— |
| ★インダクタンス | ★★減る | ★★送電容量が増える |
| ★静電容量 | ★増える | ★充電電流も増える |
インダクタンスが減ればリアクタンスも減ります——だから送れる電力が増えるのです。
同じ相差角でより多く送れる——それが「系統安定度の向上」につながります。
静電容量は増えますが、こちらは減るのではありません——問題文が「減少する」と書いているのでインダクタンスです。
⚠️ よくある間違い
(ア)を「シールドリング」としてしまう——選択肢(3)(5)がそれです。シールドリングはがいし用の金具で、素導体の間隔を保つのはスペーサ。
(イ)を「大きく」としてしまう——選択肢(1)(3)。電界が弱まるので小さくです。
(ウ)を「低く」としてしまう——選択肢(1)(5)。より高い電圧まで耐えられるので高く。
(エ)を「大きい」としてしまう——選択肢(1)(3)(5)。細く分けるので表皮効果は小さい。
(オ)を「静電容量」としてしまう——選択肢(2)(5)。静電容量は増えます。
(ア)と(オ)の2欄で(4)に確定できます。
⏱️ 本番での進め方
①★電位の傾きが小さくなり、コロナ開始電圧が高くなる。
②★細く分けるので表皮効果は小さくなる。
③★等価半径が大きくなりインダクタンスが減る。
④★静電容量は増える。減るのはインダクタンス。
💡 覚え方
「太くなったように見えるから、Lが減りCが増える」——等価半径がすべての起点です。Lが減れば送電容量が増える——コロナ対策が安定度の向上にもつながります。
コロナ対策としての多導体は令和元年度 A問題10(架空送電:コロナ損)にあります。
多導体の長所と短所
利点が多い方式ですが、代償もあります。
| 項目 | 多導体では | 評価 |
| ★コロナ | ★起きにくい | ★★長所 |
| ★インダクタンス | ★減る | ★★長所(送電容量増) |
| ★表皮効果 | ★小さい | ★★長所(実効抵抗減) |
| ★静電容量 | ★増える | ★短所(充電電流増) |
| ★風圧荷重 | ★増える | ★★短所(鉄塔が大型化) |
| ★着氷雪荷重 | ★増える | ★短所 |
電気的には利点ばかりですが、機械的には不利になります——本数が増えるからです。
風を受ける面積が増え、雪も多く付きます——鉄塔を丈夫に作る必要があるのです。
スペーサやその取付金具も増えます——保守の手間も増えることになります。
それでも超高圧では使わざるを得ません——コロナと送電容量の要求が優先するからです。
要点をもう一度
5つの空欄が、多導体の効果を並べています。
| 空欄 | 答え | 理由 |
| (ア) | ★スペーサ | ★素導体の間隔を保つ |
| (イ) | ★小さく | ★等価半径が大きくなる |
| (ウ) | ★高く | ★電界が弱いので高電圧まで耐える |
| (エ) | ★小さい | ★1本あたりが細い |
| (オ) | ★インダクタンス | ★等価半径が大きいと減る |
すべて「等価半径が大きくなる」から導けます——1つの原因から4つの結果です。
(エ)だけは「1本あたりが細い」ことから来ます——別の理由なので注意しましょう。
2つの半径を区別する
| ★素導体の半径 | ★等価半径 | |
| ★多導体にすると | ★★小さくなる | ★★大きくなる |
| ★影響する量 | ★表皮効果 | ★電界・インダクタンス |
同じ「半径」でも、2つの意味があります——混同すると答えがねじれるのです。
表皮効果は1本ごとの太さで決まります——電界とインダクタンスは配置全体で決まるのです。
送電容量と安定度
(オ)のインダクタンス減少が、何をもたらすか見ましょう。
| 単導体 | ★多導体 | |
| ★リアクタンス X | ★大きい | ★★小さい |
| ★同じδで送れる電力 | ★少ない | ★★多い |
| ★同じ電力を送るδ | ★大きい | ★★小さい |
相差角が小さいほど、系統は安定します——90度に近づくと脱調の恐れがあるからです。
Xが小さければ、同じ電力を小さいδで送れます——余裕が生まれるのです。
だから「送電容量が増加し系統安定度の向上につながる」——問題文の通りになります。
コロナ対策として始まった多導体が、送電容量にも効く——超高圧で標準になった理由です。
多導体の素導体配置
(ア)のスペーサが決める配置を見ましょう。
| 導体数 | 配置 | 素導体間隔 |
| ★2導体 | ★水平または垂直に2本 | ★40〜50 cm |
| ★4導体 | ★正方形の頂点 | ★40〜50 cm |
| ★6導体 | ★正六角形の頂点 | ★40 cm 前後 |
間隔は40〜50 cm が標準——広げるほど等価半径は大きくなります。
けれども広げすぎると、風圧荷重や短絡時の力が増えます——だから限度があるのです。
正多角形に配置するのは、電界を均一にするため——偏ると一部に集中してしまいます。
スペーサはこの配置を保つ部品——数十メートルごとに取り付けます。
まとめ
| (ア) | スペーサ(素導体の間隔保持) |
| (イ)(ウ) | 電位の傾き小さく→コロナ開始電圧高く |
| (エ) | 表皮効果が小さい |
| (オ) | インダクタンス減少→送電容量増加 |
| 注意 | 静電容量は増加(Lと逆方向) |
| 答え | (4) |
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