今回は平成21年度 電力科目 A問題9、直流送電と交流送電の比較の誤り選択問題です。直流シリーズ(cb5・cb14・cb19、架空送電3)の集大成として、絶縁距離の論点が「前半正しい・後半誤り」の形で仕掛けられています。
絶縁の理屈は架空送電3と同じ:交流の波高値は実効値の√2倍、直流は波高値=実効値。同じ公称電圧なら直流の方が最大電圧が低く、絶縁距離は小さくて済む——「交流より大きな絶縁距離が必要」は逆です。
平成21年度 電力科目 A問題9:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成21年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題9
電験3種 電力科目 【地中送電】 平成21年度 A問題9
電力系統における直流送電について交流送電と比較した次の記述のうち、誤っているのはどれか。
(1) 直流送電線の送・受電端でそれぞれ交流−直流電力変換装置が必要であるが、交流送電のような安定度問題がないため、長距離・大容量送電に有利な場合が多い。
(2) 直流部分では交流のような無効電力の問題はなく、また、誘電体損がないので電力損失が少ない。そのため、海底ケーブルなど長距離の電力ケーブルの使用に向いている。
(3) 系統の短絡容量を増加させないで交流系統間の連系が可能であり、また、異周波数系統間連系も可能である。
(4) 直流電流では電流零点がないため、大電流の遮断が難しい。また、絶縁については、公称電圧値が同じであれば、一般に交流電圧より大きな絶縁距離が必要となる場合が多い。
(5) 交流−直流電力変換装置から発生する高調波・高周波による障害への対策が必要である。また、漏れ電流による地中埋設物の電食対策も必要である。

誤りは(4):直流のほうが絶縁距離は小さくて済む
「交流電圧より大きな絶縁距離が必要」——後半が逆です。
| ★交流 | ★直流 | |
| ★実効値 | ★V | ★V |
| ★最大値(波高値) | ★★√2 V=1.41 V | ★★V(実効値と同じ) |
| ★必要な絶縁距離 | ★★大きい | ★★小さくて済む |
絶縁は、瞬間の最大値に耐えなければなりません——そこで破壊が起きるから。
交流は正弦波なので、最大値が実効値の√2倍——その分だけ余裕が要ります。
直流は常に一定なので、最大値=実効値——√2倍の余裕が不要です。
だから同じ公称電圧なら、直流のほうが絶縁が楽——これは直流送電の長所になります。
前半の「電流零点がないため大電流の遮断が難しい」は正しい——誤りは後半だけです。
直流送電の長所と短所
| 項目 | 直流送電では | 評価 |
| ★同期安定度 | ★★リアクタンスがないので制約がない | ★★長所 |
| ★非同期連系 | ★★異周波数の系統をつなげる | ★★長所 |
| ★短絡容量 | ★★連系しても増えない | ★★長所 |
| ★絶縁 | ★★同じ実効値なら交流より低くて済む | ★★長所 |
| ★ケーブル送電 | ★★充電電流も誘電体損もない | ★★長所 |
| ★遮断 | ★★電流零点がないので難しい | ★★短所 |
| ★電圧の変成 | ★★変圧器が使えない | ★★短所 |
| ★変換装置 | ★★両端に必要・高調波と無効電力が生じる | ★★短所 |
| ★電食 | ★★漏れ電流で地中埋設物が腐食する | ★★短所 |
(1)(2)(3)(5)は、この表のとおり——いずれも正しい記述です。
とりわけ(3)の「短絡容量を増加させない」は重要——交流でつなぐと短絡電流が増えるから。
直流でつなげば、事故電流は行き来しません——変換器が間に入っているのです。
だから遮断器を取り替えずに連系できます——大きな利点になります。
(2) ケーブル送電に向く理由
| 項目 | ★交流ケーブル | ★直流ケーブル |
| ★充電電流 | ★★長さに比例して増える | ★★ゼロ |
| ★誘電体損 | ★★ωCV²tanδ が生じる | ★★生じない |
| ★送れる距離 | ★★数十 km が限界 | ★★制限がほぼない |
直流では電圧が一定なので、電荷が動きません——だから充電電流がゼロです。
分極も繰り返されないので、誘電体損も生じません——絶縁体が発熱しないのです。
交流ケーブルでは、長くすると充電電流が送電電流を超えます——そこが限界になります。
だから長い海底ケーブルは直流しか選べません——北本連系や紀伊水道がその例です。
(5) 電食という地中線ならではの問題
| 段階 | 起きること |
