電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「トルク−回転速度曲線と比例推移」は何度も再出題されている超定番テーマです。本記事では、平成20年度 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
埋めるのは「電源周波数」「停動」「二次」「比例推移」。核心は「停動トルク(山の高さ)は二次抵抗と無関係、山の位置だけが抵抗に比例して動く」です。
平成20年度 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
トルク曲線の「山の高さ」と「山の位置」を分けて考えます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成20年度 A問題3
巻線形誘導電動機のトルク-回転速度曲線は、電源電圧及び(ア)が一定のとき、発生するトルクと回転速度との関係を表したものである。この曲線は、ある滑りの値でトルクが最大となる特性を示す。このトルクを最大トルク又は(イ)トルクと呼んでいる。この最大トルクは(ウ)回路の抵抗には無関係である。巻線形誘導電動機のトルクは(ウ)回路の抵抗と滑りの比に関係するので、(ウ)回路の抵抗が k 倍になると、前と同じトルクが前の滑りの k 倍の点で起こる。このような現象は(エ)と呼ばれ、起動トルクの改善及び速度制御に広く用いられている。
(1) 負荷・臨界・二次・比例推移 (2) 電源周波数・停動・一次・二次励磁 (3) 負荷・臨界・一次・比例推移 (4) 電源周波数・臨界・二次・二次励磁 (5) 電源周波数・停動・二次・比例推移
本問は令和6年度下期 A問題3(誘導機47)で文面ほぼそのまま再出題されました。定義文ごと暗記する価値のある1問です。
出題のポイント:山の「高さ」と「位置」を分けて考える
比例推移の理解でいちばん大事なのは、トルク曲線の「山の高さ」と「山の位置」を別のものとして扱うことです。二次抵抗を変えると位置は動くが、高さは変わらない——この非対称が本問の核心です。
| 二次抵抗 | 最大トルクの大きさ | 最大トルクが出る滑り | 始動時(s=1)のトルク |
| r2(そのまま) | Tm | sm | 小さい |
| 2r2 | Tm(変わらない) | 2sm | 大きくなる |
| r2/sm になるまで増やす | Tm(変わらない) | s=1 | 最大トルクそのもの |
最下行が比例推移を使う目的です。二次抵抗を適切に選べば、始動の瞬間(滑り1)に最大トルクを出せます——これ以上大きな始動トルクは原理的に出せないので、始動法として理想的です。

4つの空欄を確定する
(ア):曲線を決めるのは電源側の条件
トルク−回転速度曲線は「電源電圧と電源周波数」が決まって初めて描けます。電圧が変わればトルクは2乗で変わり、周波数が変われば同期速度そのものが変わってしまうからです。(ア)=電源周波数。
「負荷」は誤りです。トルク曲線は電動機側の特性であって、負荷が何であっても曲線そのものは変わりません(交わる点が変わるだけ)。
(イ):最大トルクの別名は「停動トルク」
停動トルク(breakdown torque)——これを超える負荷をかけると電動機が止まってしまうことから、この名で呼ばれます。(イ)=停動。
☝️ ひっかけの作り方:「臨界トルク」という語は電験では使いません。「臨界」は他分野の用語で、もっともらしく見えるダミーとして置かれています。用語は正確に覚える——これも試験対策の一部です。
(ウ):外部から抵抗を足せるのは二次側
巻線形誘導電動機はスリップリングで二次巻線を外部へ引き出しています。だから外部抵抗を挿入できるのは二次回路だけ。(ウ)=二次。
一次回路の抵抗を変えても比例推移は起きません。一次抵抗は電圧降下を増やして電圧を下げるのと似た効果しかなく、最大トルクそのものを下げてしまいます。
(エ):抵抗 k 倍 ⇒ 滑り k 倍が「比例推移」
問題文が「(ウ)回路の抵抗が k 倍になると、前と同じトルクが前の滑りの k 倍の点で起こる」と定義そのものを書いてくれています。(エ)=比例推移。
「二次励磁」は別物です。二次回路に電圧を注入して速度を制御する方式(セルビウス方式・クレーマ方式)で、抵抗を入れるのではなく電力をやりとりする点が決定的に違います。


