今回は令和3年度 機械科目 A問題12を解説します。鉛蓄電池の初充電時に正極・負極にできる物質と、過充電時に両極から発生するガスに関する空所補充問題です。★電気化学5(平成20年度A問題13)も同じ鉛蓄電池がテーマですが、本問は生成物質の名称を問う穴埋め形式、電気化学5は酸化・還元反応の正誤を問う形式で、視点が異なります。
鉛蓄電池は正極・負極とも硫酸鉛(PbSO₄)に戻る点、初充電で正極に二酸化鉛、負極に鉛ができる点、過充電では水の電気分解で正極から酸素ガス、負極から水素ガスが発生する点を順に整理すれば解けます。
令和3年度 機械科目 A問題12:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和3年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題12
電験3種 機械科目 【電気化学】 令和3年度 A問題12
次の文章は,鉛蓄電池に関する記述である。
鉛蓄電池は,正極と負極の両極に(ア)を用いる。希硫酸を電解液として初充電すると,正極に(イ),負極に(ウ)ができる。これを放電すると,両極とももとの(ア)に戻る。
放電すると水ができ,電解液の濃度が下がり,両極間の電圧が低下する。そこで,充電により電圧を回復させる。過充電を行うと電解液中の水が電気分解して,正極から(エ),負極から(オ)が発生する。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) 鉛 硫酸鉛 二酸化鉛 水素ガス 酸素ガス (2) 鉛 二酸化鉛 硫酸鉛 水素ガス 酸素ガス (3) 硫酸鉛 鉛 二酸化鉛 水素ガス 酸素ガス (4) 硫酸鉛 二酸化鉛 鉛 酸素ガス 水素ガス (5) 二酸化鉛 硫酸鉛 鉛 酸素ガス 水素ガス
鉛蓄電池の充放電を1本の式で
両極とも、放電すると硫酸鉛になる——これが鉛蓄電池の最大の特徴です。
| 正極 | 負極 | 電解液 | |
| ★充電状態 | ★二酸化鉛 PbO2 | ★鉛 Pb | 硫酸が濃い |
| ★放電状態 | ★硫酸鉛 PbSO4 | ★硫酸鉛 PbSO4 | 水が増えて薄い |
正極も負極も、放電すると同じ硫酸鉛になる——これを二重硫酸塩化説(ダブルサルフェーション)といいます。だから(ア)は硫酸鉛です。
問題文の「これを放電すると、両極とももとの(ア)に戻る」——「両極とも同じ物質」と書かれているのが決め手になります。鉛と二酸化鉛は別物なので、(ア)には入りません。

(イ)(ウ) 正極が二酸化鉛、負極が鉛
充電すると、正極は酸化されてPbO2、負極は還元されてPb——逆にはなりません。
| 極 | 充電で生じる物質 | 鉛の酸化数 | 反応 |
| ★正極 | ★二酸化鉛 PbO2 | +2 →★+4 | 酸化 |
| ★負極 | ★鉛 Pb | +2 →★0 | 還元 |
酸化数が増える=酸化、減る=還元——正極では+2 から+4 へ増え、負極では+2 から0 へ減る。「酸素と結び付くほうが正極」と覚えてもよいでしょう。
(エ)(オ) 過充電は水の電気分解
充電が完了しても電流を流し続けると、電解液の水が分解されます——これは電池の反応ではなく、単なる水の電気分解です。
★(エ)
★(オ)
水の電気分解では、必ず陽極に酸素、陰極に水素——体積比は1:2 です。H2O の組成そのままだと考えれば覚えられます。
充電中の鉛蓄電池では、正極が陽極、負極が陰極——外部電源につながれているからです。だから正極から酸素、負極から水素になります。

