今回は令和5年度下期 電力科目 A問題5を解説します。さまざまな分散型電源——太陽電池・逆潮流対策・小水力・洋上風力の直流送電・燃料電池——について誤っているものを選ぶ問題です。
ねらいは燃料電池の「吸熱反応」という一語。水素と酸素の反応は発熱反応です。そもそも排熱を給湯に使える(コージェネ)のが燃料電池の売りなのだから、吸熱では話が合いません。
出題のポイント:分散型電源と燃料電池

太陽電池、小水力、洋上風力、燃料電池などの分散型電源では、変換方式や系統連系上の対策を整理します。燃料電池は水素と酸素から水ができる発熱反応を利用し、電気化学反応から直接電力を取り出します。
令和5年度下期 電力科目 A問題5:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題5
電験3種 電力科目 【新エネルギー】 令和5年度下期 A問題5
分散型電源に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
太陽電池で発生した直流の電力を交流系統に接続する場合は、インバータにより直流を交流に変換する。連系保護装置を用いると、系統の停電時などに電力の供給を止めることができる。
分散型電源からの逆潮流による系統電圧上昇を抑制する手段として、分散型電源の出力抑制や、電圧調整器を用いた電圧の制御などが行われる。
小水力発電では、河川や用水路などでの流込み式発電が用いられる場合が多い。
洋上の風力発電所と陸上の系統の接続では、海底ケーブルによる直流送電が用いられることがある。直流送電では、ケーブルを用いて送電する場合でも、定常的な充電電流が流れないため、その補償が不要である。
一般的な燃料電池発電は、水素と酸素との吸熱反応を利用して電気エネルギーを作る発電方式であり、負荷変動に対する応答が早い。
分散型電源4方式の系統連系と送電

「水素と酸素との吸熱反応」——発熱反応です。
★熱が出る
水素1 mol あたり286 kJ の熱が出ます——燃焼でも燃料電池でも同じ値です。
そのうち電気として取り出せるのが237 kJ——残りが熱になります。
★83 %
理論上は83 % まで電気にできる——実際は40〜60 % にとどまります。
それでも火力の43 % より高い——カルノー効率の制約を受けないからです。
燃料電池は水素と酸素の発熱反応を利用する