| ① | ★直流の帰路電流の一部が大地を流れる |
| ★② | ★★近くの金属管などに入り込む |
| ★③ | ★★電流が出ていく箇所で金属が溶け出す |
| ★④ | ★水道管やガス管に穴があく(電食) |
電流が金属から大地へ出る場所で腐食が起きます——電気分解と同じ原理です。
交流なら向きが交互に変わるので、溶け出しが打ち消されます——だから直流特有の問題。
対策は帰路を専用の導体にすることや、排流器の設置——大地に流さない工夫です。
地中埋設物が多い都市部では、とりわけ重要になります。
⚠️ よくある間違い
(4)の前半「電流零点がないため遮断が難しい」を見て正しいと判断する——そこは正しいのです。誤りは絶縁距離の部分。
交流の波高値は実効値の√2倍——直流は実効値そのものです。
(1)の安定度を疑ってしまう——制約がないので長距離向き。
(2)の誘電体損を疑ってしまう——直流では生じません。
(3)の短絡容量を疑ってしまう——増やさずに連系できます。
1つの選択肢に2つの内容が並ぶときは、それぞれ確かめることです。
⏱️ 本番での進め方
①★交流の波高値は√2倍。直流は実効値と同じ。
②★だから直流のほうが絶縁距離は小さくて済む。
③★直流ケーブルは充電電流も誘電体損もゼロ。
④★直流特有の問題として電食がある。
💡 覚え方
「交流は√2倍、直流はそのまま」——だから直流のほうが絶縁が楽です。1つの選択肢に2つ書いてあれば、両方確かめる——片方だけ正しいことがあります。
★直流送電は3回出題されています——令和5年度下期 A問題11(地中送電:直流送電)、令和7年度下期 A問題11(架空送電:直流送電)、そして本問です。
(3) 短絡容量を増やさない連系
交流でつなぐと何が困るのか、順に見ましょう。
| 段階 | 交流で連系した場合 |
| ① | ★2つの系統が電気的につながる |
| ★② | ★★片方で短絡すると、もう片方からも電流が流れ込む |
| ★③ | ★★短絡電流が大きくなる |
| ★④ | ★★遮断器の遮断容量が足りなくなる |
系統が大きくなるほど、短絡電流も大きくなります——電源が増えるからです。
遮断器を取り替えるには、莫大な費用がかかります——だから連系をためらう理由になるのです。
直流でつなげば、事故電流は行き来しません——変換器が間で遮っているから。
だから既設の遮断器のまま連系できます——それが(3)の意味になります。
(1) 変換装置が両端に要る
直流送電には、必ず2つの変換所が要ります。
| 位置 | 装置 | 働き |
| ★送電端 | ★順変換器 | ★交流を直流にする |
| ★線路 | ★直流送電線・ケーブル | ★直流のまま送る |
| ★受電端 | ★逆変換器 | ★直流を交流に戻す |
両端の設備が高いので、短距離では割に合いません——線路が安くても変換所で相殺される。
距離が延びるほど、線路費用の差が効いてきます——どこかで逆転するのです。
その分かれ目が等価距離——架空線で500〜800 km、ケーブルで数十 km。
ケーブルのほうがずっと短いのは、充電電流の問題があるから——だから海底では早く直流が有利になります。
(5) 電食への対策
直流特有の問題に、どう備えるのでしょうか。
| 対策 | 内容 |
| ★双極方式にする | ★★往復2本の導体で送り、大地に流さない |
| ★帰路導体を設ける | ★★専用の導体で電流を返す |
| ★排流器の設置 | ★★埋設物に入った電流を安全に返す |
| ★電気防食 | ★外部から電流を流して腐食を止める |
大地帰路方式では、電流が土の中を流れます——それが埋設物に入り込むのです。
双極方式なら、正負2本の導体で送受します——大地にはほとんど流れません。
だから実際の直流送電は、ほとんど双極方式です——片方が故障しても半分は送れる利点もあります。
大地帰路は、非常時に限って使われます——電食を承知のうえでのことです。
まとめ
| 誤り | (4) 直流の絶縁距離は交流より小さくて済む |
| 波高値 | 交流=√2×実効値/直流=実効値のまま |
| 損失 | 無効電力・誘電体損・充電電流なし(2) |
| 連系 | 短絡容量増やさず異周波連系(3) |
| 対策 | 高調波・電食(5)・遮断困難(4前半) |
| 答え | (4) |
▼あわせて解きたい関連問題
・絶縁低減の論点(架空送電3):【電力】令和7年度下期 A問題11
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