なぜ r2/s だけで決まるのか
比例推移が成り立つ根拠は、誘導電動機のトルクの式にあります。
r2 を k 倍しても、s を同じ k 倍にすれば r2/s は元のまま。式の他の部分には r2 も s も出てこないので、トルクの値はまったく変わりません。これが比例推移の正体です。
| 比例推移が使えるもの | 使えないもの |
| トルク(r2/s の関数) | 出力((1−s) が別に効く) |
| 一次電流・二次電流 | 効率(滑りが変われば二次銅損の割合が変わる) |
| 力率 | 二次銅損 |
比例推移が成り立つのは「r2/s だけで決まる量」に限られます。出力は (1−s)P2 なので滑りそのものが効いてしまい、比例推移しません。効率も同様——二次抵抗を増やせば滑りが増え、二次銅損の割合が増えて効率が落ちます。比例推移の代償がここにあります。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)と(エ)だけで正解が決まる:電源周波数で(1)(3)、比例推移で(2)(4)が消える。
② 「停動」対「臨界」——電験の用語は停動トルク。
③ 山の高さは r2 と無関係、位置だけが r2 に比例。
④ 二次励磁は別方式(抵抗ではなく電圧を注入する)。
比例推移は実際に何に使われるのか
比例推移は巻線形誘導電動機だけの特技です。これが必要になる場面を具体的に見ておきましょう。
| 用途 | なぜ比例推移が要るのか |
| クレーン・巻上機 | 荷を吊った状態から始動するので、始動の瞬間から大トルクが要る |
| 大形の送風機・ポンプ | 慣性が大きく始動に時間がかかる。全電圧では始動電流が長く流れて過熱する |
| 圧延機・破砕機 | 負荷が急変する。滑りを大きくして衝撃を吸収する |
共通するのは「始動トルクが要る」「始動電流を抑えたい」の両立です。Y-Δ始動やリアクトル始動では電流を下げるとトルクも下がってしまうのに対し、比例推移は電流を下げながらトルクを上げられる——これが決定的な違いです。
電圧を下げる方式では I2 だけが減ってトルクは2乗で落ちます。抵抗を増やす方式では、電流は減るのに力率(r2/s の割合)が改善してトルクが増える——「同じ電流でより多くの仕事をさせる」のが比例推移の本質です。
比例推移の代償:効率
二次抵抗を増やせば滑りが増えます。そして滑りは、そのまま二次側で熱になる電力の割合です。
滑り0.05(5 %)で運転していれば効率よく回りますが、抵抗を足して滑り0.5 まで動かすと、二次入力の半分が熱になります。だから比例推移は「始動時だけ」「速度制御でも短時間だけ」使うもの——連続運転で滑りを大きくしたままにすると、抵抗器が焼けるか電気代が跳ね上がります。
この「捨てている電力を電源に戻せないか」という発想から生まれたのが二次励磁(セルビウス方式)です。抵抗で熱にする代わりに、二次側の電力を変換して電源へ返す——空欄(エ)のダミーだった「二次励磁」は、比例推移の弱点を克服した後継技術だと理解すると、両者の関係がすっきりします。
★同一問題:令和6年度下期 A問題3として再出題されている
この問題は令和6年度下期 A問題3としてほぼ同一の内容で再出題されています。4つの空欄の答えも同じですが、正解の番号が違います。
| 平成20年度 A問題3(本問) | 令和6年度下期 A問題3 | |
| (ア) | 電源周波数 | 電源周波数(同じ) |
| (イ) | 停動 | 停動(同じ) |
| (ウ)(エ) | 二次・比例推移 | 二次・比例推移(同じ) |
| 正解の番号 | (5) | (1) |
16年ぶりの再出題で、選択肢が並べ替えられて正解が (5) から (1) へ移動しています。本問を「答えは(5)」と番号で覚えていた人は、令和6年度下期で確実に外します。
16年という間隔は、受験者の世代が完全に入れ替わる長さです。それでも同じ問題文で出題される——比例推移は誘導機の中心的な論点として、これからも繰り返し問われると考えてよいでしょう。
「曲線は電源が決め、山の高さは抵抗と無関係、山の位置は抵抗に比例」——この一文を、番号ではなく中身で覚えてください。
💡 覚え方
トルクは r2/s だけで決まる——だから抵抗 k 倍なら滑りも k 倍で同じトルク=比例推移。最大トルク Tm∝V2/(2x2) に r2 は入らないので山の高さは不変、位置だけが動く。巻線形だけが使える(外部抵抗を入れられるのは二次側)。
⚠️ よくある間違い
(ア)を「負荷」とするのが典型です。トルク曲線は電動機側の特性で、負荷が何でも曲線は変わりません。もう一つは(イ)を「臨界」とする誤り——電験の正式な用語は「停動トルク」です。

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