今回は令和3年度 電力科目 A問題10、がいしの塩害とその対策の空欄補充問題です。塩害のメカニズム(漏れ電流)から、対策(はっ水塗布・直列連結・漏れ距離・長幹がいし)まで、令和6年度下期A問題8(架空送電6)の誤り選択と表裏一体の内容です。
ストーリーで覚えましょう:塩分が付着してぬれると漏れ電流が流れ、雑音・電波障害、やがてフラッシオーバへ。対策ははっ水性物質の塗布、懸垂がいしを直列に増結(過絶縁)、表面漏れ距離を長く、そして雨洗効果の高い長幹がいしの採用です。
令和3年度 電力科目 A問題10:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和3年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題10
電験3種 電力科目 【架空送電】 令和3年度 A問題10
次の文章は、がいしの塩害とその対策に関する記述である。
風雨などによってがいし表面に塩分が付着すると、(ア)が発生することがあり、可聴雑音や電波障害、フラッシオーバの原因となる。これをがいしの塩害という。がいしの塩害対策は、塩害の少ない送電ルートの選定、がいしの絶縁強化、がいしの洗浄、がいし表面への(イ)性物質の塗布が挙げられる。
懸垂がいしにおいて、絶縁強化を図るには、がいしを(ウ)に連結する個数を増やす方法や、がいしの表面漏れ距離を(エ)する方法が用いられる。
また、懸垂がいしと異なり、棒状磁器の両端に連結用金具を取り付けた形状の(オ)がいしは、雨洗効果が高く、塩害に対し絶縁性が高い。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) 漏れ電流 はっ水 直列 長く 長幹 (2) 過電圧 吸湿 直列 短く ピン (3) 漏れ電流 吸湿 並列 短く 長幹 (4) 過電圧 はっ水 並列 長く 長幹 (5) 漏れ電流 はっ水 直列 短く ピン
出題のポイント:塩害の発生機構と4つの対策

がいし表面に付着した塩分が霧や小雨で湿ると導電性の膜ができ、表面に漏れ電流が流れます。対策は、はっ水性物質で水膜を切る、懸垂がいしを直列に増結する、表面漏れ距離を長くする、雨洗効果の高い長幹がいしを使うことです。空欄は順に漏れ電流・はっ水・直列・長く・長幹となり、正解は(1)です。
(ア) 塩害は漏れ電流から始まる

