電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目では、変圧器の構造に関する論説問題も出題されます。本記事では、令和2年度 A問題8で問われた「鉄心・巻線・冷却方式・変圧器油・呼吸作用」に関する記述から誤っているものを選ぶ問題を、構造図を交えて丁寧に解説します。
この問題のカギは、鉄心(けい素鋼板)における「けい素」と「絶縁被膜」の役割を正しく押さえること。けい素はヒステリシス損を、薄板の積層+表面の絶縁被膜は渦電流損を低減します。この対応を逆にした選択肢が誤りになります。
令和2年度 機械科目 A問題8:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和2年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題8
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和2年度 A問題8
変圧器の構造に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 変圧器の巻線には軟銅線が用いられる。巻線の方法としては、鉄心に絶縁を施し、その上に巻線を直接巻きつける方法、円筒巻線や板状巻線としてこれを鉄心にはめ込む方法などがある。
(2) 変圧器の鉄心には、飽和磁束密度と比透磁率が大きい電磁鋼板が用いられる。この鋼板は、渦電流損を低減するためケイ素が数%含有され、さらにヒステリシス損を低減して表面が絶縁皮膜で覆われている。
(3) 変圧器の冷却方式には用いる冷媒によって、絶縁油を使用する油入式と空気を使用する乾式、さらにガス冷却式などがある。
(4) 変圧器油には、冷却によって本体の温度上昇を防ぐために用いられる。また、化学的に安定で、引火点が高く、流動性に富み比熱が大きくて冷却効果が大きいような性質を備えることが必要となる。
(5) 大型の油入変圧器では、負荷変動に伴い油の温度が変動し、油が膨張・収縮を繰り返すため、外気が変圧器内部に出入りを繰り返す。これを油の呼吸作用といい、油の劣化の原因となる。この劣化を防止するため、本体の外にコンサベータやブリーザを設ける。
出題のポイント:けい素と絶縁被膜、役割が入れ替わっている
(2)の記述は、鉄損を減らす2つの工夫の役割を逆にしています。正しくは、けい素がヒステリシス損を、薄板の積層と絶縁被膜が渦電流損を減らします。
| 鉄損の内訳 | 発生する仕組み | 減らす工夫 | なぜ効くのか |
| ヒステリシス損 | 磁化の向きを反転させるたびに失われるエネルギー | けい素を数%加える | ヒステリシスループの面積が小さくなる |
| 渦電流損 | 変化する磁束が鉄心内に誘導する電流によるジュール熱 | 薄い鋼板を絶縁被膜で覆って積層する | 電流の通り道を細かく断ち切る |
けい素を加えると、鉄の結晶が磁化しやすくなり、ヒステリシスループが細くなります。ループが囲む面積が1周ごとの損失ですから、細くなればヒステリシス損が減る——これが けい素の役目です。
けい素には副次的な効果もあります。鉄の電気抵抗率を高めるので、渦電流も流れにくくなるのです。ただし主目的はヒステリシス損の低減——渦電流損の主対策はあくまで積層と絶縁被膜です。
絶縁被膜が渦電流に効く理由は単純で、渦電流は磁束を取り囲むように流れるループだからです。鉄心を薄板に分けて互いを絶縁すれば、大きなループが作れなくなります——板が薄いほど効果が大きく、渦電流損は板厚の2乗に比例して減ります。

