今回は平成25年度 電力科目 A問題10、地中電線の損失の誤り選択問題です。誘電体損の定義を位相の観点から正確に理解しているかがズバリ問われます。
絶縁体に流れる電流は2成分に分解できます:電圧より90°進んだ充電電流成分(損失ゼロ)と、電圧と同位相の成分(これが誘電体損を生む)。同位相成分と充電成分の比が誘電正接tanδ。「90°進んだ成分により発生」は無損失の成分を犯人にした誤りです。
平成25年度 電力科目 A問題10:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成25年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題10
電験3種 電力科目 【地中送電】 平成25年度 A問題10
地中電線の損失に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 誘電体損は、ケーブルの絶縁体に交流電圧が印加されたとき、その絶縁体に流れる電流のうち、電圧に対して位相が90〔°〕進んだ電流成分により発生する。
(2) シース損は、ケーブルの金属シースに誘導される電流による発生損失である。
(3) 抵抗損は、ケーブルの導体に電流が流れることにより発生する損失であり、単位長当たりの抵抗値が同じ場合、導体電流の2乗に比例して大きくなる。
(4) シース損を低減させる方法として、クロスボンド接地方式の採用が効果的である。
(5) 絶縁体が劣化している場合には、一般に誘電体損は大きくなる傾向がある。

誤りは(1):損失を生むのは同相の成分
「電圧に対して位相が90度進んだ電流成分により発生する」——それでは損失になりません。
| 電流の成分 | 位相 | 電力 | 呼び方 |
| ★容量分 | ★★電圧より90度進み | ★★ゼロ(無効) | ★充電電流 |
| ★抵抗分 | ★★電圧と同相 | ★★発生する(有効) | ★★これが誘電体損 |
電力は、電圧と電流の同相成分の積で決まります——90度ずれていれば平均はゼロです。
だから90度進んだ成分では、損失は生じません——行ったり来たりするだけだから。
絶縁体がわずかに抵抗を持つので、同相成分が生じます——それが熱になるのです。
問題文は、無効な成分を損失の原因と書いています——そこが誤りになります。
地中電線の3つの損失
| 損失 | どこで生じるか | 原因 | 式 |
| ★抵抗損 | ★導体 | ★電流が抵抗を流れる | ★★I²R(電流の2乗に比例) |
| ★誘電体損 | ★絶縁体 | ★★交流電圧による分極の繰り返し | ★★ωCV²tanδ(電圧の2乗に比例) |
| ★シース損 | ★★金属シース | ★導体電流が誘導する電流 | ★シース回路の抵抗による |
抵抗損は電流で決まり、誘電体損は電圧で決まります——まったく別の量です。
だから無負荷でも誘電体損は生じます——電圧がかかっているだけで熱くなるのです。
コロナ損が電圧で決まるのと同じ構図——常時の損失になります。
(5)のとおり、劣化すると tanδ が大きくなります——だから誘電体損も増えるのです。
(2)(4) シース損とクロスボンド接地
| 段階 | 起きること |
| ① | ★導体に交流電流が流れる |
| ★② | ★★金属シースに電圧が誘導される |
| ★③ | ★両端を接地していると回路ができて電流が流れる |
| ★④ | ★★シースの抵抗で熱になる(シース損) |
シースは接地しなければ危険です——誘導電圧で人が触れると感電するから。
けれども両端を接地すると、電流が流れて損失になります——そこが悩ましいところです。
クロスボンド接地という工夫
3相のシースを、区間ごとに入れ替えてつなぎます。
3区間で1周すると、3相の誘導電圧が打ち消し合います——ベクトル和がゼロになるのです。
だから電流が流れず、シース損が減ります——接地はしたままなので安全も保てる。
ねん架と同じ発想を、シースに使ったもの——だから(4)は正しいのです。
⚠️ よくある間違い
(1)の「絶縁体に流れる電流」までは正しい——誤りは「90度進んだ電流成分」。損失を生むのは同相成分です。
90度ずれた電流では電力の平均がゼロ——無効電流だから。
(2)のシース損を疑ってしまう——誘導される電流による損失で正しい。
