今回は令和5年度下期 電力科目 A問題11、直流送電の誤り選択問題です。令和7年度下期A問題11(架空送電3)と同じテーマで、長所(非同期連系・安定度)と短所(変換所・遮断・変圧)の整理がそのまま使えます。
交流の遮断器は電流が自然にゼロを通過する瞬間を利用してアークを消します。直流には零点がないため、高電圧大電流の遮断は交流より困難——「容易」は正反対。変電27(真空遮断器)や架空送電3でも繰り返し出る鉄板論点です。
出題のポイント:直流遮断と自然電流零点

交流電流は半周期ごとに自然電流零点を通るため、遮断時のアークを消弧しやすくなります。直流には自然電流零点がないため、高電圧大電流の遮断には専用技術が必要で、交流より容易ではありません。
令和5年度下期 電力科目 A問題11:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題11
電験3種 電力科目 【地中送電】 令和5年度下期 A問題11
直流送電に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 系統連系のための直流送電では、交直変換所の設置が必要となる。
(2) 交流送電のような同期安定度の問題がないので、長距離送電に適している。
(3) 直流の高電圧大電流の遮断は、交流の場合より容易である。
(4) 直流は、変圧器で簡単に昇圧や降圧ができない。
(5) 交直変換器からは高調波が発生するので、フィルタ設置等の対策が必要である。
直流遮断が難しい理由は自然電流零点がないこと

「交流の場合より容易である」——逆です。
| ★交流 | ★直流 | |
| ★電流の波形 | ★★1周期に2回ゼロになる | ★★ゼロにならない |
| ★アークの消え方 | ★★零点で自然に消える | ★★消える機会がない |
| ★遮断 | ★★容易 | ★★難しい |
遮断器は、接点を開いたあとアークが消えて初めて切れます——開くだけでは切れないのです。
交流では、1周期に2回電流がゼロになります——その瞬間にアークが消える。
直流にはその助けがありません——電流が流れ続けるのでアークが続くのです。
だから人工的に零点を作る必要があります——振動電流を重ねるなどの工夫です。
直流遮断器の開発が課題とされてきた理由がここ。
直流送電の構成と5つの特徴を照合する

