電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「パワーフロー(電力の流れ)」は誘導機計算の土台となる最頻出テーマです。本記事では、平成18年度 B問題16「二次銅損と一次入力」を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
(a)は黄金比 \( P_o : P_{c2} = (1-s) : s \) の逆算、(b)は「入力=出力+すべての損失」の足し算だけ。エネルギーの地図(パワーフロー)さえ描ければ、公式の丸暗記は不要です。
平成18年度 機械科目 B問題16:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成18年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 B問題16
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成18年度 B問題16
三相かご形誘導電動機を周波数 60 Hz の電源に接続して運転したとき、機械出力は 34.8 kW、滑りは 3 %、固定子の銅損(一次銅損)は 3.8 kW、鉄損は 1.4 kW であった。この電動機について、次の(a)及び(b)に答えよ。
ただし、機械損は無視できるものとする。
(a) この運転時の回転子の銅損(二次銅損)[kW] の値として、最も近いのは次のうちどれか。
(1) 0.89 (2) 0.93 (3) 1.08 (4) 1.16 (5) 1.20
(b) この運転時の一次入力 [kW] の値として、最も近いのは次のうちどれか。
(1) 40.2 (2) 41.1 (3) 42.2 (4) 43.5 (5) 44.8
出題のポイント:黄金比が使えるのは二次側だけ
誘導機のパワーフローには4種類の損失が登場しますが、そのうち黄金比で扱えるのは二次銅損だけです。鉄損と一次銅損は、比ではなく足し算・引き算で処理します——この区別がパワーフロー問題の生命線になります。
| 段 | 量 | 扱い方 | 本問での値 |
| 一次入力 P1 | 電源から入る電力 | すべてを足し合わせた結果 | (b)で求める |
| ↓ 引く | 鉄損 Pi | 足し算・引き算のみ | 1.4 kW(与えられる) |
| ↓ 引く | 一次銅損 Pc1 | 足し算・引き算のみ | 3.8 kW(与えられる) |
| 二次入力 P2 | 同期ワット | ここから黄金比 | 35.9 kW |
| ↓ 引く | 二次銅損 Pc2 | =sP2(黄金比) | (a)で求める |
| 機械出力 Po | 軸から出る電力 | =(1−s)P2 | 34.8 kW(与えられる) |
与えられているのは、機械出力・滑り・一次銅損・鉄損の4つです。機械出力と滑りから二次銅損が出る(黄金比)、あとは全部足せば一次入力が出る(保存則)——それだけの問題です。

(a):出力から二次銅損へ
二次入力を経由せず、出力から直接求める形。
滑りが3 % なら、出力の約3.1 % が二次銅損。
(b):すべてを足し戻す
入力=出力+すべての損失。機械損は無視という条件。
(a)は四捨五入前の1.076 を使うのが安全。


