地中送電14【電験3種 電力】自己消弧形素子は自励式!他励式と入れ替えた罠 直流送電 平成29年度 A問題6 完全解説

電験3種 電力科目 地中送電 平成29年度 A問題6 自己消弧形を使うのは自励式!他励式と入れ替え

今回は平成29年度 電力科目 A問題6直流送電系統の誤り選択問題です。定番の長所短所に加えて、自励式・他励式変換装置の違い、大地帰路電流の電食、がいしのアークホーン省略という一歩深い論点まで登場します。

変換装置の区別:他励式=サイリスタ(系統電圧に頼って転流)→高調波・無効電力が大きくフィルタ・調相設備が必要自励式=自己消弧形素子(IGBT等)で自力でオンオフ→フィルタ等を大幅に減らせる。本問はこの2つを入れ替えています。

目次

誤りは(2):自励式と他励式が入れ替わっている

「他励式では自己消弧形整流素子を用いる」——自己消弧形を使うのが自励式です

項目★他励式(サイリスタ)★自励式(IGBTなど)
★素子★★自己消弧できない★★自己消弧形
★転流★★交流側の電圧を借りる★★自分で切れる
★高調波★★大きい(フィルタが要る)★★小さい
★無効電力★★有効電力の6割ほど消費する★★制御できる(調相設備が不要)
★弱い交流系統★★つなげない★★つなげる

自己消弧形とは、ゲート信号で自分から切れる素子のこと——IGBTやGTOがそれです。

サイリスタは、いちど導通すると自分では切れません——電流がゼロになるのを待つのです。

だから交流側の電圧を借りて転流します——「他から励まされる」ので他励式

フィルタや調相設備が要るのは、その他励式のほう——問題文は逆に書いています

平成29年度 電力科目 A問題6:問題文と選択肢

まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

電験3種 電力科目 地中送電 平成29年度 A問題6 問題文
平成29年度 電力科目 A問題6 問題文

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成29年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題6

電験3種 電力科目 【地中送電】 平成29年度 A問題6

 電力系統で使用される直流送電系統の特徴に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。

(1) 直流送電系統は、交流送電系統のように送電線のリアクタンスなどによる発電機間の安定度の問題がないため、長距離・大容量送電に有利である。

(2) 一般に、自励式交直変換装置では、運転に伴い発生する高調波や無効電力の対策のために、フィルタや調相設備の設置が必要である。一方、他励式交直変換装置では、自己消弧形整流素子を用いるため、フィルタや調相設備の設置が不要である。

(3) 直流送電系統では、大地帰路電流による地中埋設物の電食や直流磁界に伴う地磁気測定への影響に注意を払う必要がある。

(4) 直流送電系統では、交流送電系統に比べ、事故電流を遮断器により遮断することが難しいため、事故電流の遮断に工夫が行われている。

(5) 一般に、直流送電系統の地絡事故時の電流は、交流送電系統に比べ小さいため、がいしの耐アーク性能が十分な場合、がいし装置からアークホーンを省くことができる。

答え誤っている記述は (2)です。

なぜ他励式は無効電力を消費するのか

段階起きること
★サイリスタは点弧の位相を遅らせて電圧を制御する
★②★★電流の位相が電圧より遅れる
★③★★遅れ無効電力を消費することになる
★④★調相設備で補う必要がある

点弧を遅らせるほど、出力電圧が下がります——それが制御のしかたです。

けれども同時に、力率も悪くなります——制御と無効電力が連動しているのです。

有効電力の6割ほどの無効電力を消費します——かなりの量になります。

自励式なら、電圧も無効電力も独立に制御できます——だから調相設備が要らないのです。

(5) アークホーンを省ける理由

★交流の地絡★直流の地絡
★事故電流★★系統から大きな電流が流れ込む★★変換器が制御して抑える
★アークのエネルギー★★大きい★★小さい
★アークホーン★★必要★★省ける場合がある

直流では、変換器が電流を制御しています——地絡してもすぐ絞れるのです。

交流のように系統全体から電流が流れ込みません——電源が変換器だけだから。

だからアークのエネルギーが小さく、がいしが傷みにくい——身代わりが要らないことになります。

直流ならではの設計上の利点——意外な形で現れます

⚠️ よくある間違い
(2)の前半「自励式では…フィルタや調相設備が必要」を見て正しいと判断する——そこも逆です自励式は高調波が少なく無効電力も制御できます
自己消弧形を使うのが自励式——名前と素子が結びついています
(1)の安定度を疑ってしまう——制約がないので長距離向き
(3)の電食を疑ってしまう——大地帰路電流による直流特有の問題
(4)の遮断を疑ってしまう——零点がないので難しいです。
2つの用語を入れ替える型——語の意味から考えると見抜けます