⚠️ よくある間違い
(エ)(オ)を逆にしてしまう——選択肢(1)(2)(3)が「正極から水素、負極から酸素」です。
水の電気分解では陽極(+)に酸素——酸素は負イオン(OH–)に由来するので、+へ引かれる。水素は正イオン(H+)なので−へ です。
(エ)(オ)だけで(1)(2)(3)が落ちる——残るは(4)(5)。あとは(ア)が硫酸鉛か二酸化鉛かを見るだけです。
「両極とももとの(ア)に戻る」——両極に共通する物質は硫酸鉛 なので(4)。2手で確定できます。
電解液の比重で充電状態が分かる
放電すると水ができて硫酸が薄まる——だから比重を測れば、どれだけ充電されているかが分かります。
| 状態 | 電解液の比重(20 ℃) | 電圧の目安 |
| ★満充電 | ★1.28 前後 | ★1セル2.1 V |
| 半分 | 1.20 前後 | 2.0 V |
| ★放電終止 | ★1.10 前後 | ★1.8 V |
硫酸が反応に参加している——だから電解液の濃度自体が変化するのです。これは鉛蓄電池ならではの性質——他の電池では電解液は変化しないものが多いのです。
公称電圧は1セル2 V——自動車用12 V バッテリーは6セル直列です。問題文の「両極間の電圧が低下する」のは、硫酸が薄まることが原因になります。
⏱️ 本番での進め方
①(ア)「両極とも」なので共通する硫酸鉛。
②(イ)(ウ) 正極が二酸化鉛、負極が鉛。
③(エ)(オ)★水の電気分解——正極に酸素、負極に水素。
④(エ)(オ)だけで3つ落ちる。2手で確定。
💡 覚え方
「放電すると両極とも硫酸鉛」——だから(ア)は硫酸鉛。「水の電気分解は陽極に酸素、陰極に水素」——H2O の分解だと考えれば迷いません。
充電時の酸化・還元反応は平成20年度 A問題13にあります(電気化学:鉛蓄電池の充電時の酸化・還元反応)。同じ電池を別の角度から問う問題です。

鉛蓄電池の長所と短所
150年以上使われ続けている電池——なぜ今も現役なのかを整理しておきましょう。
| 長所 | 短所 | |
| コスト | ★安価 | — |
| 大電流 | ★瞬間的な大電流に強い | — |
| 重さ | — | ★重い(エネルギー密度が低い) |
| 寿命 | — | 過放電に弱い |
| 信頼性 | 電圧から残量が分かる | — |
自動車のエンジン始動には数百A の大電流が要ります——鉛蓄電池はこれが得意です。重いという欠点も、据置きや車載なら問題になりにくい。
電力設備では、非常用電源(直流電源装置)として広く使われています——変電所の遮断器操作用電源などが代表例です。電験の他分野ともつながるところでしょう。
サルフェーションという劣化
放電状態で長く放置すると、硫酸鉛の結晶が粗大化します——これがサルフェーション。
粗大化した結晶は充電しても元に戻りません——容量が回復しなくなるのです。「使い終わったらすぐ充電する」のが、鉛蓄電池を長持ちさせるコツになります。
空欄の絞り込み手順
5つの空欄がありますが、後ろの2つから攻めるのが速い解き方です。
| 確定させる欄 | 正しい値 | 残る選択肢 |
| (エ)(オ) | 正極から酸素、負極から水素 | ★(4)(5) |
| (ア) | 硫酸鉛 | ★(4)に確定 |
(エ)(オ)は水の電気分解——陽極(正極)に酸素、陰極(負極)に水素。これだけで3つ落ちます。
残る(4)(5)の違いは(ア)——硫酸鉛か二酸化鉛か。「両極とももとの(ア)に戻る」のですから、両極に共通する硫酸鉛 です。
2手で確定——(イ)(ウ)は見なくてよいことになります。穴埋め問題では「自信のある欄から潰す」のが鉄則です。
まとめ
| (ア) | 硫酸鉛 |
| (イ) | 二酸化鉛 |
| (ウ) | 鉛 |
| (エ) | 酸素ガス |
| (オ) | 水素ガス |
| 答え | (4) |
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