今回は令和7年度下期 電力科目 A問題11、直流送電の特徴を問う誤り選択問題です。非同期連系・安定度・直流遮断器・絶縁レベル・交直変換装置と、直流送電の長所短所が一通り並びます。
覚え方の軸は「交流は√2倍の波高値を持つが、直流は波高値=実効値」。同じ実効値(同じ送電能力)なら直流の方が電圧の最大値が低い→絶縁レベルを低減できる——これは直流送電の代表的な長所です。これを「増加させる必要がある」とひっくり返したのが本問の誤り。
令和7年度下期 電力科目 A問題11:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和7年度下期 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題11
電験3種 電力科目 【架空送電】 令和7年度下期 A問題11
直流送電に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 非同期連系ができ、異周波数間の系統連系が可能である。
(2) 送電線のリアクタンスの影響がなく交流の安定度による制約が無いため、電線の許容電流限度まで送電できることから大電力の長距離送電が可能である。
(3) 直流は零点を通過しないため、故障時に生じる大電流を遮断できる直流遮断器の開発に課題がある。
(4) 直流電圧の最大値は同じ実効値の交流電圧より高くなるため、絶縁レベルを増加させる必要がある。
(5) 送受電端に交直変換装置が必要となり、他励式の場合は変換装置から発生する高調波対策が必要となる。
出題のポイント:同じ実効値なら直流の最大値は低い
同じ実効値 V で比べると、交流の最大値は √2V、直流の最大値は V です。絶縁設計で重要な最大電圧は直流のほうが低いため、直流送電では要求絶縁レベルを低くできます。
出題のポイント:同じ実効値なら直流の最大値は低い

同じ実効値 V で比べると、交流の最大値は √2V、直流の最大値は V です。絶縁設計で重要な最大電圧は直流のほうが低いため、直流送電では要求絶縁レベルを低くできます。
誤りは(4):直流のほうが絶縁は低くて済む
「直流電圧の最大値は同じ実効値の交流電圧より高くなる」——逆です。
| ★交流 | ★直流 | |
| ★実効値 | ★V | ★V |
| ★最大値(波高値) | ★★√2 V=1.41 V | ★★V(実効値と同じ) |
| ★必要な絶縁 | ★★高い | ★★低くて済む |
交流は正弦波なので、最大値が実効値の√2倍になります——絶縁はその最大値に耐えなければなりません。
直流は常に一定なので、最大値=実効値——√2倍の余裕が要らないのです。
だから同じ実効値なら、直流のほうが絶縁を下げられます——これは直流送電の長所になります。
問題文は長所を短所として書いている——そこが誤りです。
★√2倍の差
解法の原理:直流送電の長所と課題