(3)の抵抗損を疑ってしまう——電流の2乗に比例します。
(4)のクロスボンド接地を疑ってしまう——シース損の低減に有効です。
「進み」「同相」という語を拾う——損失は同相成分から生じます。
⏱️ 本番での進め方
①★誘電体損を生むのは電圧と同相の電流成分。
②★90度進んだ成分は無効で損失にならない。
③★Wd=ωCV²tanδ。電圧の2乗に比例し無負荷でも生じる。
④★クロスボンド接地は3相の誘導電圧を打ち消す。
💡 覚え方
「同相だけが仕事をする」——90度ずれた電流は熱を出しません。抵抗損は電流、誘電体損は電圧——決まる量が違います。
tanδによる絶縁診断は平成20年度 A問題11(地中送電:絶縁劣化診断)にあります。
(3) 抵抗損と表皮効果
ケーブルでも、交流では抵抗が増えます。
| 効果 | 内容 | 影響 |
| ★表皮効果 | ★★電流が導体の外側に偏る | ★実効抵抗が増える |
| ★近接効果 | ★★隣の導体の磁界で電流分布が偏る | ★★さらに抵抗が増える |
ケーブルは3心が近いので、近接効果も無視できません——架空線より距離が近いから。
だから直流抵抗より、交流での実効抵抗は大きくなります——数%から十数%。
問題文の「単位長当たりの抵抗値が同じ場合」はその前置き——条件をそろえているのです。
そのうえで、電流の2乗に比例します——だから(3)は正しいことになります。
(5) 劣化すると誘電体損が増える
tanδ が大きくなることの意味を追いましょう。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★絶縁体が吸湿・劣化する |
| ★② | ★★抵抗分の電流が増え tanδ が大きくなる |
| ★③ | ★★誘電体損が増えて発熱する |
| ★④ | ★★温度が上がってさらに劣化が進む |
劣化が発熱を生み、発熱がさらに劣化を進めます——正のはたらきかけが続くのです。
これが進むと熱暴走に至ることがあります——絶縁破壊の一因です。
だから tanδ を測って劣化を早く見つけます——それが誘電正接法という診断。
損失の話と診断の話が、同じ量でつながっています。
誘電体損が問題になる電圧階級
どの電圧から効いてくるのでしょうか。
| 電圧 | 誘電体損 | 全損失に占める割合 |
| ★6.6 kV | ★ごくわずか | ★★無視できる |
| ★66 kV | ★100倍 | ★数% |
| ★275 kV | ★★1,700倍 | ★★無視できない |
電圧の2乗なので、階級が上がると急に大きくなります——6.6 kV と275 kV では1,700倍。
だから超高圧のケーブルでは、tanδ の小さい材料を選びます——架橋ポリエチレンがそれです。
油浸紙より tanδ が小さく、誘電体損が少ない——それも主流になった理由。
低圧の配電ケーブルでは、まず問題になりません——電圧が低いからです。
シース損を減らす3つの接地方式
(4)のクロスボンド接地と、他の方式を比べましょう。
| 方式 | 接地のしかた | シース損 | シース電位 |
| ★両端接地 | ★両端を大地につなぐ | ★★大きい | ★★ゼロで安全 |
| ★片端接地 | ★★片方だけ接地する | ★★ゼロ | ★★開放端に電圧が現れる |
| ★★クロスボンド接地 | ★★3区間で入れ替えて接続する | ★★ほぼゼロ | ★★低く抑えられる |
両端接地は安全ですが、電流が流れて損失になります——安全と効率が両立しません。
片端接地なら電流は流れませんが、反対端に電圧が出ます——触れれば危険です。
クロスボンド接地は、その両方を解決します——3相の誘導電圧を打ち消すから。
だから長い線路では標準的に使われます——ねん架と同じ発想です。
まとめ
| 誤り | (1) 誘電体損は同位相成分で発生(90°進みは充電電流) |
| tanδ | 同位相成分/充電成分=損失・劣化の指標 |
| シース損 | 誘導電流(2)・クロスボンドで低減(4) |
| 抵抗損 | I²R——電流の2乗に比例(3) |
| 劣化 | tanδ増→誘電体損増(5) |
| 答え | (1) |
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