今回は令和2年度 電力科目 A問題14、コンデンサ・電力ケーブル・変圧器などに使用される絶縁油の誤り選択問題です。誘電正接・熱特性・種類・油中ガス分析が問われます。
決め手は誘電正接(tanδ)。誘電正接が大きいと誘電体損(発熱)が大きくなるため、変圧器・電力ケーブル・コンデンサいずれの用途でも誘電正接は小さいものが適します。「コンデンサでは大きいものが適する」は誤りです。
誤りは(1):コンデンサでも誘電正接は小さいほうがよい
「コンデンサに使用する場合には大きいものが適している」——用途によらず小さいほうがよいのです。
| 機器 | 誘電正接が大きいと | 望ましい方向 |
| ★変圧器 | ★★油が発熱して劣化が進む | ★★小さいほうがよい |
| ★電力ケーブル | ★★誘電体損が増えて許容電流が下がる | ★★小さいほうがよい |
| ★コンデンサ | ★★同じく発熱して損失になる | ★★小さいほうがよい |
誘電正接は、絶縁物がどれだけ発熱するかを表す量です——どの機器でも損失でしかありません。
コンデンサは無効電力を出す機器ですが、損失は別の話——発熱すればそれだけ無駄です。
しかもコンデンサは常時電圧がかかっています——誘電損が絶えず生じるのです。
だから小さい絶縁油が求められます——用途で向きが変わることはないのです。
「片方だけ逆」と書いてあれば疑うこと——物理量の向きは用途で変わりません。
令和2年度 電力科目 A問題14:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和2年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題14
電験3種 電力科目 【電気材料】 令和2年度 A問題14
我が国のコンデンサ、電力ケーブル、変圧器などの電力用設備に使用される絶縁油に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 絶縁油の誘電正接は、変圧器、電力ケーブルに使用する場合には小さいものが、コンデンサに使用する場合には大きいものが適している。
(2) 絶縁油には、一般に熱膨張率、粘度が小さく、比熱、熱伝導率が大きいものが適している。
(3) 電力用設備の絶縁油には、一般に古くから鉱油系絶縁油が使用されているが、難燃性や低損失性など、より優れた特性が要求される場合には合成絶縁油が採用されている。また、環境への配慮から植物性絶縁油の採用も進められている。
(4) 絶縁油は、電力用設備内を絶縁するために使用される以外に、絶縁油の流動性を利用して電力用設備内で生じた熱を外部へ放散するために使用される場合がある。
(5) 絶縁油では、不純物や水分などが含まれることにより絶縁性能が大きく影響を受け、部分放電の発生によって分解ガスが生じる場合がある。このため、電力用設備から採油した絶縁油の水分量測定やガス分析等を行うことにより、絶縁油の劣化状態や電力用設備の異常を検知することができる。

(2) 絶縁油に求められる性質
| 性質 | 望ましい方向 | 理由 |
| ★絶縁破壊電圧 | ★★高い | ★絶縁が本来の役目 |
| ★誘電正接 | ★★小さい | ★発熱を減らす |
| ★熱膨張率 | ★★小さい | ★★温度で体積が変わりにくい |
| ★粘度 | ★★小さい | ★★流れやすく対流で熱を運べる |
| ★比熱 | ★★大きい | ★★熱を多く蓄えられる |
| ★熱伝導率 | ★★大きい | ★★熱を速く伝える |
粘度が小さいほど、対流が起きやすくなります——だから熱がよく運ばれるのです。
比熱と熱伝導率は、どちらも大きいほうがよい——冷却材としての性能です。
熱膨張率が小さければ、体積の変化が少なくて済みます——コンサベータが小さくできるのです。
絶縁と冷却の両方が求められる——だから性質の数も多くなります。
(5) 絶縁油から機器の異常が分かる
| 測るもの | 分かること | 異常の例 |
| ★水分量 | ★★吸湿の程度 | ★★絶縁破壊電圧の低下 |
| ★水素・メタン | ★★過熱が起きている | ★接触不良・局部過熱 |
| ★アセチレン | ★★アーク放電が起きている | ★★重大な内部故障 |
| ★一酸化炭素 | ★★絶縁紙が劣化している | ★寿命が近い |
油に溶けたガスの種類から、異常の種類が推測できます——それぞれ生じる温度が違うから。
アセチレンは特に高温でしかできません——だからアーク放電の証拠になります。
油を採取するだけなので、運転を止めずに測れます——それが大きな利点です。
変圧器の健康診断のような役目——壊れる前に気づけるのです。
⚠️ よくある間違い
(1)の「変圧器、電力ケーブルには小さいものが」を見て全体を正しいと判断する——そこは正しいのです。誤りは「コンデンサには大きいものが」。
誘電正接は損失を表す量です——用途によらず小さいほうがよい。
(2)の熱的性質を疑ってしまう——粘度小・比熱大・熱伝導率大が冷却に有利。
