電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「トルクの近似式 \( T = kV^2s \)」は誘導機B問題の頻出パターンです。本記事では、令和7年度上期 B問題15「近似式の導出+電圧低下時の回転速度」を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
(a)で導く \( T = kV^2s \) が(b)の武器になります。トルク一定なら \( V^2s \) が一定——電圧が \( 200/220 \) 倍になれば、滑りは \( (220/200)^2 = 1.21 \) 倍。B問題らしい美しい連携問題です。
令和7年度上期 機械科目 B問題15:問題文と選択肢
(a)で導いた式が、そのまま(b)の武器になります。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和7年度上期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 B問題15
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和7年度上期 B問題15
三相誘導電動機について、次の(a)及び(b)に答えよ。
(a) 一次側に換算した二次巻線の抵抗 r₂′ と滑り s の比 r₂′/s が、他の定数(r₁、x₁、x₂′)に比べて十分に大きくなるように設計された誘導電動機がある。この電動機を電圧 V の電源に接続して運転したとき、トルク T と滑り s、電圧 V の関係を表す近似式として、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、k は定数である。
(1) T=k/(Vs) (2) T=k/(V²s) (3) T=kV²/s (4) T=kV²s (5) T=kVs
(b) 上記(a)の条件で設計された定格電圧 220 V、同期速度 1 200 min⁻¹ の三相誘導電動機を電圧 220 V の電源に接続し、一定トルクの負荷で運転すると 1 140 min⁻¹ で回転する。電源電圧を 200 V に下げたときの回転速度 [min⁻¹] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、負荷トルクと二次抵抗は変化しないものとする。
(1) 1 150 (2) 1 127 (3) 1 113 (4) 1 091 (5) 1 000
出題のポイント:(a)で導いた式が(b)の武器になる
B問題の理想的な構成です。(a)で近似式を導かせ、(b)でそれを使わせる——(a)が解ければ(b)は代入するだけになります。

(a):近似式を導く
問題文の条件「r2′/s が他の定数に比べて十分大きい」——これは「等価回路のインピーダンスが r2′/s だけで決まる」と見なしてよいという意味です。
他のインピーダンスを無視してオームの法則。
s が1つ約分される。
k は機械の定数(k∝1/r2′)。
(b):V²s=一定を使う
電圧が下がったぶん滑りが増えて釣り合う。



