今回は平成21年度 機械科目 A問題12を解説します。食塩水を電気分解して水酸化ナトリウムと塩素を得る食塩電解(イオン交換膜法)の工業プロセスに関する空所補充問題です。
現在わが国で採用されている食塩電解法はイオン交換膜法で、陽イオン(ナトリウムイオン)だけを選択的に通す膜を使うことで純度の高いNaOHを得る仕組みがポイントです。
平成21年度 機械科目 A問題12:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成21年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題12
電験3種 機械科目 【電気化学】 平成21年度 A問題12
食塩水を電気分解して,水酸化ナトリウム(NaOH,か性ソーダ)と塩素(Cl2)を得るプロセスは食塩電解と呼ばれる。食塩電解の工業プロセスとして,現在,わが国で採用されているものは,(ア)である。
この食塩電解法では,陽極側と陰極側を仕切る膜に(イ)イオンだけを選択的に透過する密隔膜が用いられている。外部電源から電流を流すと,陽極側にある食塩水と陰極側にある水との間で電気分解が生じてイオンの移動が起こる。陽極側で生じた(ウ)イオンが密隔膜を通して陰極側に入り,(エ)となる。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に当てはまる語句として,正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (1) 隔膜法 陽 塩素 Cl₂ (2) イオン交換膜法 陽 ナトリウム NaOH (3) イオン交換膜法 陰 塩素 Cl₂ (4) イオン交換膜法 陰 ナトリウム NaOH (5) 隔膜法 陰 水酸 NaOH
食塩電解で何ができるのか
食塩水を電気分解すると、3つの製品が同時に得られます——どれも工業的に重要です。
| 生成物 | できる場所 | 反応 | 用途 |
| 塩素 Cl2 | ★陽極 | 2Cl–→Cl2+2e– | 塩化ビニル、漂白剤 |
| 水素 H2 | ★陰極 | 2H2O+2e–→H2+2OH– | 燃料、化学原料 |
| ★水酸化ナトリウム NaOH | ★陰極側の液 | Na++OH– | 製紙、化学工業 |
陽極では塩化物イオンが電子を奪われて塩素ガス——陰極では水が電子を受け取って水素ガスと水酸化物イオン。そこへNa+ が膜を通ってやってくると、NaOH 水溶液になるという流れです。

(イ)(ウ) なぜ陽イオンだけを通すのか
イオン交換膜は陽イオンだけを選択的に通します——これが純度の高いNaOH を得る鍵です。
もし塩化物イオンCl– が陰極側へ入ってくると、NaOH に食塩が混ざってしまいます——純度が落ちるのです。
また、陰極側で生じたOH– が陽極側へ行くと、塩素と反応してしまいます——これも防ぎたい。陽イオンだけを通す膜が、両方の問題を同時に解決するのです。
膜を通るのはNa+——「陽極側で生じたイオンが膜を通して陰極側に入る」という問題文どおりです。塩素イオンではありません——塩素は陽極でガスになって出ていきます。