がいしの表面を電流が伝うところから、すべてが始まります。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★風雨で運ばれた塩分ががいし表面に付着する |
| ★② | ★霧や小雨で湿ると、塩分が溶けて導電性を持つ |
| ★③ | ★★表面を漏れ電流が流れる |
| ★④ | ★局所的に乾いた部分で小さな放電が起きる |
| ★⑤ | ★放電が広がってフラッシオーバに至る |
乾いた塩分は電気を通しません——湿って初めて問題になるのです。
だから霧の日や小雨の日が最も危険——大雨なら塩分が洗い流されます。
「過電圧」ではありません——電圧は変わらず、電流が流れることが問題です。
(イ)(ウ)(エ) 3つの対策
(イ) はっ水性物質を塗る
シリコーンコンパウンドなどを表面に塗ります。
| ★はっ水性 | 吸湿性 | |
| ★水の付き方 | ★★玉になってはじく | ★膜になって広がる |
| ★漏れ電流 | ★★流れにくい | ★流れやすい |
| ★塩害対策 | ★★有効 | ★逆効果 |
水が玉になれば、表面がつながりません——だから電流が流れにくいのです。
「吸湿性」では水を吸ってしまいます——まったく逆の効果になります。
(ウ) がいしを直列に連結する
懸垂がいしは、上下につないで数を増やします。
電気的には直列——1個あたりの分担電圧が下がります。
「並列」につなぐことはありません——吊り下げる構造上、直列にしかならないのです。
(エ) 表面漏れ距離を長くする
電流が表面を伝う距離を稼ぎます。
| がいしの種類 | ひだの形 | 表面漏れ距離 |
| ★普通がいし | ★浅いひだ | ★標準 |
| ★耐霧がいし | ★深いひだ | ★1.2倍程度 |
| ★耐塩がいし | ★★さらに深く複雑なひだ | ★★1.5倍以上 |
距離が長いほど、漏れ電流が流れにくくなります——抵抗が大きくなるからです。
「短く」では逆効果——すぐに端から端までつながってしまうのです。
(オ) 長幹がいしの利点
| ★懸垂がいし | ★長幹がいし | |
| ★形 | ★笠を重ねて連結 | ★★棒状の磁器1本 |
| ★雨洗効果 | ★笠の裏が洗われにくい | ★★全体が洗い流される |
| ★塩害 | ★受けやすい | ★★強い |
| ★機械的強度 | ★高い | ★曲げに弱い |
棒状なので、雨が全体を流れ落ちます——塩分が自然に洗われるのです。
懸垂がいしは笠の裏側に塩分が残ります——雨が当たらない場所があるから。
だから海岸沿いでは長幹がいしが使われます——問題文の「雨洗効果が高く」がそれです。
「ピンがいし」は配電用の小型がいし——棒状ではありません。
⚠️ よくある間違い
(ア)を「過電圧」としてしまう——選択肢(2)(4)がそれです。電圧は変わらず、漏れ電流が問題。
(イ)を「吸湿」としてしまう——選択肢(2)(3)。水を吸えば逆効果です。
(ウ)を「並列」としてしまう——選択肢(3)(4)。吊り下げる構造なので直列。
(エ)を「短く」としてしまう——選択肢(2)(3)(5)。長いほど電流が流れにくいのです。
(オ)を「ピン」としてしまう——選択肢(2)(5)。棒状は長幹がいし。
(イ)と(エ)の2欄で(1)に確定できます。
⏱️ 本番での進め方
①★塩害は漏れ電流から始まる。電圧の問題ではない。
②★はっ水性で水を玉にすればつながらない。
③★連結数を増やす(直列)/漏れ距離を長くする。
④★長幹がいしは棒状で雨洗効果が高い。
💡 覚え方
「塩は乾いていれば無害、濡れると通る」——だから霧や小雨が危険です。対策は水をはじくか、距離を稼ぐか——どちらも漏れ電流を止める工夫になります。
活線洗浄装置は平成18年度 A問題4(変電:変電所に設置される機器)にあります。
塩害の地域差
どこでも同じ対策をとるわけではありません。
| 地域 | 汚損等級 | 対策 |
| ★内陸部 | ★軽 | ★標準がいしで足りる |
| ★海岸から数 km | ★中 | ★連結数を増やす |
| ★海岸に近い | ★重 | ★★耐塩がいし・長幹がいし |
| ★工業地帯 | ★中〜重 | ★粉じん・排煙も加わる |
等価塩分付着密度という指標で汚損の程度を表します——mg/cm² で測るのです。
台風の後は、内陸まで塩分が運ばれることがあります——1977年には広範囲で塩害停電が起きました。
だから台風が来る前に活線洗浄を行います——塩分が付く前に流しておくのです。
塩害が起きやすい気象条件
| 条件 | 危険度 | 理由 |
| ★霧・小雨 | ★★最も危険 | ★塩分が溶けるが洗い流されない |
| ★大雨 | ★安全 | ★塩分が洗い流される |
| ★乾燥 | ★安全 | ★塩分が導電性を持たない |
「濡れるが流れない」状態が最も危ない——だから霧の日に事故が起きやすいのです。
要点をもう一度
5つの空欄が、塩害の原理と対策を並べています。
| 空欄 | 答え | 誤答の型 |
| (ア) | ★漏れ電流 | ★過電圧 |
| (イ) | ★はっ水 | ★吸湿 |
| (ウ) | ★直列 | ★並列 |
| (エ) | ★長く | ★短く |
| (オ) | ★長幹 | ★ピン |
すべて「漏れ電流を止める」方向で統一されています——水をはじく、距離を稼ぐ、数を増やす。
(ア)を「過電圧」とすると、以降の対策と噛み合いません——電圧を下げる対策は1つも挙がっていないからです。
がいしの洗浄という対策
| 方法 | 内容 | 使う場面 |
| ★活線洗浄 | ★充電したまま純水を噴射する | ★台風接近前・定期 |
| ★停止洗浄 | ★停電させて洗う | ★点検時 |
活線洗浄では純水に近い水を使います——導電率が高いと逆に閃絡するからです。
洗浄は一時的な対策——また塩分が付けば繰り返す必要があります。
だから根本的には、がいしの選定で対応します——耐塩がいしや長幹がいしです。
がいしの材質
塩害対策には、材質を変える方法もあります。
| 材質 | 特徴 | 塩害 |
| ★磁器 | ★最も一般的・機械的に強い | ★表面に塩分が付く |
| ★ガラス | ★破損が目視で分かる | ★磁器と同様 |
| ★ポリマー(シリコーンゴム) | ★★軽量・はっ水性がある | ★★強い |
ポリマーがいしは、材質そのものがはっ水性を持ちます——塗布しなくても水をはじくのです。
しかも軽いので、鉄塔への負担が減ります——磁器の3分の1程度。
近年は採用が広がっています——塩害地域では特に有効だからです。
ただし紫外線による劣化があり、寿命の見極めが課題——磁器なら数十年もつのに対して。
塩害による事故の実例
塩害は実際に大規模停電を起こしてきました。
| 年 | できごと |
| ★1949年 | ★台風による塩害で広域停電 |
| ★1977年 | ★★台風9号で関東一円が塩害停電 |
| ★以後 | ★耐塩がいしの採用と洗浄体制の整備 |
台風は海水を巻き上げて内陸まで運びます——普段は塩害と無縁の地域でも起きるのです。
しかも台風の後は湿度が高く、雨も止んでいることが多い——塩分が溶けて洗い流されない条件がそろいます。
だから台風の通過後に事故が集中する——接近前の洗浄が重要になる理由です。
1977年の経験から、対策が体系化されました——汚損等級の設定もその1つになります。
まとめ

| (ア) | 漏れ電流(塩分+湿気で発生) |
| (イ) | はっ水性物質の塗布(シリコーン) |
| (ウ)(エ) | 直列に増結・漏れ距離を長く(過絶縁) |
| (オ) | 長幹がいし(雨洗効果が高い) |
| 答え | (1) |
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