この近似が成り立つのはどこまでか
T=kV2s は便利な式ですが、いつでも使えるわけではありません。問題文の条件「r2′/s が十分大きい」がどこで満たされるかを確かめておきましょう。
典型的な値で見てみます。r2′=0.1 Ω、x1+x2′=0.5 Ω の機械を考えます。
| 運転状態 | 滑り s | r2′/s | リアクタンスとの比較 | 近似は成り立つか |
| 定格運転 | 0.03 | 3.3 Ω | 0.5 Ω の6.7倍 | 成り立つ ✓ |
| 本問(b) | 0.06 | 1.7 Ω | 0.5 Ω の3.3倍 | おおむね成り立つ ✓ |
| 最大トルク付近 | 0.2 | 0.5 Ω | 同程度 | 怪しい |
| 始動時 | 1.0 | 0.1 Ω | 0.5 Ω の1/5 | 成り立たない ✗ |
滑りが小さいほど r2′/s は大きくなるので、この近似は安定運転域(定格付近)でだけ有効です。始動時にはまったく使えません——始動では逆にリアクタンスが支配的になり、電流が頭打ちになります。
「始動電流が定格の5〜7倍も流れるのに、始動トルクは1〜2倍しか出ない」という現象は、まさにこの近似が破れる領域で起きています。もし T=kV2s が始動時まで成り立つなら、s=1 でトルクは定格の33倍にもなるはずですが、実際にはそうなりません。
T=kV²s から比例推移も出てくる
この近似式には、もう一つの読み方があります。定数 k は二次抵抗で決まる——k∝1/r2′ だったことを思い出してください。
トルクが s/r2′ だけで決まるということは、この比が同じなら同じトルクということ——比例推移そのものです。二次抵抗を k 倍にしたら滑りも k 倍にすればトルクが変わらない、という関係がここから出てきます。
| T=kV²s から読めること | 内容 | 使う場面 |
| V を動かす | T∝V2 | 電圧低下・Y-Δ始動 |
| s を動かす | T∝s(安定域) | 負荷変動 |
| r2′ を動かす | s/r2′=一定(比例推移) | 二次抵抗制御 |
| V と s を同時に | V2s=一定(本問(b)) | 電圧低下時の速度変化 |
1本の近似式から、誘導機の主要な関係が4通りに読める——公式を4つ覚えるのではなく、1つの式を4通りに使うほうが確実で、しかも忘れません。
(a)で導出させているのは、まさにこの汎用性を体験させるためでしょう。導出の過程を一度でも自分の手で追っておけば、(b)以降の応用は自然に見えてきます。
⏱️ 本番での進め方
① (a)は「他を無視してオームの法則」から3行で導ける。
② (b)はトルク一定なので V2s=一定。電圧が下がれば滑りは増える。
③ 近似が成り立つのは安定運転域だけ。始動時には使えない。
④ T=kV2s は比例推移も含んでいる(k∝1/r2′)。
(b)を別ルートで検算する
近似式を使った答えは、別の道筋でも確かめられます。「トルクが同じなら V2s が同じ」を、直接代入して確認してみましょう。
✓ 一致——同じトルクが出ている。
2つの積が同じ値になれば、滑りの計算は正しいと言えます。電圧が下がったぶんを滑りが埋め合わせている——その埋め合わせがぴったり成立していることが、数字で見えます。
速度の側からも確認できます。回転速度は1 140 から1 127 min−1 へ、13 min−1 下がっただけ——約1 % の減速です。電圧を9 % も下げたのに、速度はほとんど変わっていません。
電圧が9 % 下がって、速度は1 % しか落ちない
この鈍感さこそ、誘導電動機が定速度電動機と呼ばれる理由です。電源電圧が多少変動しても、回転速度はほとんど動きません。
| 電圧 | 滑り(V2s=一定) | 回転速度 | 定格からの変化 |
| 220 V(定格) | 0.050 | 1 140 min−1 | — |
| 200 V(本問) | 0.0605 | 1 127 min−1 | −1.1 % |
| 180 V | 0.0747 | 1 110 min−1 | −2.6 % |
| 150 V | 0.1076 | 1 071 min−1 | −6.1 % |
電圧が3割下がっても、速度は6 % しか落ちません。「速度を変えたければ電圧では効かない」——一次電圧制御が速度制御として使いにくい理由が、この表に現れています。
ところが電流のほうは、そうはいきません。滑りが2倍以上に増えれば、二次電流も√2倍以上に増えます(T∝I22/s より I2∝√s)。速度はほとんど変わらないのに、電流と発熱だけが増えている——低電圧運転が危険な理由です。
「速度が変わらないから大丈夫」と思ってしまうのが、この現象の怖いところです。外から見れば普段どおり回っているのに、中では巻線が熱くなっている——電圧低下は、目に見えにくい形で電動機を痛めます。
逆に言えば、電動機の速度を監視していても電圧低下は検知しにくいということです。電流や温度を見るほうが確実——サーマルリレーが電流で保護しているのは、こうした事情によります。
💡 覚え方
「安定域では T=kV2s、定トルクなら V2s=一定」。電圧が k 倍になれば滑りは 1/k2 倍——本問なら (220/200)2=1.21倍。近似の前提は r2′/s ≫ 他のインピーダンスなので、滑りが小さい領域でだけ有効。k∝1/r2′ なので比例推移も同じ式から出る。
⚠️ よくある間違い
(b)で電圧比を1乗で使う(0.05×1.1=0.055)のが典型です。T∝V2 ですから、滑りの倍率は電圧比の2乗の逆数——1.21倍です。もう一つは倍率の向きを逆にすること——電圧が下がればトルクが不足して減速するのですから、滑りは必ず増えます。

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