(ア) 3つの製法の歴史
食塩電解には3つの方式があり、時代とともに移り変わってきました。
| 方式 | 仕組み | 状況 |
| 水銀法 | 陰極に水銀を使いNa をアマルガムに | ★純度は高いが公害問題で廃止 |
| 隔膜法 | アスベストなどの隔膜で仕切る | 食塩が混入し純度が低い |
| ★イオン交換膜法 | ★陽イオンだけを通す膜 | ★現在の主流。日本が実用化を主導 |
水銀法は高純度のNaOH が得られる優れた方法でしたが、水銀による環境汚染が問題となり、1970年代に日本国内では転換が進みました。
その代替として開発が進んだのがイオン交換膜法——日本の企業が実用化で先行した技術です。現在は世界的にも主流になっています。
問題文が「現在、わが国で採用されているもの」と限定しているのは、この経緯を踏まえてのこと——隔膜法や水銀法も「存在はする」ので、「現在」「わが国」という条件が効いています。
⚠️ よくある間違い
膜を通るのを塩素イオンとしてしまう——選択肢(1)(3)がそれです。
陽イオン交換膜は正イオンしか通しません——Cl– は負イオンなので通れない。(イ)が「陽」だと決まれば、(ウ)も自動的にナトリウムになります。
(イ)を「陰」とする選択肢(3)(4)(5)——陰イオン交換膜では、この製法は成り立ちません。Na+ が移動できず、陰極側にNaOH ができないからです。
(ア)を「隔膜法」としない——現在の主流はイオン交換膜法です。(ア)だけで(1)(5)が落ちます。
電力を大量に使う産業
食塩電解は電力多消費型の産業——電気エネルギーを化学エネルギーに変えているからです。
| 産業 | 電力を使う目的 |
| ★食塩電解 | NaOH と塩素の製造 |
| アルミニウム精錬 | ★溶融塩電解(電気の缶詰と呼ばれる) |
| 銅の電解精錬 | 純度99.99 %の銅を得る |
いずれもファラデーの法則に従って、電気量に比例した量が得られます——生産量を増やすには、そのまま電力が要るのです。
だからこれらの工場は、電力の安い地域に立地する——電気料金が製造原価を左右するという点で、電力供給と直結した産業だと言えます。
⏱️ 本番での進め方
①(ア) 現在の主流は★イオン交換膜法。
②(イ) 陽イオンだけを通す膜。Na+ が移動する。
③陽極で塩素、陰極で水素とOH–、合わさってNaOH。
④(ア)だけで2つ落とせる。(イ)でさらに絞れる。
💡 覚え方
「膜を通るのはナトリウム」——陽イオン交換膜なのですから、正イオンだけ。そして「陽極で塩素、陰極で水素」——塩素は陽極で気体になって出ていくので、膜は通りません。
電気めっきの原理は平成25年度 A問題12(電気化学:ニッケルめっきの原理)、析出量の計算は平成19年度 A問題13(ファラデーの法則)にあります。

イオン交換膜の仕組み
なぜ陽イオンだけを通せるのか——膜の中に固定された電荷がその答えです。
| 膜の種類 | 膜に固定された基 | 通すイオン |
| ★陽イオン交換膜 | ★スルホン酸基(−SO3–)など負電荷 | ★陽イオン |
| 陰イオン交換膜 | アンモニウム基など正電荷 | 陰イオン |
膜の中に負電荷が固定されていると、負イオンは反発して入れません——正イオンだけが引き寄せられて通り抜けるのです。
同じ符号どうしは反発する——静電気の基本がそのまま働いているだけの仕組みです。だから「選択透過性」が生まれることになります。
電気透析への応用
同じ膜は、海水から食塩を作るのにも使われます——電気透析と呼ばれる方法です。
陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べて電圧をかける——濃い部屋と薄い部屋が交互にできます。日本の食塩は、この方法で海水から作られているのです。
食塩を作るのも、食塩を分解するのも、同じイオン交換膜の技術——電気化学が身近な製品を支えていることが分かります。
陽極と陰極の反応式を書く
食塩水の電気分解では、何が反応するかを見極めるのが要点です。
| 電極 | 候補 | 実際に反応するもの |
| 陽極 | Cl–、H2O | ★Cl–(塩素ガス発生) |
| 陰極 | Na+、H2O | ★H2O(水素ガス発生) |
陰極ではNa+ ではなく水が反応する——ナトリウムは水よりイオンでいたがる(イオン化傾向が大きい)からです。
だから金属ナトリウムは析出せず、水素が発生する——Na+ はイオンのまま残り、OH– と対になってNaOH になります。
もし金属ナトリウムが析出したら、すぐ水と激しく反応してしまいます——水溶液の電解では、イオン化傾向の大きい金属は析出しないのが原則です。
水銀法で金属ナトリウムが得られたのは、水銀とアマルガムを作って安定化させていたから——特殊な条件が必要だったのです。
まとめ
| (ア) | イオン交換膜法 |
| (イ) | 陽 |
| (ウ) | ナトリウム |
| (エ) | NaOH |
| 答え | (2) |
▼あわせて解きたい関連問題
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