今回は平成20年度 電力科目 A問題10、がいしの塩害と対策の誤り選択問題です。この問題は令和6年度下期A問題8(架空送電6)として選択肢の並びを変えて再出題されました(H20=(5)・R06下=(4)が誤り)——16年越しの再登場です。
誤りの作りは同じ:正しい対策(洗浄・はっ水性物質の塗布)に「絶縁電線の採用」という無関係な対策を抱き合わせるパターン。絶縁電線は導体の被覆の話で、がいし表面の汚損フラッシオーバは防げません。
平成20年度 電力科目 A問題10:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題10
電験3種 電力科目 【架空送電】 平成20年度 A問題10
送配電線路や変電所におけるがいしの塩害とその対策に関する記述として、誤っているのは次のうちどれか。
(1) がいしの塩害による地絡事故は、雷害による地絡事故と比べて再閉路に失敗する場合の割合が多い。
(2) がいしの塩害は、フラッシオーバ事故に至らなくても可聴雑音や電波障害の原因にもなる。
(3) がいしの塩害発生は、海塩等の水溶性電解質物質の付着密度だけでなく、塵埃などの不溶性物質の付着密度にも影響される。
(4) がいしの塩害に対する基本的な対策は、がいしの沿面距離を伸ばすことや、がいし連の直列連結個数を増やすことである。
(5) がいしの塩害対策として、絶縁電線の採用やがいしの洗浄、がいし表面へのはっ水性物質の塗布等がある。

誤りは(5):架空送電線は裸電線
「絶縁電線の採用」——がいしの塩害対策にはなりません。
| ★架空送電線 | ★配電線の一部 | |
| ★電線の種類 | ★★裸電線(ACSR) | ★絶縁電線 |
| ★絶縁を担うもの | ★★がいしと空気 | ★被覆+がいし |
| ★塩害の対象 | ★がいしの表面 | ★同じ |
送電線は裸電線なので、絶縁電線に替えることはできません——重くなり、コロナも増えるからです。
そもそも塩害はがいしの表面で起きます——電線を絶縁しても解決しないのです。
問題文の後半「がいしの洗浄、はっ水性物質の塗布」は正しい——誤りは「絶縁電線の採用」だけになります。
1つの記述に正しい対策と誤った対策が混ざっている——最後まで読む必要があります。
(1) 塩害の再閉路が失敗しやすい理由
雷害と塩害では、事故の性質が違います。
| ★雷害 | ★塩害 | |
| ★原因 | ★一瞬の雷サージ | ★★付着した塩分(残り続ける) |
| ★遮断後 | ★★原因が消えている | ★★原因が残っている |
| ★再閉路 | ★★成功しやすい | ★★失敗しやすい |
雷は一瞬で去るので、切れば絶縁が回復します——だから再閉路で復旧できるのです。
塩分は付いたまま残ります——再投入すればまたフラッシオーバすることになります。
だから塩害では再閉路が失敗しやすい——問題文の(1)は正しいのです。
洗浄するまで復旧しないこともあります——だから広域・長時間の停電になりやすいのです。
(3) 不溶性物質も効く
| 物質 | 例 | 役割 |
| ★水溶性電解質 | ★海塩(塩化ナトリウム) | ★★溶けて導電性を持つ |
| ★不溶性物質 | ★塵埃・煤煙・セメント粉 | ★★水分を保持し塩分を留める |
塩分だけなら、乾けば導電性を失います——けれども塵埃があると水分が残ります。
スポンジのように湿気を蓄えるので、漏れ電流が続く——だから塩害が悪化するのです。
工業地帯では、塩分が少なくても汚損が進みます——不溶性物質が主役になることになります。
| 分類 | 具体策 | 考え方 |
| ★絶縁を強める | ★連結個数を増やす・耐塩がいし・長幹がいし | ★沿面距離を稼ぐ |
| ★塩分を除く | ★活線洗浄・停止洗浄 | ★付いたものを流す |
| ★塩分を寄せつけない | ★はっ水性物質の塗布・シリコーンゴム | ★水膜を作らせない |
| ★立地で避ける | ★海岸から離れたルート選定 | ★そもそも付着させない |
(4)の「沿面距離を伸ばす」「連結個数を増やす」は基本対策——絶縁を強める方向です。
⚠️ よくある間違い
(5)の「がいしの洗浄」「はっ水性物質」を見て正しいと判断する——その2つは正しいのです。誤りは「絶縁電線の採用」。
架空送電線は裸電線——絶縁電線に替える選択肢がありません。
(1)の再閉路の話を疑ってしまう——塩分が残るので失敗しやすいで正しい。
(2)の可聴雑音・電波障害を疑ってしまう——漏れ電流による放電で生じます。
(3)の不溶性物質を疑ってしまう——水分を保持して塩害を悪化させます。
1つの記述に複数の対策が並ぶときは、1つずつ確かめることです。
⏱️ 本番での進め方
①★架空送電線は裸電線。絶縁電線は塩害対策にならない。
②★塩害は原因が残るので再閉路が失敗しやすい。