(3)の油の種類を疑ってしまう——鉱油→合成油→植物油という流れ。
(5)の油中ガス分析を疑ってしまう——異常の検知に使えます。
「片方だけ逆」と書いてあれば疑う——物理量の向きは用途で変わりません。
⏱️ 本番での進め方
①★誘電正接はどの機器でも小さいほうがよい。
②★絶縁油は粘度小・比熱大・熱伝導率大が望ましい。
③★熱膨張率も小さいほうがよい。
④★油中ガス分析でアセチレンが出ればアーク放電。
💡 覚え方
「損失は誰にとっても損」——誘電正接は用途によらず小さいほうがよいのです。「片方だけ逆」という書き方を疑う——それがこの型への備えになります。
絶縁油の空欄補充は令和4年度下期 A問題14(電気材料:絶縁油の性質)にあります。
(3) 絶縁油の3種類
用途と時代で使い分けられています。
| 種類 | 特徴 | 採用の理由 |
| ★鉱油系 | ★★石油を精製したもの。安価 | ★★古くからの標準 |
| ★合成絶縁油 | ★★難燃性・低損失性に優れる | ★★より高い性能が要る場合 |
| ★植物性絶縁油 | ★★生分解性が高い | ★★環境への配慮 |
難燃性は、火災の危険を減らすための性質です——建物の中に置く機器では重要。
低損失性は、誘電正接が小さいということ——発熱が少なくて済むのです。
植物性は、漏れたときに土壌で分解されます——性能ではなく環境が理由です。
問題文の(3)は、この3つの流れを正確に述べています。
(4) 絶縁油が熱を運ぶしくみ
流動性があることが、冷却材としての値打ちです。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★巻線や鉄心で発生した熱が油に伝わる |
| ★② | ★★温まった油は軽くなり上へ動く |
| ★③ | ★★放熱器(ラジエータ)で冷やされる |
| ★④ | ★★冷えて重くなった油が下へ戻る |
ポンプがなくても、温度差だけで循環します——それが自然循環(対流)です。
粘度が小さいほど、この循環が起きやすくなります——だから(2)が「粘度が小さい」を挙げるのです。
大容量の変圧器では、ポンプで強制循環させます——送油風冷式と呼ばれます。
絶縁と冷却を1つの液体が担う——それが絶縁油の大きな価値です。
誘電正接が劣化の指標になる
(1)で問われた量は、診断にも使われます。
| 絶縁油の状態 | tanδ | 判定 |
| ★新油 | ★★きわめて小さい | ★良好 |
| ★吸湿した | ★★大きくなる | ★要注意 |
| ★酸化・汚染が進んだ | ★★さらに大きくなる | ★★交換や再生が必要 |
不純物や水分が混じると、抵抗分の電流が増えます——それが tanδ の増加として表れるのです。
だから測るだけで、汚染の程度が分かります——総合的な指標になります。
しかも tanδ が大きいと発熱も増えます——劣化がさらに進む悪循環です。
損失を表す量が、そのまま診断にも使える——だから重要視されるのです。
絶縁油が劣化していく道すじ
(5)の異常検知が必要になる背景です。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★熱と酸素により油が酸化する |
| ★② | ★★酸価が上がり、スラッジができる |
| ★③ | ★★スラッジが冷却の通り道をふさぐ |
| ★④ | ★★温度が上がり酸化がさらに進む |
劣化が発熱を生み、発熱が劣化を進めます——放っておくと加速するのです。
水分が入れば、絶縁破壊電圧が急に下がります——最も敏感に効く要因です。
だから定期的に油を採取して測ります——水分量・酸価・tanδ・ガス。
基準を外れたら、油の交換や再生を行います——機器そのものは使い続けられるのです。
絶縁油を使う機器
問題文が3つの機器を挙げているのはなぜでしょうか。
| 機器 | 絶縁油の役目 | とりわけ重要な性質 |
| ★変圧器 | ★★絶縁と冷却の両方 | ★★粘度・比熱・熱伝導率 |
| ★電力ケーブル(OF) | ★★絶縁紙に含ませて絶縁 | ★★誘電正接・絶縁破壊電圧 |
| ★コンデンサ | ★★絶縁と静電容量の確保 | ★★誘電正接 |
変圧器では冷却も担うので、熱的な性質が効きます——粘度が小さく熱を運べること。
ケーブルとコンデンサでは、損失の小ささが重要——常時電圧がかかっているから。
だからどの機器でも誘電正接は小さいほうがよい——用途で向きは変わりません。
3つを並べたのは、その共通点を問うため——1つだけ逆に書いたのが誤りでした。
まとめ
| 誤り | (1) 誘電正接は全用途で小さい方がよい |
| 熱特性 | 熱膨張率小・熱伝導率大(2) |
| 種類 | 鉱油→合成油→植物油(3) |
| 冷却 | 流動性で熱放散(4) |
| 診断 | 油中ガス分析(5) |
| 答え | (1) |
▼あわせて解きたい関連問題
・絶縁油の性質(電気材料7):【電力】令和4年度下期 A問題14
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