正しい4つの記述を確認する
(1) 巻線は軟銅線、巻き方は複数ある
導電率が高く加工しやすい軟銅線が使われます。鉄心に直接巻きつける方法と、あらかじめ円筒状・板状に巻いたものをはめ込む方法——大形機では後者が一般的です。
(3) 冷却方式は冷媒で分類する
絶縁油を使う油入式、空気を使う乾式、SF6 ガスなどを使うガス冷却式があります。油入式は冷却能力と絶縁性能に優れる反面、火災のおそれがあるので屋内には置きにくい——建物内には乾式やガス冷却式が使われます。
(4) 変圧器油に求められる性質
冷却と絶縁の2役をこなすのが変圧器油です。化学的に安定(劣化しにくい)、引火点が高い(燃えにくい)、流動性に富む(対流で熱を運ぶ)、比熱が大きい(熱を蓄えられる)——いずれも「よく冷やし、安全である」ための条件です。
逆に「粘度が低い」「凝固点が低い」といった性質も求められます。寒冷地で油が固まってしまえば対流が起きず、冷却できなくなるからです。
(5) 呼吸作用とコンサベータ・ブリーザ
負荷が変われば油の温度が変わり、油が膨張・収縮します。そのぶん外気が出入りするのが呼吸作用——入ってくる空気の水分と酸素が、油を劣化させます。
コンサベータは本体の上に置く小さなタンクで、油面をそこに移すことで、本体の油が空気に触れないようにします。ブリーザ(吸湿呼吸器)はシリカゲルなどで空気中の水分を取り除く装置——2つを組み合わせて劣化を防ぎます。

鉄損を減らす材料の進化
(2)で問われたけい素鋼板は、100年以上使われてきた変圧器の標準材料です。しかし省エネ要求の高まりとともに、材料そのものも進化してきました。
| 材料 | 特徴 | 鉄損の目安 | 使われ方 |
| 無方向性けい素鋼板 | どの向きにも同じ性質。回転機向き | 基準 | 電動機・発電機の鉄心 |
| 方向性けい素鋼板 | 結晶の向きをそろえ、特定方向の磁化を容易にした | 無方向性の半分程度 | 変圧器の鉄心(磁束の向きが決まっている) |
| アモルファス合金 | 結晶構造を持たない。板厚も薄い(0.025 mm 程度) | 方向性けい素鋼板の1/3程度 | 配電用変圧器(トップランナー基準対応) |
変圧器の鉄心は磁束の向きが一定ですから、その方向だけ磁化しやすくすればよい——これが方向性けい素鋼板の発想です。回転機では磁束の向きが回るので、この手は使えません。
アモルファス合金は、溶けた金属を急冷して結晶にさせないまま固めた材料です。結晶の境界がないので磁化の向きを変えやすく、ヒステリシス損が小さい——さらに板厚が桁違いに薄いので渦電流損も小さくなります。
ただしアモルファスは硬くてもろく、加工が難しいという欠点があります。価格も高く、鉄心が大きくなりがち——それでも24時間つなぎっぱなしの配電用変圧器では、鉄損の削減効果が投資を上回ります。
冷却方式の記号も押さえておく
(3)の冷却方式は、記号で表されることがあります。電験でも出題されることがあるので、意味を知っておくと安心です。
| 記号 | 読み方 | 内容 |
| ONAN | Oil Natural Air Natural | 油自冷式。油も空気も自然対流だけ |
| ONAF | Oil Natural Air Forced | 油自冷風冷式。放熱器にファンを当てる |
| OFAF | Oil Forced Air Forced | 送油風冷式。ポンプで油を循環させる |
| OFWF | Oil Forced Water Forced | 送油水冷式。水で冷やす。最も冷却能力が高い |
最初の2文字が油の冷やし方、後の2文字が外側の冷やし方——N が自然(Natural)、F が強制(Forced)です。容量が大きくなるほど強制冷却が必要になり、ONAN → ONAF → OFAF と進みます。
同じ変圧器でも、ファンを回すかどうかで許容容量が変わるため、「ONAN 20 MV・A/ONAF 25 MV・A」のように併記された銘板もあります。冷却は容量そのものを左右する要素だということです。
⏱️ 本番での進め方
①「けい素=ヒステリシス、積層と絶縁=渦電流」。この対応だけで解ける。
② 論説の誤り探しは「2つのものの役割を入れ替える」型が定番。
③ 他の4肢は変圧器の構造の基本知識。復習に使うとよい。
④ コンサベータは劣化防止であって保護継電器ではない、も頻出。
💡 覚え方
「ヒステリシスはケイ素で細く、渦電流は薄く切って絶縁」——ヒステリシスは材料の性質、渦電流は形状の問題と考えると、対策の方向がまったく違うことが腑に落ちます。


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