| 項目 | 直流送電では | 評価 |
| ★同期安定度 | ★★リアクタンスがないので制約がない | ★★長所 |
| ★非同期連系 | ★★異周波数の系統をつなげる | ★★長所 |
| ★短絡容量 | ★★連系しても増えない | ★★長所 |
| ★絶縁 | ★★同じ実効値なら交流より低くて済む | ★★長所 |
| ★ケーブル送電 | ★★充電電流も誘電体損もない | ★★長所 |
| ★遮断 | ★★電流零点がないので難しい | ★★短所 |
| ★電圧の変成 | ★★変圧器が使えない | ★★短所 |
| ★変換装置 | ★★両端に必要・高調波と無効電力が生じる | ★★短所 |
| ★電食 | ★★漏れ電流で地中埋設物が腐食する | ★★短所 |
(1)(2)(4)(5)は、この表のとおり——いずれも正しい記述です。
長所は安定度・非同期連系・絶縁・ケーブル——短所は遮断・変成・変換装置。
問題文はその短所を長所として書きました——だから見抜けるのです。
短所を挙げよと言われて出てこない項目が狙われます——だから両方覚えておくことになります。
(4) 変圧器が使えない
直流では磁束が一定なので、二次側に電圧が出ません——変圧器は原理的に動かないのです。
| ★交流 | ★直流 | |
| ★電圧を変える方法 | ★★変圧器(簡単・高効率) | ★★交流に戻すしかない |
| ★費用 | ★安い | ★★変換装置が必要で高い |
これが交流が主流であり続けた最大の理由です——電圧を自在に変えられること。
送るときは高く、使うときは低く——変圧器がそれを可能にしました。
電力用半導体の進歩で、その差は縮まってきています——だから直流の適用が広がっているのです。
⚠️ よくある間違い
(3)を「直流のほうが単純だから容易」と考える——零点がないぶん難しいのです。
交流は零点でアークが自然に消えます——その助けが直流にはありません。
(1)の交直変換所を疑ってしまう——両端に必要です。
(2)の同期安定度を疑ってしまう——制約がないので長距離向き。
(4)の変圧器を疑ってしまう——磁束が変化しないので使えません。
(5)の高調波を疑ってしまう——変換器から発生します。
⏱️ 本番での進め方
①★直流は電流零点がないので遮断が難しい。
②★交流は1周期に2回ゼロになり、そこでアークが消える。
③★直流では変圧器が使えない(磁束が変化しない)。
④短所を長所として書く型に注意。
💡 覚え方
「零点がないから切れない」——直流遮断の難しさはここに尽きます。長所と短所を分けて覚えておく——入れ替えの型を見抜けます。
★直流送電は3回出題されています——平成21年度 A問題9(地中送電:直流送電)、令和7年度下期 A問題11(架空送電:直流送電)、そして本問です。
(1) 交直変換所という設備
両端に必要な装置を、もう少し見ましょう。
| 設備 | 役目 |
| ★変換器(サイリスタ・IGBT) | ★★交流と直流を変換する |
| ★変換用変圧器 | ★変換器に合った電圧にする |
| ★交流フィルタ | ★★発生した高調波を除く |
| ★調相設備 | ★★他励式が消費する無効電力を補う |
| ★直流リアクトル | ★直流電流の脈動を平滑にする |
変換器だけでは済みません——付帯設備がいくつも要るのです。
だから変換所は大がかりで高価になります——短距離では割に合わない。
他励式では有効電力の6割ほどの無効電力を消費します——その分の調相設備が必要です。
自励式なら無効電力も制御でき、フィルタも小さくて済みます——だから近年は自励式が増えています。
(2) 同期安定度の問題がない意味
交流で長距離送電が難しい理由から見ましょう。
| 距離 | リアクタンス X | 相差角 δ | 安定度 |
| ★短い | ★小さい | ★小さくて済む | ★余裕がある |
| ★長い | ★★大きい | ★★大きくなる | ★★脱調しやすい |
線路が長いほど X が大きく、同じ電力でも δ が開きます——90度を超えれば脱調です。
直流にはリアクタンスがありません——周波数がゼロなので ωL=0だから。
だから相差角という概念そのものがありません——いくら長くても脱調しないのです。
電線が熱で耐えられる限界まで送れます——それが長距離に適する理由になります。
(5) 高調波が生じるしくみ
変換器は、電流を階段状に切り替えます。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★サイリスタが順に導通して電流を切り替える |
| ★② | ★★交流側の電流波形が階段状になる |
| ★③ | ★★正弦波からのずれが高調波として現れる |
| ★④ | ★機器の過熱や誤動作を招く |
6パルス変換器なら5次・7次の高調波が目立ちます——12パルスにすれば11次・13次から。
パルス数を増やすほど、波形が正弦波に近づきます——だから高調波が減るのです。
それでも残る分はフィルタで除きます——共振回路で特定の次数を吸収する。
自励式なら高速でスイッチングできるので、高調波が少ない——フィルタも小さくて済みます。
直流送電が使われている場所
実際にどこで採用されているのでしょうか。
| 用途 | 直流を選ぶ理由 | 日本の例 |
| ★周波数変換 | ★★50 Hz と60 Hz をつなぐ | ★佐久間・新信濃・東清水 |
| ★海底ケーブル | ★★充電電流がないので長距離が可能 | ★北本連系・紀伊水道 |
| ★系統分離 | ★★短絡容量を増やさずに連系できる | ★各地の連系設備 |
日本は東が50 Hz、西が60 Hz に分かれています——交流のままではつなげません。
だから周波数変換所で、いったん直流にします——それが非同期連系の実例です。
海底では、交流の充電電流が壁になります——だから直流しか選べないのです。
用途がはっきりしている技術——交流に取って代わるものではありません。
まとめ
| 誤り | (3) 直流の遮断は零点がなく交流より困難 |
| 交流の遮断 | 電流零点でアーク消弧 |
| 長所 | 非同期連系・安定度制約なし・長距離向き(2) |
| 短所 | 交直変換所(1)・変圧器不可(4)・高調波→フィルタ(5) |
| 答え | (3) |
▼あわせて解きたい関連問題
・直流送電の総合問題(架空送電3):【電力】令和7年度下期 A問題11
・直流は零点なく遮断困難(変電27):【電力】平成28年度 A問題7

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