本問の(4)には、直流送電の利点が具体的に書かれています。
| ★交流ケーブル | ★直流ケーブル | |
| ★充電電流 | ★静電容量に応じて常に流れる | ★流れない |
| ★補償 | ★分路リアクトルが必要 | ★不要 |
| ★送れる距離 | ★数十 km が限界 | ★制限がない |
ケーブルは架空線の数十倍の静電容量を持ちます——導体と外皮がすぐ近くにあるからです。
長くなるほど充電電流が増え、送れる電力を食いつぶす——だから分路リアクトルで打ち消します。
直流なら f=0 なので、Ic もゼロ——補償装置が要らないのです。
洋上風力の連系に直流が使われるのは、この一点による——問題文の(4)は正しい記述になります。
令和3年度とほぼ同じ問題
| ★令和3年度 A6 | ★令和5年度下期 A5(本問) | |
| (1)(2)(3)(5) | ★同一の文 | ★同一の文 |
| ★(4)の後半 | ★「誘電損を考慮しなくてよい」 | ★「充電電流が流れないため補償が不要」 |
| 誤りの記述 | ★(5) | ★(5) |
直流送電の利点を、別の角度から述べているだけ——どちらも正しい記述です。
誤りの箇所も答えも同じ——2年を隔てた再出題になります。
⚠️ よくある間違い
(5)の後半「負荷変動に対する応答が早い」だけを見て正しいと判断する——そこは正しいのです。誤りは「吸熱反応」の1語。
水素が燃えて熱が出るのは当たり前——化学の基本に立ち返れば分かります。
(4)の「充電電流が流れない」を疑ってしまう——直流では周波数がゼロなので流れません。
(3)の「出力抑制」を疑ってしまう——実際に行われています。
(1)の「インバータ」を疑ってしまう——直流→交流はインバータで正しい。
専門用語が並ぶ(3)(4)より、基本的な(5)のほうが誤っている——難しそうな記述ほど正しいことが多いのです。
⏱️ 本番での進め方
①★燃料電池は発熱反応。吸熱では発電にならない。
②★理論効率は237/286=83 %。実際は40〜60 %。
③★直流は f=0 なので充電電流Ic=2πfCV もゼロ。
④令和3年度A6とほぼ同一問題。答えも(5)。
💡 覚え方
「水素が燃えれば熱が出る」——吸熱と書いてあれば誤りです。直流に周波数はないので、充電電流も誘電損もゼロ——1つの原因から2つの利点が出ます。
ほぼ同一の問題が令和3年度 A問題6(新エネルギー:分散型電源)にあります。
(1)(2)(3) 分散型電源の系統連系
3つの記述は、いずれも連系のための仕組みです。
| 記述 | 装置・手段 | 目的 |
| (1) | インバータ | ★直流を系統の交流に合わせる |
| (2) | 連系保護装置 | ★停電時に切り離す(単独運転防止) |
| (3) | 出力抑制・電圧調整器 | ★逆潮流による電圧上昇を抑える |
配電系統は、上流から下流へ流すものとして作られました——逆流は想定外だったのです。
だから後から仕組みを足していく必要がある——3つとも、そのための工夫になります。
なぜ逆潮流で電圧が上がるのか
ふつうは需要家へ流れるので、末端ほど電圧が下がります。
太陽光から逆に流れれば、その分だけ電圧が上がる——符号が逆になるからです。
低圧は101±6 V に保つ義務がある——上限を超えると法令違反になります。
だから出力を絞るか、変圧器のタップを変えるか——いずれかの対策が要ることになります。
要点をもう一度
令和3年度とほぼ同じ問題で、答えも同じ(5)です。
| 記述 | 話題 | 正誤 |
| (1) | インバータ | 正 |
| (2) | 連系保護装置 | 正 |
| (3) | 逆潮流と電圧上昇 | 正 |
| (4) | 小水力・直流送電の充電電流 | 正 |
| ★(5) | ★燃料電池 | ★誤(吸熱→発熱) |
(4)は専門的で長いが正しい——むしろ基本的な(5)が誤っています。
難しそうな記述ほど正しいことが多い——作問者が丁寧に書いているからです。
分路リアクトルという装置
(4)の「補償」が何を指すか、触れておきましょう。
交流ケーブルの充電電流は、進み位相の無効電流です。
それを打ち消すには、遅れ位相の無効電流が要ります——それが分路リアクトルになります。
ケーブルの静電容量に対して、コイルを並列に入れる——互いに打ち消し合うのです。
直流ならこの装置がまるごと不要——設備も費用も減ります。
燃料電池の応答が速い理由
(5)の後半「負荷変動に対する応答が早い」は正しい記述です。
| 電源 | 出力変化にかかる時間 | 制約 |
| 汽力発電 | 数十分 | ★ボイラの熱容量 |
| ガスタービン | 数分 | 回転体の慣性 |
| ★燃料電池 | ★数秒 | ★燃料の供給量だけ |
回転する部分も、温める部分もありません——水素を送る量を変えれば、すぐ出力が変わるのです。
ただし改質器を使う場合は、そちらに時間がかかります——家庭用の起動には1時間ほど要することも。
純水素なら本当に数秒——燃料電池自動車が実用になる理由です。
負荷追従という言葉
電力は貯められないので、需要に合わせて発電します。
その追従の速さが、電源の価値を決める1つの尺度——速い電源は調整力として重宝されます。
燃料電池は分散型でありながら調整力にもなれる——太陽光や風力にはない性質です。
小水力発電の位置づけ
(4)の前半にある小水力を、あらためて見ましょう。
| ★小水力 | 大規模水力 | |
| ★出力 | ★1,000 kW 以下 | ★数万〜数十万 kW |
| ★方式 | ★流込み式が多い | ★貯水池式・調整池式 |
| ★設置場所 | ★用水路・上下水道・小河川 | ★ダム |
| ★設備利用率 | ★60 % 前後 | ★45 % 前後 |
小水力は貯めない代わりに、年間を通じて安定して発電します——設備利用率はむしろ高いのです。
用水路なら流量が管理されているので、さらに安定します——農業用水路への設置例が増えました。
ダムを造らないので環境への影響も小さい——分散型電源として扱われる理由です。
太陽光や風力と違い、夜も雨の日も発電し続ける——系統にとって扱いやすいことになります。
まとめ
| (1)太陽電池 | インバータで交流化・連系保護装置で停電時停止→正しい |
| (2)逆潮流対策 | 出力抑制・電圧調整器で電圧上昇を抑制→正しい |
| (3)小水力 | 流込み式が多い→正しい |
| (4)直流送電 | 充電電流が流れず補償不要→正しい |
| (5)燃料電池 | 発熱反応(吸熱ではない)→誤り。答えは(5) |
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