⏱️ 本番での進め方
①★自己消弧形素子を使うのが自励式。
②★他励式は交流側の電圧を借りて転流する。
③★フィルタと調相設備が要るのは他励式。
④★直流の地絡は電流が小さくアークホーンを省ける場合がある。

💡 覚え方
「自分で切れるから自励式」——名前が素子の性質を表しています他から励まされるのが他励式——だから交流側の電圧が要るのです。

直流送電は繰り返し出題されています——平成21年度 A問題9地中送電:直流送電)、令和5年度下期 A問題11地中送電:直流送電)にもあります。

(3) 地磁気測定への影響

直流ならではの、意外な影響です

★交流送電★直流送電
★作る磁界★★向きが絶えず変わる★★一定方向
★地磁気観測★平均するとほぼ影響しない★★偏りが生じる

地磁気は、方位や地下探査の基準になります——わずかな狂いも困るのです。

直流電流は一定方向の磁界を作ります——それが地磁気に重なることになります。

だから地磁気観測所の近くには建設できません——実際に立地の制約になっています

双極方式なら往復の磁界が打ち消し合います——だから影響を減らせるのです。

(4) 事故電流の遮断に工夫が要る

直流遮断がなぜ難しいのか、あらためて見ます

★交流★直流
★電流の零点★★1周期に2回ある★★ない
★アーク★★零点で自然に消える★★消える機会がない
★工夫★不要★★人工的に零点を作る

振動電流を重ねて、無理やり零点を作ります——コンデンサとリアクトルの共振を使う方法です。

あるいは変換器の制御で電流を絞ります——これが実際には主流でした。

だから2端子(点対点)の送電が中心だったのです——両端で制御できるから。

近年、実用的な直流遮断器が開発されつつあります——多端子の直流網が現実味を帯びてきました

(1) 安定度の制約がない意味

交流で長距離送電が難しい理由から見ます

交流の送電電力
\( P=\dfrac{V_sV_r}{X}\sin\delta \)

リアクタンス X と相差角 δ に縛られる

距離リアクタンス X相差角 δ安定度
★短い★小さい★小さくて済む★余裕がある
★長い★★大きい★★大きくなる★★脱調しやすい

線路が長いほど X が大きく、同じ電力でも δ が開きます——90度を超えれば脱調です。

直流にはリアクタンスがありません——周波数がゼロなので ωL=0だから。

だから相差角という概念そのものがありません——いくら長くても脱調しないのです。

電線が熱で耐えられる限界まで送れます——それが長距離・大容量に有利な理由です。

電食への備え

(3)で挙げられている問題に、どう対処するのでしょうか

対策内容
★★双極方式にする★★正負2本の導体で送受し、大地に流さない
★帰路導体を設ける★★専用の導体で電流を返す
★排流器の設置★埋設物に入った電流を安全に返す
★電気防食★外部から電流を流して腐食を止める

大地帰路方式では、電流が土の中を流れます——それが埋設物に入り込むのです。

電流が金属から大地へ出る箇所で、金属が溶け出します——電気分解と同じ原理

双極方式なら、大地にはほとんど流れません——だから実際の直流送電はほとんど双極方式です。

片方が故障しても半分は送れるという利点もあります——信頼度の面でも有利になります。

直流送電が実際に使われている場所

どんなときに直流を選ぶのか、実例で見ましょう

用途直流を選ぶ理由日本の例
★周波数変換★★50 Hz と60 Hz をつなぐ★佐久間・新信濃・東清水
★海底ケーブル★★充電電流がないので長距離が可能★北本連系・紀伊水道
★系統分離★★短絡容量を増やさずに連系できる★各地の連系設備

日本は東が50 Hz、西が60 Hz に分かれています——交流のままではつなげません

だから周波数変換所で、いったん直流にします——それが非同期連系の実例です。

海底では、交流の充電電流が壁になります——だから直流しか選べないのです。

用途がはっきりしている技術——交流に取って代わるものではありません

まとめ

誤り(2) 自励式と他励式の説明が入れ替わっている
他励式サイリスタ・高調波/無効電力大→フィルタ・調相設備
自励式自己消弧形素子(IGBT等)→フィルタ等軽減
直流の注意電食・地磁気(3)・遮断困難(4)
アークホーン直流は地絡電流小→省略可(5)
答え(2)

▼あわせて解きたい関連問題
・直流送電の基本(地中送電5):【電力】令和5年度下期 A問題11
・直流送電の総合問題(架空送電3):【電力】令和7年度下期 A問題11

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次