電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「電気車の誘導電動機制御」は滑り周波数制御・回生制動・ベクトル制御と、実務に直結するキーワードが並ぶ応用テーマです。本記事では、平成21年度 A問題6を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
核心は2つ:f₁=f_r+f_s(回転周波数に滑り周波数を足した一次周波数で駆動)と、滑りの符号=運転モード(正なら力行、負なら回生)です。
平成21年度 機械科目 A問題6:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成21年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題6
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成21年度 A問題6(要約)
電気車用駆動電動機はインバータ搭載車が主流となり、構造が簡単で保守が容易な(ア)三相誘導電動機を駆動、制御方法として滑り周波数制御が広く採用されていた。回転周波数に滑り周波数を加算して得た(イ)周波数で駆動して目標トルクを得る。始動・加速時は(ウ)の滑り、回生制動時は(エ)の滑りで運転する。最近はトルクを直接制御できる(オ)制御の採用が進み、さらに永久磁石同期電動機の適用も進む。
(1) かご形・一次・正・負・ベクトル (2) かご形・一次・負・正・スカラ (3) かご形・二次・正・負・スカラ (4) 巻線形・一次・負・正・スカラ (5) 巻線形・二次・正・負・ベクトル
出題のポイント:足し算1本で電気車の制御が説明できる
滑り周波数制御は、式にすると驚くほど単純です。「いま回転子が何 Hz 相当で回っているか」に、「どれだけ滑らせたいか」を足すだけです。
| 運転 | fs の符号 | 一次周波数 | 同期速度と回転速度 | 滑り | トルクの向き |
| 力行(加速) | 正 | f1>fr | Ns>N | 正 | 回転方向(電動機) |
| 回生制動 | 負 | f1<fr | Ns<N | 負 | 逆向き(発電機) |
インバータは同期速度を自由に作れるのですから、回転子より少し速い磁界を作れば加速、少し遅い磁界を作れば制動——それだけのことです。

空欄を確定する
(ア):構造が簡単で保守が容易=かご形
スリップリングもブラシもないのがかご形の長所です。(ア)=かご形。電車のように振動が激しく点検の手間を惜しみたい用途では、巻線形は選ばれません。
(イ):インバータが出すのは一次周波数
インバータが固定子(一次側)に印加する周波数ですから(イ)=一次。二次周波数 f2=sf1 は回転子側に誘導される周波数で、外から与えるものではありません。
(ウ)(エ):加速は正、回生は負
加速するにはトルクが要る=電動機動作=滑りは正。回生制動は電力を架線に返す=発電機動作=滑りは負。(ウ)=正、(エ)=負です。
(オ):トルクを直接制御=ベクトル制御
「トルクを直接制御できる」という表現が決め手です。(オ)=ベクトル制御。
| スカラ制御(V/f 制御) | ベクトル制御 | |
| 何を制御するか | 電圧と周波数の「大きさ」だけ | 電流を磁束成分とトルク成分に分解して個別に制御 |
| トルクの制御 | 間接的(結果としてそうなる) | 直接・瞬時に制御できる |
| 応答 | 緩やか | 高速 |
| 低速でのトルク | 不足しがち | 定格トルクを出せる |
| 位置・速度センサ | 不要 | 必要(センサレス方式もある) |



数字で見る滑り周波数制御
実際の値を入れてみると、この制御の感覚がつかめます。4極の主電動機が900 min−1 で回っているとしましょう。
回転速度を「電気的な周波数」に直したもの。
少しだけ速い磁界を作る。
約5 %——ごく普通の値。
少しだけ遅い磁界を作る。滑りは −0.053。
30 Hz に対して ±1.5 Hz——わずか5 % 動かすだけで、加速と制動が切り替わります。インバータにとっては簡単な操作ですが、電車にとっては力行とブレーキという正反対の状態です。
fs の大きさがトルクの大きさを決めるのも重要な点です。滑り周波数が大きいほど二次電流が増えてトルクが出ます——だから「滑り周波数制御」という名前でトルク制御ができるのです。
回生制動が使えないことがある
回生制動は「電力を架線に返す」制動です。返した電力を誰かが使ってくれなければ成立しません。
| 状況 | 架線の電圧 | 回生 | 対応 |
| 近くに力行中の電車がいる | 安定 | 成立(省エネ) | — |
| 周囲に電車がいない(深夜など) | 上昇してしまう | 失効(絞られる) | 機械ブレーキ/抵抗で消費/蓄電装置 |
これを「回生失効」と呼びます。受け手がいないと架線電圧が上がりすぎるので、回生を絞って機械ブレーキに切り替える——電車のブレーキは、回生と空気ブレーキを協調させて働いています。
近年は変電所に蓄電装置を置いて回生電力を吸収する取り組みも進んでいます。「発電した電力の行き先」まで含めて設計する——誘導発電機が系統から励磁をもらうという話と、同じ構図です。
⏱️ 本番での進め方
① f1=fr+fs の1本。足せば力行、引けば回生。
② インバータが出すのは一次周波数。二次周波数は結果として現れる量。
③ 「トルクを直接制御」=ベクトル制御。V/f だけならスカラ制御。
④ 加速=電動機動作=滑り正。ここを逆にすると(2)(4)へ。
なぜ電気車に永久磁石同期電動機が進出したのか
問題文の最後「さらに永久磁石同期電動機の適用も進む」——誘導機からさらに先へ進もうとしている理由を押さえておきましょう。
| かご形誘導電動機 | 永久磁石同期電動機(PMSM) | |
| 磁束の作り方 | 固定子から励磁電流を送り込む | 永久磁石が作る(電流不要) |
| 二次銅損 | ある(sP2) | ない(回転子に電流が流れない) |
| 効率 | 高い | さらに高い |
| 同じ出力での大きさ | 標準 | 小さく軽い |
| 回転子の温度 | 高い(銅損がある) | 低い |
| 制御 | ベクトル制御 | 位置検出が必須(より高度) |
| 価格 | 安い | 磁石が高い |
決定的なのは「回転子に電流が流れない」ことです。誘導機は回転子に電流を流さなければトルクが出ないのに対し、永久磁石なら電流なしで磁束が立っています——二次銅損がまるごと消えるのです。
回転子が発熱しないので冷却も楽になり、同じ大きさでより大きな出力が出せます。床下の限られた空間に収める電車にとって、小型軽量化は直接的な利点です。
代償は制御の難しさです。磁石の位置が分からないとトルクを制御できないので、回転子位置センサか、それを推定する演算が要ります。誘導機なら位置が分からなくても回せることを思えば、制御装置の負担は確実に増えています。
「構造が簡単で保守が容易」だから誘導機が選ばれたのが問題文の(ア)でした。その後、制御技術が進んで「構造がやや複雑でも効率が良いほう」が選べるようになった——電動機の主役交代は、いつも制御技術の進歩とセットで起きています。
💡 覚え方
「f1=fr+fs——足して力行(s 正)、引いて回生(s 負)。トルク直接ならベクトル」。fs の大きさがトルクの大きさを決める。回生は受け手がいないと失効するので、機械ブレーキとの協調が必要。
⚠️ よくある間違い
(ウ)(エ)の正負を逆にするのが最頻の誤りです。加速するにはトルクが要る=電動機動作=滑りは正と、物理から確かめてください。もう一つは(イ)に「二次」——インバータがつながっているのは固定子=一次側です。

コメント