| 項目 | 直流送電 | 評価 |
| ★安定度 | ★リアクタンスがないので制約がない | ★★長所 |
| ★非同期連系 | ★異周波数の系統をつなげる | ★★長所 |
| ★絶縁 | ★同じ実効値なら交流より低くて済む | ★★長所 |
| ★ケーブル送電 | ★充電電流も誘電損もない | ★★長所 |
| ★遮断 | ★零点がないので遮断器が難しい | ★★短所 |
| ★変換装置 | ★両端に必要・高調波と無効電力が生じる | ★★短所 |
(1)(2)(5)は、この表の項目に対応しています——いずれも正しい記述です。
(1) 非同期連系ができる
交流でつなぐには、周波数も位相もそろえる必要があります。
直流ならその制約がありません——いったん直流にして、相手の周波数で作り直すだけ。
だから50 Hz と60 Hz をつなげます——日本の周波数変換所がその例です。
(2) 安定度の制約がない
直流にはリアクタンスがありません——周波数がゼロだから ωL=0です。
だから相差角という概念そのものがない——脱調も起きません。
電線が熱で耐えられる限界まで送れる——それが「電流容量の限界まで」という意味です。
(3)(5) 直流送電の課題
(3) 直流遮断器が難しい
交流は1周期に2回、電流がゼロになります——その瞬間にアークが消えるのです。
直流にはその助けがありません——人工的に零点を作る必要があることになります。
だから2端子(点対点)の送電が中心でした——変換器の制御で電流を止められるから。
近年、実用的な直流遮断器が開発されつつあります——多端子の直流網が現実味を帯びてきました。
(5) 変換装置から高調波が出る
| 方式 | 特徴 | 高調波 |
| ★他励式(サイリスタ) | ★交流側の電圧で転流する | ★★大きい(フィルタが必要) |
| ★自励式(IGBT) | ★自分で転流できる | ★小さい |
他励式は交流電圧の助けを借りて転流します——だから交流系統が弱いと使えません。
電流が階段状になるので、高調波が多く出ます——フィルタで除く必要があるのです。
無効電力も消費するので、調相設備も要ります——変換所が大がかりになる理由です。
自励式なら高調波が少なく、無効電力も制御できます——近年はこちらが増えています。
⚠️ よくある間違い
(4)を「直流のほうが高電圧だから」と思って正しいと判断する——同じ実効値で比べています。
交流の波高値は実効値の√2倍——直流は実効値そのものです。
(2)の「電線の許容電流限度まで」を疑ってしまう——安定度の制約がないので正しい。
(3)の「零点を通過しない」を疑ってしまう——直流の定義そのものです。
(5)の「他励式は高調波対策が必要」を疑ってしまう——サイリスタ変換器の課題。
長所と短所を逆に書いた記述を探す——本問では(4)だけになります。
⏱️ 本番での進め方
①★交流の波高値は√2倍。直流は実効値と同じ。
②★だから直流のほうが絶縁は低くて済む(長所)。
③★リアクタンスがないので安定度の制約がない。
④★零点がないので直流遮断器が難しい。
💡 覚え方
「交流は√2倍、直流はそのまま」——だから直流のほうが絶縁が楽です。長所を短所として書いた記述——それが本問の誤りになります。
直流の遮断が難しい理由は平成28年度 A問題7(変電:遮断器)にあります。
直流送電が実際に使われている場所
どんなときに直流を選ぶのか、実例で見ましょう。
| 用途 | 直流を選ぶ理由 | 日本の例 |
| ★周波数変換 | ★★50 Hz と60 Hz をつなぐ | ★佐久間・新信濃・東清水 |
| ★海底ケーブル | ★★充電電流がないので長距離が可能 | ★北本連系・紀伊水道 |
| ★長距離大容量 | ★安定度の制約がない | ★海外の大規模系統 |
日本は東日本が50 Hz、西日本が60 Hz です——交流のままではつなげません。
だから周波数変換所で、いったん直流にします——そこが「非同期連系」の実例です。
海底ケーブルで直流が要る理由
交流のケーブルには、大きな静電容量があります。
だから充電電流が流れ、長くなるほど大きくなります——やがて送りたい電流より大きくなるのです。
直流なら充電電流はゼロ——電圧が一定なので電荷が動かないから。
誘電損も生じません——だから長い海底ケーブルは直流一択になります。
交直変換の基本
(5)の変換装置が、何をしているか見ましょう。
| 段階 | 装置 | 働き |
| ★送電端 | ★順変換器 | ★交流→直流 |
| ★線路 | ★直流送電線 | ★直流のまま送る |
| ★受電端 | ★逆変換器 | ★直流→交流 |
両端に変換器が必要なので、設備費がかさみます——短距離では割に合わないのです。
直流が有利になる距離
| 変換所の費用 | 線路の費用 | 合計 | |
| ★交流 | ★安い | ★距離に比例して増える | ★短距離で有利 |
| ★直流 | ★★高い | ★★増え方が緩やか | ★★長距離で有利 |
2本の直線が、あるところで交わります——それが等価距離です。
架空線でおよそ500〜800 km、ケーブルで数十 km——ケーブルのほうがずっと短いのです。
ケーブルは充電電流の問題があるから——だから海底では早く直流が有利になることになります。
直流送電の課題をもう一つ
選択肢にはありませんが、重要な短所があります。
| 課題 | 内容 | 対策 |
| ★電圧の変成 | ★★変圧器が使えない | ★変換器で電圧を作る |
| ★無効電力 | ★他励式は有効電力の6割程度を消費 | ★調相設備を置く |
| ★多端子化 | ★分岐や再結合が難しい | ★直流遮断器の開発 |
変圧器は電磁誘導で働くので、直流では動きません——磁束が変化しないからです。
だから直流のまま電圧を変えることができません——交流に戻すしかないのです。
これが交流が主流であり続けた最大の理由——電圧を自在に変えられることの強み。
電力用半導体の進歩で、その差が縮まってきました——だから直流の適用が広がっていることになります。
問題の解説:選択肢を判定して(4)を選ぶ


| 誤り | (4) 直流の最大値=実効値<交流の√2倍→絶縁は低減できる |
| 長所 | 非同期・異周波連系/安定度制約なし/長距離大電力 |
| 短所 | 交直変換装置・高調波対策・直流遮断器に課題 |
| 波高値 | 交流=√2×実効値、直流=実効値 |
| 答え | (4) |
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