s/(1−s) と (1−s)/s の使い分け
比例推移や黄金比の問題では、この2つの倍率を頻繁に使います。どちらを掛けるかで答えが大きく変わるので、迷ったときの判断基準を持っておきましょう。
| 向き | 掛ける倍率 | 本問(s=0.03)での値 | 結果の大小 |
| 出力 → 二次銅損 | s/(1−s) | 0.0309 | 小さくなる |
| 二次銅損 → 出力 | (1−s)/s | 32.3 | 大きくなる |
「二次銅損は出力よりずっと小さい」——滑りが数 % なのですから当たり前です。この大小関係さえ頭にあれば、倍率を逆にしてしまうことはありません。
本問なら、出力34.8 kW に対して二次銅損は1.08 kW。約1/32 という比率です。もし逆の倍率を使えば1 124 kW という桁外れの値になりますから、すぐにおかしいと気づけます。
計算問題では「答えが出たあとに桁と大小を確かめる」のが最も確実な検算です。公式の向きを暗記するより、物理的な大小関係で判断するほうが忘れません。
この電動機の効率と損失の内訳
(b)まで解けば、効率も損失の内訳も分かります。この機械がどんな性格なのか、数字から読み取ってみましょう。
約85 %。
| 損失 | 値 | 全損失に占める割合 | 性質 |
| 一次銅損 | 3.8 kW | 60 % | 負荷の2乗で増える |
| 鉄損 | 1.4 kW | 22 % | ほぼ一定 |
| 二次銅損 | 1.08 kW | 17 % | 負荷の2乗で増える |
| 合計 | 6.28 kW | 100 % | — |
一次銅損が全損失の6割を占めているのが目立ちます。二次銅損の3.5倍——一次巻線の抵抗が二次側より大きい設計だということです。
効率85 % というのは、35 kW クラスの誘導電動機としてはやや低めです。この容量なら90 % を超えるのが普通——問題の数値は計算しやすさを優先して選ばれているのでしょう。
それでも、損失の構成比を読む練習にはなります。「どの損失が支配的か」が分かれば、効率を上げるにはどこに手を付ければよいかも見えてくる——本問なら一次巻線を太くするのが最も効果的だということになります。
⏱️ 本番での進め方
① 黄金比が使えるのは二次側の3兄弟だけ。鉄損・一次銅損は足し算で処理。
② 出力→損失は s/(1−s)(小さくなる)、損失→出力は (1−s)/s(大きくなる)。
③ (a)の答えは四捨五入前の値を(b)へ渡す。
④ 検算は二次入力から:P2=34.8/0.97=35.88、sP2=1.076 ✓
「機械損は無視できる」という条件が消しているもの
問題文の但し書き「機械損は無視できるものとする」——この一文がなければ、(b)の答えが変わります。何を消しているのかを確認しておきましょう。
| 機械損を無視する場合(本問) | 機械損がある場合 | |
| 34.8 kW の意味 | 機械出力=軸出力 | どちらか一方(問題文が指定) |
| パワーフローの段数 | 4段(一次入力→二次入力→機械出力) | 5段(さらに軸出力へ) |
| 一次入力の計算 | 出力+3つの損失 | 出力+4つの損失 |
機械損は軸受の摩擦や冷却ファンの風損で、機械出力の外側で失われる損失です。本問ではこれをゼロと置いているので、回転子で生まれた機械エネルギーがそのまま軸から出てくることになります。
実機では、35 kW クラスなら機械損が0.3〜0.7 kW 程度あります。もしこれを考慮すれば、一次入力はさらに0.5 kW ほど大きくなる——答えが選択肢(3)42.2 に近づいてしまいます。条件文を読み飛ばすと、正解の隣に着地するという構図です。
(a)の答えを(b)に渡すときの丸め
本問は(a)の結果を(b)で使います。そのとき、選択肢の値(1.08)ではなく計算値(1.076)を使うのが安全です。
41.08 ⇒ 選択肢(2)41.1
同じ ⇒ 問題なし
本問ではどちらでも同じ答えになりますが、選択肢が近接している問題では差が出ることがあります。「途中結果は丸めない」——B問題を解くときの基本姿勢です。
とくに危ないのは、割り算が続く場合です。1回ごとに3桁で丸めていくと、3回も繰り返せば1 % 近い誤差が積み上がります——選択肢が5 % 刻みなら影響しませんが、1 % 刻みなら答えが変わりかねません。
実務的には、電卓のメモリ機能を使って計算値を保持するのが確実です。紙に書くときも、丸めた値と計算値を並べて書いておく——「1.076(≒1.08)」のように残しておけば、後で迷いません。
💡 覚え方
パワーフローは「一次入力 →(鉄損・一次銅損)→ 二次入力 →(二次銅損)→ 機械出力」。黄金比 1:(1−s):s が使えるのは二次側だけで、一次側の損失は足し算・引き算。二次銅損は出力よりずっと小さいので、倍率の向きは大小関係で確認できる。
⚠️ よくある間違い
倍率を逆にして (1−s)/s を掛けるのが典型です。二次銅損が出力より大きくなったら、その時点で誤り——滑り3 % なら二次銅損は出力の約3 %です。もう一つは鉄損や一次銅損を黄金比に混ぜてしまうこと。黄金比は二次側だけの関係です。

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