電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目で頻出の直流電動機の電機子回路。本記事では、平成24年度 A問題2で問われた、始動抵抗を切り換えたときの電機子電流を求める計算問題を解説します。
カギは電機子回路の方程式 \( V=E+I_a(R_a+R_s) \)。始動直後は回転前なので逆起電力 \( E=0 \)、切換え時は回転速度が一定なので \( E \) は変わらないという2点を使えば、3ステップで解けます。
平成24年度 機械科目 A問題2:問題文と選択肢
場面ごとに逆起電力がいくつになるかを追いながら進めます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成24年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題2
電験3種 機械科目 【直流機】 平成24年度 A問題2
直流他励電動機の電機子回路に直列抵抗 0.8 [Ω] を接続して電圧 120 [V] の直流電源で始動したところ、始動直後の電機子電流は 120 [A] であった。電機子電流が 40 [A] になったところで直列抵抗を 0.3 [Ω] に切り換えた。インダクタンスが無視でき、電流が瞬時に変化するものとして、切換え直後の電機子電流 [A] の値として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
ただし、切換え時に電動機の回転速度は変化しないものとする。また、ブラシによる電圧降下及び電機子反作用はないものとし、電源電圧及び界磁電流は一定とする。(1) 60 (2) 80 (3) 107 (4) 133 (5) 240
出題のポイント:3つの場面で E がどうなるかを追う
始動抵抗の切り換え問題は、「そのとき逆起電力 E はいくつか」を場面ごとに書き出せば必ず解けます。本問には3つの場面が登場します。
| 場面 | そのときの E | 根拠 |
| ①始動直後 | E=0 | まだ回転していない(n=0)ので E=kEφn=0 |
| ②電流が40 A に減ったとき | E=80 V(計算で出す) | 回転が上がったぶん逆起電力が発生している |
| ③抵抗を切り換えた直後 | E=80 V のまま | 「切換え時に回転速度は変化しない」= n が動かない ⇒ E も動かない |
③が急所です。問題文の「切換え時に電動機の回転速度は変化しない」と「インダクタンスが無視でき、電流が瞬時に変化する」という2つの但し書きは、あわせて「E は据え置きのまま、抵抗だけが変わり、その結果として電流だけが跳ね上がる」という状況を作っています。

問題の解説:Ra → E → Ia の3ステップ
STEP1 始動直後(E=0)から電機子抵抗を出す
静止しているので120 V がまるごと抵抗にかかっている。
電源電圧÷始動電流。
直列抵抗0.8 Ω を引くのを忘れない。ここが以降ずっと効いてくる。
STEP2 電流が40 A に減った時点の逆起電力を出す
抵抗はまだ0.8 Ω のまま。合計1.0 Ω に40 A で40 V。
端子電圧の2/3 まで E が育った状態。
STEP3 抵抗を0.3 Ω に切り換えた直後の電流
速度が変わらない=E が変わらない。分子の40 V は据え置き。
合計抵抗が1.0→0.5 Ω と半分になったので、電流はちょうど2倍。


選択肢を逆算する
この問題の分子(V−E=40 V)は変わらず、分母の合計抵抗だけが変わります。誤答はすべて「分子か分母のどちらかを取り違えた値」です。
| 選択肢 | そう出る計算 | どこで間違えたか |
| (1) 60 | 40×(0.3/0.2)=60 | 抵抗の比を逆向きに使った |
| (2) 80 | 40/(0.2+0.3) | 正解 |
| (3) 107 | 40×(0.8/0.3)=107 | Ra を無視して直列抵抗の比だけで換算した |
| (4) 133 | 40/0.3=133 | 電機子巻線抵抗0.2 Ω を足し忘れた |
| (5) 240 | 120/(0.2+0.3)=240 | E=80 V を引き忘れた(始動時の式のまま使った) |
(5)240 は物理的にあり得ません。始動電流ですら120 A だったのに、回転が上がってから240 A も流れることはありません。「答えは元の40 A より大きく、始動電流120 A より小さいはず」と範囲を先に決めておけば、(3)(5)は即座に消せます。
(4)133 も同じ理由で怪しいと気づけます。始動電流120 A を超えているからです。抵抗を減らしたとはいえ、逆起電力80 V が味方しているので、始動時より大きな電流にはなりません。
なぜ「抵抗が半分だから電流が2倍」になるのか
この問題の数値は合計抵抗がちょうど 1.0 Ω → 0.5 Ω と半分になるように作られています。分子の V−E=40 V は変わらないので、電流はきれいに2倍。40 A → 80 A です。
ただし「直列抵抗が0.8→0.3 Ω だから、電流は0.8/0.3=2.67倍」ではありません。電機子巻線の0.2 Ω が常に回路に残っているので、合計で見ると 1.0→0.5 の2倍にしかならないのです。これが誤答(3)107 の正体です。
| 切換え前 | 切換え直後 | |
| 直列抵抗 Rs | 0.8 Ω | 0.3 Ω |
| 電機子巻線抵抗 Ra | 0.2 Ω | 0.2 Ω(変わらない) |
| 合計抵抗 | 1.0 Ω | 0.5 Ω(半分) |
| 逆起電力 E | 80 V | 80 V(変わらない) |
| V−E | 40 V | 40 V(変わらない) |
| 電機子電流 | 40 A | 80 A(2倍) |
| トルク T ∝ Ia | 基準 | 2倍 |
電流が2倍になればトルクも2倍(磁束は界磁電流一定なので変わりません)。抵抗を切り換える目的はトルクを回復させて加速を続けること——始動抵抗器はこの操作を何段も繰り返し、最後に抵抗をゼロにします。
始動抵抗がなぜ必要か、数字で確かめる
もし始動抵抗を入れずに120 V を直接つないだら、静止状態では E=0 なので Ia=120/0.2=600 A。この機械の運転電流は40 A 程度ですから、実に15倍です。巻線が焼け、整流子には激しい火花が飛びます。
本問の始動抵抗0.8 Ω は、この600 A を120 A(定格の3倍程度)まで抑えるために選ばれています。始動電流を定格の1.5〜2.5倍程度に収めるのが一般的な設計目安で、そのために必要な抵抗値を逆算するのが始動器の設計です。
⏱️ 本番での進め方
① 場面ごとに「E はいくつか」を先に書く。①0/②計算/③②のまま。
② V=E+Ia(Ra+Rs) を括弧つきで書き、Ra を落とさない。
③ 切換え後は分子(V−E)が据え置き、分母だけが変わると気づけば割り算1回。
④ 検算より先に「40 A より大きく120 A より小さい」と範囲を決める。それだけで3肢消える。
💡 覚え方
始動抵抗の問題は「そのとき E はいくつか」だけ。静止=E は0/速度が変わらない=E は不変。切換え後はV−E が据え置きで、合計抵抗だけが変わるので、電流は合計抵抗に反比例する。電機子巻線抵抗は常に回路に残っているので、直列抵抗の比だけで換算してはいけない。
⚠️ よくある間違い
直列抵抗の比 0.8/0.3 で換算するのが最頻の誤り(→(3)107)。合計抵抗で考えると 1.0/0.5=2倍です。もう一つはE を引き忘れる(→(5)240)誤りで、これは始動電流120 A を超えるという物理的な矛盾ですぐ気づけます。

コメント