③★不溶性物質は水分を保持して塩害を悪化させる。
④基本対策は沿面距離を伸ばす・連結個数を増やす。
💡 覚え方
「塩は残る、雷は去る」——だから再閉路の成否が分かれます。送電線は裸電線——絶縁電線という対策は存在しません。
塩害対策の空欄補充は令和3年度 A問題10(架空送電:がいしの塩害)にあります。
塩害停電の広がり方
(1)の再閉路失敗が、被害を大きくします。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★台風で広範囲のがいしに塩分が付着する |
| ★② | ★複数の送電線で同時にフラッシオーバする |
| ★③ | ★★再閉路しても塩分が残っているので再び事故 |
| ★④ | ★永久事故として切り離される |
| ★⑤ | ★★洗浄するまで復旧できず広域停電が長引く |
雷なら1か所で済みますが、塩害は広範囲で同時に起きます——台風が一帯を通過するからです。
しかも再閉路が効かないので、次々に系統を失います——波及して大規模停電になるのです。
1977年の台風9号では、関東一円が停電しました——まさにこの経過をたどったのです。
だから台風接近前の予防洗浄が重要になります——起きてからでは手遅れだからです。
要点をもう一度
誤りは(5)の「絶縁電線の採用」だけです。
| 記述 | 内容 | 正誤 |
| (1) | 塩害は再閉路に失敗しやすい | 正 |
| (2) | 可聴雑音や電波障害の原因にもなる | 正 |
| (3) | 不溶性物質の付着密度にも影響される | 正 |
| (4) | 沿面距離・連結個数を増やす | 正 |
| ★(5) | ★絶縁電線の採用 | ★誤(送電線は裸電線) |
(5)の後半「洗浄」「はっ水性物質」は正しい——誤りは最初の一句だけです。
1つの記述に複数の対策が並ぶときは、1つずつ確かめる——それが解き方になります。
なぜ架空送電線は裸電線なのか
| 観点 | 裸電線の理由 |
| ★重量 | ★被覆があると重く、鉄塔の負担が増える |
| ★放熱 | ★裸のほうが冷えやすく許容電流が大きい |
| ★費用 | ★長距離なので被覆の費用が膨大になる |
| ★絶縁 | ★★がいしと空気で十分に確保できる |
高い位置にあり、人が触れることもありません——被覆する必要がないのです。
だから「絶縁電線の採用」という選択肢がそもそも存在しない——そこが誤りの根拠になります。
塩害による可聴雑音
(2)の記述を、コロナの雑音と比べましょう。
| ★コロナによる雑音 | ★塩害による雑音 | |
| ★発生場所 | ★電線の表面 | ★★がいしの表面 |
| ★原因 | ★電界の集中 | ★★漏れ電流による部分放電 |
| ★起きやすい天候 | ★雨天 | ★★霧・小雨 |
| ★対策 | ★多導体化 | ★洗浄・はっ水 |
どちらもジージーという音ですが、原因が違います——だから対策も違うのです。
塩害では、乾いた部分と濡れた部分の境目で放電します——局部的なアークになります。
その放電が電波も出すので、受信障害にもつながります——問題文の(2)が正しい理由です。
フラッシオーバに至らなくても障害になる——そこが本問の指摘になります。
活線洗浄という対策
(5)の「がいしの洗浄」を具体的に見ましょう。
| 項目 | 内容 | 注意 |
| ★使う水 | ★純水に近い水 | ★★導電率が高いと逆に閃絡する |
| ★時期 | ★台風接近前・汚損度が基準に達したとき | ★予防的に行う |
| ★方法 | ★ノズルから噴射する | ★停電させずに実施できる |
水道水では不純物が多く、電気を通してしまいます——だから純水を使うのです。
導電率の基準は100 μS/cm 以下など——厳密に管理されます。
台風が来る前に洗っておくのが効果的——塩分が付いてからでは間に合わないから。
停電させずにできるので、供給に影響しません——それが「活線」洗浄の利点です。
ただし一時的な対策なので、繰り返す必要があります——根本的には耐塩がいしへの交換になります。
まとめ
| 誤り | (5) 絶縁電線の採用はがいし塩害対策ではない |
| 再閉路 | 塩害は失敗が多い(雷は成功しやすい)(1) |
| 軽度でも | 可聴雑音・電波障害(2) |
| 汚損指標 | ESDD(水溶性)+NSDD(不溶性)(3) |
| 再出題 | R06下問8(架空送電6)と同一内容・番号違い |
| 答え | (5) |
▼あわせて解きたい関連問題
・同一内容の再出題(架空送電6):【電力】令和6年度下期 A問題8
・多導体の紛れ込み版(架空送電26):【電力】平成27年度 A問題9

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